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新しい学習指導要領の方向性

改訂学習指導要領「生活」の目ざすところ

前文教大学教授 嶋野道弘

1.時代の要請に対応し,構造化された示し方に

改訂学習指導要領「生活」は,従前の学習指導要領とは示し方が大きく変わっている。

「第1 目標」「第2 各学年の目標及び内容」の示し方は構造的である。また,新たな記述もあって総量が増えている。一般に,示し方(形式)と意図(理念)は密接に関係する。示し方の変更には必然の意図があるはずである。

「第1 目標」は,前文で生活科の趣旨を示し,その実現を目ざすための原理を三つの項目で示している。また,「第2 各学年の目標及び内容」は,「1 目標」で三つの原理・原則を示し,これを受けて,九つの内容は,

[学校,家庭及び地域の生活に関する内容]
[身近な人々,社会及び自然と関わる活動に関する内容]
[自分自身の生活や成長に関する内容]

の三つのまとまりで構成していることを示している。その示し方は構造的である。

このような示し方は生活科新設以来,過去3回のそれとは全く異なっている。その意図は,資質・能力の育成を重視する時代の要請に対応するとともに,生活科の不易としてきた原理・原則を構造的に示そうとしたことにあると思われる。改訂「生活」は,生活科における資質・能力の育成について新たに示し,生活科の特質及び生活科特有の学習内容や学習方法を強調し,教育課程上の生活科の役割を明確にしている。

2.「自立し生活を豊かにしていくこと」を目ざす

改訂「生活」の究極的な目標は「自立し生活を豊かにしていくこと」にあるといえる。

「第1 目標」は,生活科の基本的な性格を表している。その趣旨は,

  • 具体的な活動や体験を通すこと
  • 身近な生活に関わる見方・考え方を生かすこと
  • 自立し生活を豊かにしていくための資質・能力を育成すること

であることを示している。

この場合,特に3点目の「自立し生活を豊かにしていく~」に留意したい。一見,資質・能力の育成が究極的な目標のように捉えられるが早計であろう。何故なら,「何のための資質・能力の育成なのか」という問いを立てれば,「自立し生活を豊かにしていくため」であることが判明するからである。生活科が担う資質・能力の育成は,そのための最重要課題であると言える。

「自立し生活を豊かにしていくこと」は,平成元年に生活科が新設されて以来,一貫して究極的な目標を「自立への基礎を養う」としてきたことと軌を一にしている。「自立への基礎を養う」の文言は改められたが,生活科の基本的な性格は変わっていない。一方,低学年児童においての「自立し生活を豊かにしていくこと」の意味については,今後具体的にしていかなければならない課題である。

3.生活科の特質及び学習内容や学習方法等の特有性の強調

改訂「生活」では,生活科の特質及び学習内容や学習方法等の特有性(以下,特有性)が強調された。このことは目標を実現する学習指導の充実を図る上で意義がある。

「自立し生活を豊かにしていくための資質・能力」の育成については,「第1 目標」に,生活科の特質及び特有性として,

  1. 活動や体験の過程を採ること
  2. 身近な人々,社会及び自然を自分との関わりで捉えること
  3. 身近な人々,社会及び自然に自ら働きかけること

の三つの原理・原則が示されている。

また,育成する資質・能力は,

  1. 自分自身,身近な人々,社会及び自然の特徴やよさ,それらの関わり等の気付き,生活上必要な習慣や技能
  2. 自分自身や自分の生活について考え,表現する
  3. 意欲や自信をもって学んだり生活を豊かにしたりしようとする態度

であることが示されている。

「第2 各学年の目標及び内容」「1 目標」には,生活科の特質及び特有性として,

  1. 学校,家庭及び地域の生活に関わることを通して
  2. 身近な人々,社会及び自然と触れ合ったり関わったりすることを通して
  3. 自分自身を見つめることを通して

の三つの原理・原則が示されている。さらに,「2 内容」では,

  1. 学校生活に関わる活動を通して

というように,九つの内容の全てに「~を通して」と示されている。また,「第3 指導計画の作成と内容の取扱い 2 (3)」では,「見付ける,比べる,たとえる,試す,見通す,工夫するなどの多様な学習活動を行うようにすること」が示されている。

生活科の特質及び特有性を認識することは,自立し生活を豊かにしていくための資質・能力の育成に向けて,児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図る上でも重要である。「第3 指導計画の作成と内容の取扱い 1 (1)」は,「その(主体的・対話的で深い学びの実現を図る)際,児童が具体的な活動や体験を通して,身近な生活に関わる見方・考え方を生かし,自分と地域の人々,社会及び自然との関わりが具体的に把握できるような学習活動を行うこととし」と示している。

改訂「生活」は,生活科の原理・原則を随所に示して,生活科の特質及び特有性を強調している。実施に当たっては,例えば「第3 指導計画の作成と内容の取扱い 2 (4)」で,「コンピュータなどの情報機器について,その特質を踏まえ,生活科の特質などに応じて」と示しているように,生活科の特質及び特有性の具現が問われることとなる。

4.低学年の教育課程の編成と生活科の役割の重視

生活科の特質及び特有性が強調されたことは,生活科の役割についての理解を図り,低学年の教育課程を編成する上でも大きな意義がある。

「第3 指導計画の作成と内容の取扱い 1 (4)」には,「他教科等との関連を積極的に図り,指導の効果を高め,低学年における教育全体の充実を図り,中学年以降へ円滑に接続できるようにする」こと,「特に,第1学年入学当初においては,幼児期における遊びを通した総合的な学びから他教科等における学習に円滑に移行」することが示されている。

学校段階等間の接続や教科等間の関連について,「第1章 総則」の「第2 4(1)」には,「低学年における教育全体において,例えば生活科において育成する自立し生活を豊かにしていくための資質・能力が,他教科等の学習においても生かされるようにするなど,教科等間の関連を積極的に図り,幼児期の教育及び中学年以降の教育との円滑な接続が図られるよう工夫すること。特に,小学校入学当初においては,(後略)」と示されている。

生活科は低学年における教育の中核的な役割を担う重要な位置付けがされている。低学年の教育課程の編成と実施に当たって,これを等閑に付すことはできない。


時代は変わり,時勢は流動し,それによって人の生き方も変わる。何をどのように学び,どのような学力を身に付けさせるかは,その時代ごとの古くて新しい課題である。学習指導要領の前文には「必要な学習内容をどのように学び,どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら」と謳われている。生活科の目標,内容,特質及び特有性を認識し,改訂「生活」の実現に向けた取り組みが期待される。

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