シーズン・インタビュー

2010年秋 本川達雄

『生き物は円柱形』 本川達雄

 このコーナーでは、さまざまな分野で活躍されている方をゲストに迎え、3回にわたってお話をうかがいます。

 今回は、生物学者の本川達雄先生に、生物界のおもしろさ、ユニークな発想の源泉などをお聞きしました。

第3回 「じっくり見たら、見えてくる」

今、いちばん興味を持たれていることは、どんなことですか。

「ウニはどうやって歩くのか」
  「ウニはどっち方向に歩いて行くのか」

とってもシンプルな疑問でしょ。もうすぐわたしも定年ですから、シンプルで金のかからない研究をしたいと思い、数年前から取り組んでいます。
  今の科学って、金がかかるんですよ。でも、このウニの研究は、水槽と紙と鉛筆、家庭用のビデオカメラさえあればいい。大学を離れても、年をとっても研究を続けられます。

ウニって歩くんですか。

本川達雄

歩きますよ。ウニは棘を用いて歩きます。つまり「足」が百本近くもあるんです。でも「ウニがどうやって歩くのか」は、実は誰もきちんとは知らないんです。
 ウニの本を書こうと思ったとき、ウニは“動物”なんだからどうやって動くのかから書き始めようと思って文献を調べたんです。
  ところが、ウニの歩行について書かれたいちばん新しい論文は80年前のもの。当時、ビデオなんてないから、詳しいことは何もわかりませんでした。
 ウニって丸い形をしていて、下の面、つまり地面に接する面の中央に口があります。肛門は上の面の真ん中。ふつう、生物は口のある方を前にして進みますが、ウニは違っていて、どっち方向に歩くのか定まっていないと言われていました。

ところが良く調べてみるとあるんですよ、これが。
  ウニがどっち方向に行くか、それがわかってなんになる、と言われればそれまでですがね(笑)。でも、ウニにとっては、とても重要な問題です。

21世紀なんだから、結構なんでも私たちは知っているだろうと思っているけど、解明されてないことの方が多いんですよ。よくわかっている動物なんて、ほんの数えるほどです。
 今、ウニの歩き方の話をしましたが、ぼくら人間だって、歩いているとき、足のどこの筋肉がどう縮んで、どう伸びているのかさえ、きちんとはわかっていないんです。
 ただし、筋肉を作っているタンパク質の分子はどうなっていて…なんてことは非常によくわかっています。
 つまり、現代の生物学では、分子の働きがわかれば、それを“わかった”というんです。実際に筋肉がどう縮んで、骨がどう動いてというような、目に見えるようなことは高級なことではなく、あまり知らなくてもいいことのようですね。
 目に見えないものの方が高級なんです、遺伝子とか素粒子とか。最先端の科学はみな、そういう高級なものを研究します。
 だから理科離れになるんですね。見えなければイメージは湧きません。子どもたちはついていけません。大人だって一般人にはついていけません。
 最先端の研究も大切ですが、目に見えることで納得させられる研究も、やはり大事にしないといけません。そういうものは、テーマをうまく選べば、学校の先生方にもできますし、小学生だって不可能ではない。とくに、自然に意味を読み込み、「How」ではなく「Why」と問える、生物を対象とした研究は、教育という意味でも、大切な研究分野だと思います。

ウニやナマコから、われわれが学ぶことがあるとおっしゃっていますね。

ウニもナマコも同じ仲間、棘皮動物の仲間です。この仲間は、眼や鼻のような、まとまった感覚器官をもたない、脳がない、ゆっくりとしか運動しない、エネルギー消費量が極端に少ない、という共通点があります。
 わたしたち人間って、この正反対でしょ。そして車やコンピュータを発明して、この傾向に、さらに拍車をかけています。エネルギーは使い放題。そこで環境問題が出てくる。資源も枯渇する。
 もうちょっとウニやナマコを見習った方がいいと思いますね。彼らは省エネの達人ですよ。
 動物学者は、自分が研究している動物に似てくるといいます。わたしは、ナマコになり切ることもできませんが、余計なことはしない省エネ生活を目指そうと思っています。

子どもたちへ、メッセージをお願いします。


 とにかく、「じっくり」つきあうことをお薦めします。自然とのおつきあいもそうですし、本とのつきあいもそうです。
 動物はたいてい隠れています。チラッと見ても何も見えないから、つまらなく感じるかもしれません。でも、じいーっと見ていると、いろいろと見えてきますよ。それに、特別のことが見えなくてもいいんですね。ずーっと寝転んでいるライオンに、ずーっとつきあっている。暇だなあ、という実感も大切です。
 動物園に行っても、「あっ、これ知ってる」「あれも知ってる」「じゃ、次にいこう」というのではなく、何か今日の一匹を決めて、それをじーっと見続けていれば、何かが得られるはずです。

本川達雄

テレビの動物番組なんて、ものすごい時間をかけ、撮影中は虫に食われ雨に降られ、大変な苦労をして撮ったものです。そのいいとこだけを集めて短時間で見せてくれている。現実の世界はあんなものではありません。あれで知った気になった世界は、やはり借り物の世界です。
 苦労して時間をかければ、自分にとって、大切なものになる。嫌いなものでも、なんとか苦労してつきあっていけば、それも自分にとってかけがえのないものになります。
 本だって、ちょっと読んでつまらないからやーめた、ちょっといやなことが書いてあるからやーめた、ではなく、じっくり最後まで読み通して欲しいですね。

最後に言っておきたいこと。
 「テレビを見るのはほどほどにしようよ!」
 番組の内容がどうのこうのという話ではありません。あのテレビのせわしないテンポが問題なのです。あれでは、まとまって物を考えることはできません。本当に大切なことを相手にするのには、時間がかかります。じっくり取り組み、じっくり考えなければならないのです。テレビの時間に、知らずしらずに自分の思考の時間が同調してしまうのは、恐ろしいことですよ。

本川先生のミニ“ウニ” 講座


本川達雄

これは、なんていうウニですか?

ガンガゼです。この棘は刺さります。痛いですよ。(手をか ざすと針(棘)を振り動かす)

見えているんですか?

ウニには、目はありません。でも体全体が明暗を感じます。手の影を感じて棘を動かしているんです。

振り動かすのには、何か意味があるのですか?

魚に対する防衛です。モンガラカワハギなどは、ガンガゼを襲って食べます。でも棘があるから、頭から突っ込んでいって噛みつくわけにはいきません。

 そこで魚は、ガンガゼの棘の一本を口でくわえて、泳いで水面近くまで運んでいって、そこでガンガゼを離します。運悪くガンガゼが、口を上にして着地すると、その部分に魚は食らいついて、食べてしまいます。口のまわりの棘は短くてとがっていませんから、無防備なんすね。
 こうならないように、魚が上から襲ってくると、その影を感じてガンガゼは棘を振り動かします。棘を早く動かすと、魚はくわえることができないから、安全なんですね。

本川達雄

本川達雄[もとかわ・たつお]

本川達雄

1948年、宮城生まれ。東京工業大学教授。生物学者。
  ナマコやウニ、ヒトデなど棘皮動物の研究をするかたわら、“歌う生物学者”としても知られ、高等学校で習う生物学の内容を70曲の歌にした『歌う生物学 必修編』など発行。
  現在使用されている光村図書の小学校国語教科書2年に説明文「サンゴの海のいきものたち」を執筆している。
  著書に『ゾウの時間ネズミの時間』『サンゴとサンゴ礁のはなし』(中公新書)、『世界平和はナマコとともに』『「長生き」が地球を滅ぼす』(東急コミュニケーションズ)ほか多数。

福音館書店のホームページでは、「生き物は円柱形」をテーマに本川先生が作詞・作曲し、自ら歌う「ひらたいてのひら」「円柱絵かきうた」「円柱なかま」を聴くことができます。

◆本川研究室のホームページはこちら。

同じ内容をPDFでご覧いただけます。

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