学習指導要領の方向性

学習指導要領を読み解く

元帝京科学大学教授 上野行一

1.改訂の基本方針

令和3年度から全面実施の中学校学習指導要領は大幅な改訂が行われた。グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、急速な社会変化が予測される新しい時代では、伝統や文化に立脚し、高い志や意欲をもつ自立した人間として、他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていく力が必要とされている。

そのためには教育のあり方を変える必要があり、特に学ぶことと社会とのつながりを意識し、「何を教えるか」という知識に加えて「どのように学ぶか」や「どのような力が身に付いたか」という学びの質や深まりを重視する方向に舵が切り替えられた。

総則では教育課程全体に関わる事項として、生徒に生きる力を育むことを目ざすに当たって、

  1. 知識及び技能が習得されるようにすること。
  2. 思考力、判断力、表現力等を育成すること。
  3. 学びに向かう力、人間性等を涵養すること。

の3点を学力の三要素として掲げている。その実現のために、組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図ること(カリキュラム・マネジメント)や、教科横断的な視点に立った資質・能力の育成等が示されている。また、教育課程の実施に関しては、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」が求められている。

これらの基本方針を踏まえて、美術科の目標や内容が改訂されたその趣旨を理解し、授業のあり方を考え、授業改善を行う必要がある。また、「地域の図書館や博物館、美術館、劇場、音楽堂等の施設の活用を積極的に図り、資料を活用した情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実すること」が、授業改善のための配慮事項として総則の中で明示されたことにも注目しておきたい。なお、美術科の授業時数は変わっていない。

2.目標について

美術科の目標は、

表現及び鑑賞の幅広い活動を通して、造形的な見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

と改められた。平成20年度告示の学習指導要領(以下、現行版)の目標では「美術」と表記されている箇所を、「生活や社会の中の美術や美術文化」と改め、美術科で育成する資質・能力が生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力と明記されていることに留意して、今後の学習指導のあり方を考えなければならない。

3.各学年の目標及び内容について

各学年の目標及び内容の項目は、「1 目標」「2 内容」のあとに「3 内容の取扱い」が新設された。

「1 目標」に関しては、各学年の三つの目標が学力の3要素に沿って設定されている。(1)に知識及び技能に対応する目標として、造形的な視点の理解や表現方法の工夫に関する目標を置き、(2)に思考力、判断力、表現力に対応する目標として、主題の生成と発想・構想、美術や美術文化に対する見方・感じ方に関する目標を置き、(3)に「学びに向かう力と人間性」に対応する目標として、心情と態度に関する目標を置いている。

「2 内容」について、「A 表現」に関しては、平成20年度版では絵や彫刻等に表現する活動とデザインや工芸等に表現する活動という具合に、表現領域別に構成されている。これを改めて、

  1. 表現の活動を通して、次のとおり発想や構想に関する資質・能力を育成する。
  2. 表現の活動を通して、次のとおり技能に関する資質・能力を育成する。

と、表現領域を越えて育成する資質・能力の視点でまとめられた。

「B 鑑賞」についても、

  1. 鑑賞の活動を通して、次のとおり鑑賞に関する資質・能力を育成する。

と、育成する資質・能力の視点で示されている。

〔共通事項〕については、若干の字句の修正に留められている。

新設された「3 内容の取扱い」では、例えば平成20年度版では「B 鑑賞」の内容として示されている「日本の美術の概括的な変遷などを捉えること」や、「作品などについて説明し合う」や「自分の価値意識をもって批評し合う」学習活動などは内容から外され、「3 内容の取扱い」に移されている。

なお、目標に示されている「造形的な見方・考え方」については、学習指導要領解説(美術編)で以下のように定義されている。

造形的な見方・考え方とは、美術科の特質に応じた物事を捉える視点や考え方として、表現及び鑑賞の活動を通して、よさや美しさなどの価値や心情などを感じ取る力である感性や、想像力を働かせ、対象や事象を造形的な視点で捉え、自分としての意味や価値をつくりだすことが考えられる。今回の改訂では、造形的な視点を豊かにもって対象や事象を捉え、創造的に考えを巡らせる資質・能力の育成を重視している。(第2章 美術科の目標及び内容 p.10)