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Story 6 1年2年はどうでもよろしい。次の世代のことを考えて

鈴木 1000年のスパンで桜の絵を残そうとされている。住んでいる茅葺(かやぶ)きの家も築200年を超えています。その古い家では,佐野家代々の話が祖父から孫へごく当たり前のように伝えられると聞きました。しかし,私も含めて現代人は,1週間とか1か月とか,ごく短い時間の単位でしか物事を考えられなくなっています。藤右衛門さんが長い年月の単位で考えられるというのは,どうしてなんでしょうか。

佐野 それは,桜を種から育てているからなんですわ。種を蒔いてから50年たったとしても,まだ本当の結果は出まへん。大木,喬木(きょうぼく)になって初めて結果がわかりますのや。そやから,1年2年はどうでもよろしい。人間も同じやないですか。わしらの世代では結果がわからないものはいっぱいある。次の世代で結果が出るようにしとけばええ,という考えです。

鈴木 植物を相手にしていると,自然とそういう考え方になってくるんですね。どんなに科学技術が進んだところで,成長に50年かかる木を1年2年で大きくすることはできないですものね。

佐野 そうそう。だから,わしは普通の人よりものんびりした考え方をしますんや。今の人は,目の前の現象からしか物事を考えられんさけ,こういう考え方はわかりにくいんでしょうな。

鈴木 「すぐ結果を出せ」とよく言われますからね。藤右衛門さんのお父さんやお爺さんにしても,次の世代のことを考えて,種を蒔いたり育てたりしていたんですね。

佐野 今は大きくなった桜も,親父から「これはおじいが接ぎ木をしたもんやで」などと言われて一緒に過ごしてきましたからね。わしの息子も同じように見聞きして,育ちました。今は孫が一緒に仕事をしていますが,そうやって受け継がれていくんですわ。

鈴木 米寿を迎えられた今でも親方として,植木や造園の現場に立っているそうですね。「生涯現役」で好きな仕事に打ち込んでいる藤右衛門さんの姿は,見習いたいものです。今日もまた楽しい話を聞かせていただき,ありがとうございました。

Photo: Shunsuke Suzuki


佐野 藤右衛門[さの・とうえもん]

1928年,京都市生まれ。造園家。植藤造園会長。天保時代から京都の仁和寺に仕えてきた佐野藤右衛門の十六代目。十四代目から三代にわたる「桜守」として,全国各地の名桜の保存に努めている。彫刻家のイサム・ノグチとともにパリのユネスコ本部で日本庭園を造った功績などで,1997年にユネスコから「ピカソ・メダル」を贈られる。京都迎賓館の作庭では棟梁を務め,日本造園学会賞などを受けた。著書は『さくら大観』『京の桜』(いずれも紫紅社),『桜のいのち庭のこころ』(草思社)など。

鈴木 嘉一[すずき・よしかず]

1952年,千葉県生まれ。ジャーナリスト・放送評論家。読売新聞社で文化部主任,解説部次長,編集委員を務め,2012年に退社。1985年から放送界を取材し続け,現在,放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会委員,日本民間放送連盟賞審査員,放送批評懇談会理事などを兼ねる。著書は『大河ドラマの50年』(中央公論新社),『桜守三代 佐野藤右衛門口伝』『わが街再生――コミュニティ文化の新潮流』(いずれも平凡社新書),『テレビは男子一生の仕事 ドキュメンタリスト牛山純一』(平凡社)など。