「特別の教科 道徳」基本のき

小学校では平成30年4月から,中学校では平成31年4月から,「特別の教科 道徳」がスタートします。道徳に関する素朴な疑問に,「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編(平成27年7月)」 作成協力者の富岡栄先生(高崎健康福祉大学特任教授)がお答えします。

富岡

第2回これからの道徳授業は,どこが変わるの?


教科化されて変わること

教員——前回,道徳の授業は「自分のこととして受け入れることが大切」というお話がありましたが,そのためにはどんな指導を行えばいいんでしょうか。

富岡富岡いくつかの方法が考えられますが,例えば,「問題解決的な学習」や,「体験的な学習」を取り入れていくこともあると思います。

教員——道徳科における,「問題解決的な学習」や「体験的な学習」って,具体的にどのようなものですか。

富岡富岡「問題解決的な学習」とは,例えば,読み物教材を読んだとき,教師が「○○についてどう思う?」と発問するのではなく,道徳的な問題を主体的に見つけさせる。この教材で問題になっていることは何なのか,子どもに問いを立てさせるんです。また,子どもたちが疑問に思うことをピックアップして授業を進めるとか,子どもの発言をもとにしながら授業を展開していくのもいいでしょう。

教員——子どもに任せてしまっていいんでしょうか。

富岡富岡もちろん,教師もあらかじめさまざまな発問を想定しておきます。そのうえで,子どもが問いをもてるように授業を進めることが大切です。

教員——授業のねらいとは異なる意見が出たときは,どうすればいいんですか。

富岡富岡道徳の授業に正答はありませんが,ある程度望ましい考えというのはあります。授業ですから,その1時間の授業でねらいとしている道徳的価値があるわけです。ねらいとは異なる価値を把握する子がいた場合,授業評価としては低くなってしまいますが,別の道徳的学びがあるんだったら,それは認めてあげないといけないですね。子どもたちは,それぞれがいろんな生活体験をしているのですから,他のことに流れる場合も当然あります。

教員——突拍子もない意見が出たらどうしましょう。とても対応できる自信がありません……。

富岡富岡子どもの意見は,どんな意見でもまずは受け入れることが大切だと思います。でも,授業のねらいも忘れてはいけません。私なら「なるほど,いい考えだね。では,このことについても考えてみようか」などと声をかけますね。そのうえで,授業のねらいに向かうようにしたらよいでしょう。慌てないためにも,子どもがこういう反応をしたら,こうやって対応しようという想定を,できるかぎりたくさんしておくことも大切です。それと,子どもたちがねらいに向かいやすくなるように,板書なども工夫するとよいと思います。

教員——指導案づくり,板書計画は欠かせませんね。でもどのようにつくればよいか……。

富岡富岡心配しなくても大丈夫です! 指導案づくりや板書計画は,毎回つくっていくことで慣れてきますよ。迷ったときは,先輩のものや指導書に掲載されているものを参考にするとよいでしょう。

教員——では,「体験的な学習」とは,具体的にはどのようなものですか。

富岡富岡大きく二つに分けると,まず一つは「体験を想起する学習」です。例えば,「この間,みんなで大縄跳びをやったね。あのとき,どういうことを学んだ?」といった,体験を通しての学習。もう一つは,「授業の中で体験する学習」。例えば,動作化や役割演技です。動作化は,ある程度ストーリーが決まっていて,そのとおりにやるものです。役割演技はもう少し自由度があり,アドリブを入れることができます。動作化や役割演技をしながら,人物の心情について考え,クラス全体で話し合うなどの学習を行うわけですが,最終的には,道徳的価値の自覚というところに行き着かなければなりません。

教員——その道徳的価値を,主体的に捉えていくことが大切なんですよね。

富岡富岡そうです。道徳的価値を主体的に捉えるためには,考えたり,議論したりすることが不可欠なんです。これからは,「考え,議論する道徳」へと転換を図ることが必要なんですよ。

教員——だんだん,道徳の授業のイメージがわいてきました。


道徳の授業を行うとは,どういうことなのか

教員——先生,実はもう一つ大きな悩みがあるんです。

富岡富岡どんなことですか。

教員——私は教員3年目なんですが,教師としても,人間としてもまだまだ未熟だと思うんです。私が道徳を教えるのは気が引けるというか……。

富岡富岡ああ,そういう悩みを聞くことがありますね。自分は道徳的な人間じゃないから,道徳を教えられないんじゃないかって。もしそう思うのであれば,一緒に学びましょう。道徳というのは,学び続けるものではないでしょうか。長年,道徳の授業をやっていると,子どもからどきっとさせられるような意見が出ることがあります。教師の上をいっていると思うような。だから,子どもたちと一緒に,生きた授業をつくっていけばいいのだと思います。
ところで,あなたはなぜ教師になったんですか。子どもが好きとか,子どもを良くしたいとか,そういった思いが根底にあるんじゃないでしょうか。

教員——そうです。そういう思いがあります。

富岡富岡子どもたちを人間的に良くしたいというのは,道徳教育の基本的な理念でしょう。人間形成に大きく関わる教科なので,やりがいがありますよ。

教員——なるほど。重責ですが,何のために教師になったのか,いま改めてわかったような気がします。

富岡富岡道徳副読本に長年にわたって掲載されている「足袋の季節」という教材を知っていますか。

教員——読んだことがあります。おばあさんがくれた優しさのおかげで,主人公は,長い間くじけずに生きてこられた……という話ですよね。

富岡富岡私の場合,ここまでやってこられたのは,道徳をやっているおかげかなと思うんです。私自身,道徳的な人間ではありませんから(笑)。でも,道徳的じゃないから,長年,道徳教育に一生懸命携わってきたんだと思っています。

教員——なるほど。私もそんな姿勢で道徳の授業に取り組みたいと思います。

富岡富岡教師の気のもちようって,子どもに伝わりますからね。共に学び,共に取り組んでいきましょう。

photo: Shunsuke Suzuki

富岡

富岡 栄
(とみおか・さかえ)

公立中学校教諭,管理職として,35年にわたり道徳教育の研究を続けてきた。平成27年3月,群馬県高崎市立第一中学校校長を定年退職。退職後は大学にて道徳教育に関する講座を担当。日本道徳教育学会,日本道徳教育方法学会の評議員を務める。