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本を読んで、考える練習をしよう 第2回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年4月24日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第2回 書を持って町へ出よう

画像、「書を持って町へ出よう」で紹介された本の表紙

『秘密基地の作り方』 尾方孝弘/飛鳥新社
『遊び図鑑』 文・奥成達 絵・ながたはるみ/福音館書店
『月刊たくさんのふしぎ 340号 街は生きている』 小山泰介/福音館書店

最近すっかり「空き地」を見かけなくなりました。『ドラえもん』に頻繁に登場する、土管が積み上げてあって、ジャイアンがリサイタルを開く、あの「空き地」です。

私が幼い頃は、そういう手付かずのまま放っておかれた空き地が近所のあちこちにあって、そこに集まって、穴を掘ったり、泥だんごを作ったり、日が暮れるまで遊んだものです。公園のように用意された遊具もなく、校庭のように整備されていない町のスキマ。そこで遊ぶことは、家でも学校でもない自分たちだけの場所をつくり、ゼロから遊びのルールを創意工夫する、自立のための行為でした。

『秘密基地の作り方』は、「町のスキマ」が失われつつある今、自分たちだけの場所をつくる秘訣とその楽しみを存分に紹介してくれる本です。マットレスを立てかけたり、押入れに物を持ち込むだけでも、そこは家の中の立派な秘密基地。隠しごとを推奨するのではなく、独立心と創造性を育んでくれる秘密基地作りを子どもたちと楽しんでみるのはいかがでしょうか。大人が読めば、建築家の著者ならではの空間論としても楽しめる内容です。

そんな秘密基地のまわりにはきっと電気もスマートフォンのような便利な道具もありません。そこで何をして遊ぶかを考えるのは子どもたちの仕事です。30年近く前に刊行され、未だに愛され続ける『遊び図鑑』には800種類もの遊びが紹介されています。そのほとんどは、電気も道具も、もちろんお金もかからないものばかり。陣取りゲームやハンカチ落としなどの古典的な遊びの数々は、何もない空間を、ルールひとつでプレイスペースに変えてしまう喜びを教えてくれるはずです。

スキマが見当たらなくとも、町はよく観察するだけでさまざまな表情を見せてくれる絶好の遊び場です。『月刊たくさんのふしぎ』は町のあちこちにある、経年劣化した壁や日よけ、トタンなどのサーフェイス(表面)の数々を撮影、拡大することで、まるで自然が生み出した美しい模様のように提示してくれる遊び心溢れる一冊です。フィールドワーク、路上観察、抽象芸術。大人が観ればさまざまなキーワードを連想することができるでしょう。しかし本書の本質は、普段見過ごしがちな風景も視点を変えることで、驚くべき表情を見せてくれるという「遊び」の真髄を教えてくれることにあります。

本は部屋の中で読むだけのものではありません。時に子どもたちを外へと誘い、退屈な町の景色を一変させる知恵をあたえてくれるものでもあるのです。

次回は、デザイン感覚を養う絵本をご紹介します。

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