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Story 3 植物が教えてくれること

大野 八生(イラストレーター・造園家)

2015年1月1日 更新

大野 八生 イラストレーター・造園家

このコーナーでは、教科書教材の作者や筆者をゲストに迎え、お話を伺います。教材にまつわるお話や日頃から感じておられることなどを、先生方や子どもたちへのメッセージとして、語っていただきます。

造園家とイラストレーターを兼業していてよかったと思うことはありますか。

すごくあります。絵の仕事だけをしていて、部屋の中でずっと描いていたら見えないものがたくさんあったと思います。外に出て感じないと描けない色や季節感といったものを自然の空気から受け取ったり、いろいろなところに出かけていろいろな方とお仕事させていただいたり。造園の仕事があったからできたことです。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

ご自身では何パーセントが造園家で、何パーセントがイラストレーターだと思っていらっしゃいますか。

どうでしょう……たぶん、その季節によってスライムみたいに変形していますね(笑)。1年でいちばん忙しいのは秋から冬にかけてなんですが、夜中ずっと寝ないで描いて、朝から庭仕事という日もあります。皆さん心配してくださるんですけど、そんなに大変じゃないんですよ。
時間配分で苦労することは確かにあります。でも、器用にこなしてしまわないほうがいいと思うんです。庭の仕事も絵の仕事も「丁寧に」ということをいちばんに心がけています。それがもとで、ご迷惑をかけてしまうこともあるんですが。

お忙しいのは秋から冬にかけてということでしたが、大野さんが1年でいちばん好きな季節は、いつですか。

冬です。緑がいっぱいあって花が咲いている季節は、どれも好きですけど、やっぱり冬。何もないようでいて木の枝には花芽も付いているし、植物たちが春に向けて準備しているのを感じられる。そういう庭の骨格が見えてくると、次にやらなきゃいけないこともわかります。

それから、冬は空気が澄んでいるので、自宅で絵を描いていても気分がいいんですよ。なんだか体まできりっとして。外で作業して、自宅に戻って描くっていうのを繰り返すと、もう夏は暑くて、暑くて。

植物に触れる機会のない人も多いと思いますが、大野さんが感じる園芸のおもしろさを教えてください。

植物は、動物みたいに声を出したり目を合わせたりはできないけれど、やっぱり生き物なので、ちゃんとリアクションがあるところでしょうか。ひと鉢でいいから、ゆっくり付き合って大事にしていくと、植物も家族みたいな存在になります。昨日まで何もなかったところに芽が出たり花が咲いたりするのを見ると、こちらの気持ちまでパッと開くようで。もちろん、そこから季節を感じることもできますし。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

お忙しい方も多いかもしれませんが、なんでもいいので気に入った植物をひと鉢育ててみると、「次はこれを育ててみよう」という気持ちが自然にわいてくると思います。もし失敗しても、「枯らしちゃった」と落ち込む代わりに、「何が悪かったんだろう」「水のやりすぎかな」「置き場所かな」って考えるのがいちばん大事。また新しく育てることを繰り返すうちに、少しずつ上手になってくるものです。ちょっと伸びすぎているところをカットしてみたり、枯れているところを取ってあげたり、それだけでも本当に表情が変わるんですから。

植物も生き物だということですね。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

ええ。人間と同じですよ。人を見ていても、この人はすごく元気がよくてヒマワリみたいだなとか、ずっと淡々と幹を育てる木のような人だなとか、あるいはハーブみたいにちょっとスパイスの利いている人だなとか、お付き合いしていくなかでそんなふうに感じることがあります。そういう性格とかだけじゃなく、植物の生きていく姿と人の生きざまはよく似ているなと思います。

例えば、鉢植えの下の穴から根っこが出てきたとしたら、どうしようかって考えますよね。今の鉢では小さいので大きい鉢に植え替えようか。それとも地面に下ろしてあげようか。同じ鉢にいたいんだったら、いったん株ごと外に取り出して根をカットして、土を新しく入れてリフレッシュさせてあげようか。そういう選択肢って、人間にもあることなんですよ。会社を辞めるか、独立するか、それとも今の会社で何か環境を変える工夫をするかっていう場面に当てはまると思うんです。

寄せ植えってご存じですか。いろいろな植物が一緒に植えられていることなんですが、それも人間関係によく似ているなと思います。植物にもそれぞれ個性があります。ミントのように強い勢いをもっていて外まで飛び出しちゃう植物があったり、寄せ植えが苦手で伸び悩んでいる植物があったり。そういう植物は別の鉢に移してあげれば元気に育つんです。とてもシンプルなことです。
それに比べると、人間は言葉が使えて、コミュニケーションの手段がいくつもある。そこが植物とは違うところなんですが、その分、複雑になってしまうのかもしれません。何か迷いがあるときに庭に出てみると、ハッと気づかされることがありますよ。

大野 八生(イラストレーター・造園家)

そういった日々の観察の積み重ねから、「国語」教科書の表紙をはじめとする大野さんの作品が生まれているのですね。

やっぱり植物はいちばん身近にあるものなので、そこから感じることは多いですね。種類もたくさんあって、季節によっていろいろな表情を見せてくれます。お庭からいただいたもの、感じたことというのは本当に大きい。これまで植物をテーマにした絵本を2冊つくったんですが、「この季節の、この植物のことを物語にしたいな」っていうのがまだまだたくさんあるので、ライフワークとして一つずつ形にしていきたいと思っています。

撮影協力

Photo: Shunsuke Suzuki Text: Marie Usuki

大野 八生 [おおの・やよい]

1969年、千葉県生まれ。園芸好きの祖父のもと幼い頃から植物に親しみ、植物に関わるさまざまな仕事を経て造園家として独立。そのいっぽうで、女子美術短期大学卒業後に描き続けてきたイラストが評価され、雑誌・書籍などでイラストレーターとしても活躍中。著書に、絵と文を手がけた絵本『にわのともだち』『じょうろさん』(ともに偕成社)、エッセイ集『夏のクリスマスローズ』(アートン)などがある。

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