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2 出来事を考える

美術鑑賞が苦手だという人の話を聞いていると,絵を漠然とした全体的な印象だけで見ている人が多いようです。細部の描写の話をすると,「えっ,そんなものが描いてあったのですか」と初めて気づかれることも少なくありません。

高知県立美術館の,シャガールの《路上の花束》を見てみましょう。

この絵には,画面中央いっぱいに花束の入った大きな花瓶が描かれています。下辺全体に広がる道を挟む街の建物が,極端な遠近法で描かれ,背景となっています。夕焼けでしょうか,空が赤い。右には正装した紳士が描かれていますが,なぜかひっくり返っています。花束の花瓶と紳士は何か関係があるのでしょうか。

ではこの絵を鑑賞した10歳の女の子に,この絵について話してもらいましょう。

「ニワトリがこの青いお店に来たところで,このニワトリはこの店に卵を売りに来たところです。この店は卵屋なの。」

左の青い建物の入り口にとても小さな,花束の千分の一ぐらいの大きさでニワトリが描いてあります。このニワトリに気づく人は少ないでしょう。絵の全体を漠然と見ているので,目に入っても,それと認識しないからです。

しかし,大切なことは,このニワトリは確かに作者が描いたものだということです。写真を撮ったら,たまたま画面の端に小さなニワトリが写り込んだというわけではありません。このニワトリはシャガールがそこに描いたのです。つまり何らかの意図があって描いたということです。この少女はニワトリに気づいただけでなく,ニワトリと青い建物の関係を考えました。それが卵を売りに来たというお話になりました。

前回はモネの《睡蓮》に陶酔する数学者の話をしましたが,画面を漠然と眺めて陶酔に浸るような見方をすれば,この絵のニワトリは目に入っても認識できなかったかもしれません。

この少女のように,探索的に絵を見ることが大切です。絵のなかに何が見えるかを観察し,この絵は何についての絵なのか,どんな出来事が起こっているのかを考えることが鑑賞を深める手がかりになります。

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『風神雷神はなぜ笑っているのか 対話による鑑賞完全講座』 (上野行一 著)