ヨシタケシンスケさん

インタビュー ヨシタケシンスケさん
(絵本作家)

道徳って,なんだろう

「物事を多面的・多角的に考える」ことが,「特別の教科」となった道徳で重視されています。それを端的に示す教材として,小学校の教科書では,「なんだろう なんだろう」というコラムを設けました。今回は,その作者である絵本作家のヨシタケシンスケさんに,教材に込めた思いを語っていただきました。

Story1「なんだろう なんだろう」ってなんだろう?

教科書のお仕事は初めてだったかと思いますが,執筆のお願いを差し上げたときはどう思われましたか。

最初にご連絡いただいたときは,挿絵を描くのだろうと思ったんですよ。でも詳しくお話を伺ううちに,僕の作家性を尊重してくださっているのがわかって,教材を作るのだと気づきました。しかも比較的自由に描かせていただけるということで嬉しかったですし,やり甲斐を感じる反面,不安にもなりました。教科書に載るということは,最高峰といえるような高い審査のハードルを越えることだというイメージがありましたので。僕の提案が受け入れられるのか,難しかった場合はどう折り合いをつければいいのか,などと考えてしまって。最終的にそうした心配が杞憂に終わり,思い描いたとおりの作品が掲載されたのは,編集者さん,デザイナーさん,皆さんのご尽力のおかげです。

ヨシタケさんご自身は「道徳」という教科にどんなイメージをもっていらっしゃったのでしょうか。

小学校時代の授業を思い返すと,他の授業にはない独特の雰囲気がありましたよね。他教科であれば,「へぇ,そうなんだ,世界ってそうなってるんだ」みたいに「知る喜び」を感じるわけですが,道徳の場合は,「傷つけちゃいけません」「盗んじゃいけません」といった「知っていること」を改めてみんなで確かめ合うんですね。「そんなことわかってるよ」と言うわけにもいかないし,どうすればいいんだろうって思っていた記憶があります。小学生とはいえ,成長する中で善悪の判断みたいなものは身に付いているので,改めてそれを言われることのくすぐったい感じとか,妙に気を使う感じとかが印象に残っています。

今回教科化された道徳は,まさにその「そんなことわかってるよ」を覆そうというもので,授業を通して子どもたちの既成概念を崩し,新しい価値観を作ることが目ざされています。その中で,ご執筆いただいた教材はまさに狙いに沿ったものになりました。これまでの教材であれば「うそはついちゃいけません」と書かれていたかもしれませんが,ヨシタケさんの教材では,男の子に「ついてもいいうそってあるんじゃない?」と語らせています。

道徳といわれるものの目的を挙げるとすれば,自分の力で価値を判断させることだと思うのですね。「こういうとき,僕はどうすればいいんだろう」ということを考える練習をする時間というべきでしょうか。自分の少ない経験や周りの判断を見ながら,自分なりの正解を導き出す。道徳はそのための一つの手がかりだと思うんです。

だから教材もやはり考えるきっかけになるべきだと思っていて,書き手が知っていることを説明したり,ある価値観を押しつけるのではなくて,読んでくれた子どもたちに,「そう言われてみればそうだよな」と思わせる仕掛けが必要だと思うのです。

ただし,その「考える」ということがいちばん難しい。「考える」というのは,自発的,能動的なもので,自分にとってのメリットや理由がないかぎり起こさない行動だからです。「さあ考えて」と言われて,考えられる子どもはいないわけです。だから上手な働きかけが必要になる。バーっと知識を与えて,「じゃあ,君はどうかな」「考えてみよう」の2文でどうにかできるものではないんですね。何かしら考えやすいもの,問いかけができればいいなと考えていました。

ご執筆いただいた教材では,まさに子どもたちに「自分も考えなきゃ」と思わせる仕掛けができていますよね。3年生から6年生まで4作品をご執筆いただきましたが,「『友だち』って,なんだろう。」とか「『しあわせ』って,なんだろう。」といった根本的なことが「これってこういうこと? こういうこと?」と畳みかけて問われています。これだけ作者の考えと子どもがぶつかる教材は他にないと思います。

教科書のいいところは,どんな子でも確実に手に取るというところで,それだけに教科書で何か新しい価値観に触れるということはすごく大事だと思います。その意味で僕は“教科書っぽくない”ことをやったほうがいいだろうと考えていました。子どもたちは親や先生や教科書から学べないことを,絵本やテレビ,自分の体験から学んで,それぞれの人生観を作っていくと思うのですが,僕の絵本を見たときに「あれ,教科書に載っている絵だ」と手に取ってくれて,それがきっかけで他の絵本を読み始める子もいるかもしれない。教科書にしかできないところの一端を担うことで,教科書以外のところにも目がいくきっかけが作れたら,それはそれで一つの成功だと思っています。

photo: Shunsuke Suzuki

ヨシタケシンスケ

1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。
絵本や児童書の挿絵,イラストエッセイなど多方面で活躍。
児童文学雑誌「飛ぶ教室」(光村図書)では,「日々臆測」を連載中。
主な絵本に,『りんごかもしれない』『ぼくのニセモノをつくるには』『もうぬげない』『このあと どうしちゃおう』(ブロンズ新社),『りゆうがあります』『ふまんがあります』(PHP研究所)などがある。