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Story 2 教科書の表紙に込めた思い

大野 八生(イラストレーター・造園家)

2015年1月1日 更新

大野 八生 イラストレーター・造園家

このコーナーでは、教科書教材の作者や筆者をゲストに迎え、お話を伺います。教材にまつわるお話や日頃から感じておられることなどを、先生方や子どもたちへのメッセージとして、語っていただきます。

大野さんには、平成23年度版小社「国語」教科書の表紙を描いていただきました。その後、何か反響はありましたか。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

ありましたよ。ふだんはあまり皆さんに「こんなお仕事したよ」ってお伝えしないんですが、友人や親戚の子どもたちが「見たよ」とか「うれしい」とか言って喜んでくれて。今までにないような感じでしたね。

「うちの子どもが新しい教科書をもらってきて、あれ、この絵はなんだか見たことあると思って奥付を見たら、大野さんの名前が載っていたよ」って。わたしがイラストレーターの仕事をしていると知らない方までが気づいてくださって、とてもうれしかったですね。

表紙に使われた10枚の絵は、どんなふうにできあがったのでしょう。

教科書のアートディレクションを担当された緒方修一さんとは、以前から一緒にお仕事をする機会があったんですが、このときもいつものように、そんなに細かい注文がなかったんですね。だからラフをたくさん描いて。人物がメインのものと動物がメインのものと2パターン描いたら、緒方さんや編集部の皆さんが「動物がいいんじゃないか」と言ってくださったので、じゃあ動物にしよう、と。とにかく最初はバーッと何枚も描いて、そこから選んで削っていったという感じです。
光村図書の教科書には1冊ずつ、「かざぐるま」「たんぽぽ」など、タイトルが付いていますよね。ストーリーのある絵にしたかったので、そのタイトルを大げさにならない程度にどこかしらに組み込んだんです。どれも、すごく楽しく描かせていただきました。

平成27年4月から使用される新しい「国語」教科書の表紙も、大野さんが描かれたんですね。

ええ。まさかもう1回描かせていただくとは思ってもみなかったので、本当にびっくりしました。他にもすばらしい絵を描く方々がたくさんいらっしゃるので、お電話をいただいたときに、思わず「他の方のほうがいいんじゃないですか」と言ってしまったくらいです。
でも、自分でやりたいと望んでもできるお仕事ではないので、声をかけてもらえたことがすごくありがたいと思って。前回とは違う世界観で、また楽しく描かせていただけたらうれしいなと、お引き受けすることにしました。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

新しい教科書を手にする子どもたちに、どんなところを楽しんでほしいですか。

今回の表紙もやっぱり、1枚の絵の中にいろいろな小さいお話を盛り込みました。見る子どもたちのイメージに任せたいので、そうきっちりと描き込んではいませんが。表表紙と裏表紙合わせて、さまざまな見方、楽しみ方ができるように工夫したつもりです。
よく見てみると、「あっ、こんなところにこんな動物が!」とか、「おや、ここにも何か隠れている!」とか。そういうちょっとしたストーリーを見つけて、楽しんでもらえたらいいですね。

6年の表紙は、1年から5年の表紙で描かれた動物たちが全て登場する、オールスターバージョンになっていますね。

そうなんです。わたしもそうでしたけど、6年生って、それぞれに好みがはっきりしてきたり自分のやりたいことが見えてきたりする時期だと思うんです。中学校や高校に進むと考えが変わったり、「やっぱり無理かな」と思ったり。そういうことを繰り返しながら大人になっていくわけですが、この年頃にしかない「自分はこれが好きだ」っていう直感のようなものをずっともち続けていってもらいたいなと、そんなふうに思って、音楽や読書やスポーツ、いろいろな興味や関心をそれぞれの動物に託して絵にしました。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

わたし、ネイティブアメリカンの、「全ての生き物に神様が宿っている」という考え方がとっても好きなんです。彼らは、フェティッシュという、動物や植物をかたどったお守りみたいなものを持っているんですが、それぞれに特別な意味や力があるんです。そんなこともイメージしましたね。
もともと動物が大好きなんです。だけど、庭師の仕事もしているせいか、植物のイメージが強いみたいで、動物を描くお仕事の機会ってあまりないんです。だから今回は、わたしの好きな動物をワーッと挙げて、たっぷり描かせていただきました。

新しい教科書の表紙の中で、大野さんのお気に入りの1枚はどれでしょう。

大野 八生(イラストレーター・造園家)うーん、そうですね……難しい。強いて挙げるなら、ハミングバードがいる3年の下巻でしょうか。あの、実は裏表紙に、こっそりというわけでもないんですけど、オオスカシバっていう蛾の仲間を描いたんです。
以前、ある方が「うちにはハミングバードが本当によく来るのよ」ってお話しされていたんですが、ハミングバードって、日本にはいないんです。実は、オオスカシバも空中で止まりながら花の蜜を吸うので、羽の動かし方なんかが、本当にハミングバードにそっくりなんですね。だからそのとき、「あっ、絶対これを見たんだな」とピンと来ました(笑)。本州より南に住んでいる人は、きっと一度は見たことがあると思います。
そんな小さな虫や動物もこっそり描いているので、ぜひ探してみてください。

撮影協力

Photo: Shunsuke Suzuki Text: Marie Usuki

大野 八生 [おおの・やよい]

1969年、千葉県生まれ。園芸好きの祖父のもと幼い頃から植物に親しみ、植物に関わるさまざまな仕事を経て造園家として独立。そのいっぽうで、女子美術短期大学卒業後に描き続けてきたイラストが評価され、雑誌・書籍などでイラストレーターとしても活躍中。著書に、絵と文を手がけた絵本『にわのともだち』『じょうろさん』(ともに偕成社)、エッセイ集『夏のクリスマスローズ』(アートン)などがある。

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