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2 保護者の変容の例

核家族化が進み,人とかかわる機会が減ったのは,子どもたちばかりではありません。子育てに関する知識の伝達さえ,育児書などに頼らざるをえなくなっていきました。その結果,育児書通りに成長しない子どもに対して,不安感を抱く親も増えました。「一日にどのような食べ物を食べさせなければならないか」とか,「手作りでなければ添加物の危険性がある」といった情報に振り回され,その通りにできないことへの罪悪感を覚える母が増えていっているようにも感じます。大家族であったり,地域の先輩たちからの声が届いたりする環境にあれば,もっと安心して子育てができるのにという思いが,頭をよぎります。
こういったマニュアル化の波は,小学生を育てる親たちをも不安にしています。その例をご紹介しましょう。

以前,私は低学年を担任していました。そのクラスに,チック症状を表す子どもがいました。そこで,子どものよさを認めて声かけをしてくれるように,家庭訪問の折に頼んでみることにしました。
「家の中でもほめていただけると,さらに安心して学校生活を送ることができると思います」という私の話を聞くなり,母親は,「先生,いったい一日に何回ほめたらいいのでしょうか?」と質問されました。
運動会や学芸会といった大きな行事のあとにも,家族にほめてもらえなかったと言ってくる子どもが,非常に多くなりました。子どもに好ましい変化があれば,自然とほめ言葉が出てくるといったことが,減ってきているのではないかと気になります。子どもの様子よりも,子育てはこうあらねばならないといった強迫観念のようなものに,縛られているのではないかとさえ感じます。

もうひとつ,保護者のソーシャルスキルの低下を感じさせられた例をご紹介します。
あるとき,保護者会にいらした母親が他の保護者の前で,しかも比較的大きな声で,「先生,うちの子,やっぱり問題があるのでしょうか」と話し始めたのです。私はあわてて止めました。そして,教室の隅に招き,そこで小声で話をしました。
私が教師になってから,20年以上が経ちますが,最近はこのような様子を見かけることがしばしばあります。個人的な話は担任と小声で行うことや,「先生,ちょっとよろしいでしょうか」という言葉をかけて,集団から離れた場所で話すといったことは,当然であると思ってきたのにと驚いています。