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【授業リポート】中学校国語2年 単元「評論を読む」

2015年9月17日 更新

「君は『最後の晩餐』を知っているか」を使った授業をご紹介。なんと筆者が授業を参観することに!

光村図書の中学校2年の国語教科書には、「君は『最後の晩餐』を知っているか」という、美術に関する評論の文章が掲載されています。実は、宗我部義則先生(お茶の水女子大学附属中学校教諭)が、この教材文の大ファン。2015年9月16日発行の小社広報誌「中学校国語教育相談室 No.78」では「特集 評論を読み、自分の考えをもつ」と題し、この教材を使った宗我部先生の授業をリポートしています。
全7時間の授業となりましたが、なんと第6時で、筆者である布施英利さん(芸術学者・批評家)をお招きすることに。「中学校国語教育相談室 No.78」では、その第6時を中心に授業の模様をご紹介しています。

広報誌「中学校国語教育相談室 No.78」はPDFでもご覧いただけます

ここでは、広報誌の紙面でご紹介しきれなかった第1~5時、第7時の様子を中心にご紹介します。

単元「評論を読む」(全7時間)
宗我部義則先生 × 2年生の生徒 30名

第1・2時 修復後の「最後の晩餐」はどっち?

「君は『最後の晩餐』を知っているか」(2年)は、レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作「最後の晩餐」についての評論です。書いた人は布施英利さん。

「今回は、この文章を読んで、評論の読み方を身につけていきましょう」という宗我部先生の言葉が教室に響き、授業の始まりです。辞書で「評論」という言葉の意味や特色を確かめた後、先生は、「では、どんなことができたら『評論の文章が読めた』といえるだろう」と、生徒たちに問いかけます。そして、グループで話し合った後、生徒たちから出た意見をもとに、

  • 筆者が述べている新しい見方や考え方を読み取ることができる。
  • 筆者が述べていることに対して、「ふーん」でなく「へぇ」と思える。
  • 筆者の考えに対して、自分の考えをまとめることができる。

という学習目標が設定されました。

ここで、先生は教室前方のスクリーンに2枚の「最後の晩餐」の画像を映しながら、生徒たちにこう問いかけました。「みんなが知っている『最後の晩餐』は、どっちだろう? 『最後の晩餐』は、何度も修復作業が行われていますが、1999年に最新の大修復が終了しました。どちらが、その後の絵でしょうか」。

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スクリーンに修復前と修復後の「最後の晩餐」の画像を映す、宗我部先生。写真は修復前。

「色が薄いほう。そのほうが顔がよく見えるから」「いちばん右の人の袖のしわが細かく見えるから、濃いほう」……。生徒たちは、次々に自分の意見を口にします。クラスの意見はおおよそ半数ずつに分かれたようです。第2時までに、教材文を読んで、どちらが修復後の絵かを考え、筆者の新しい見方・考え方が表れた部分に線を引いてくることになりました。

そして最後に、先生からの重大発表です。「なんと、今度このクラスに、筆者の布施さんが来てくれるそうです! みんなの考えを聞いてもらいましょうね」。「ええっ!」という生徒たちの声。教室が驚きと喜びでざわめく中、第1時が終了しました。

第2時。どちらが修復後の「最後の晩餐」か、根拠となる叙述とともに自分の意見を発表していく生徒たち。ここで、先生が言います。「では、種明かし。実を言うと、色が薄いほうが修復後の絵です」。濃いほうを修復後と考えていた生徒たちからは、驚きの声が上がりました。

「どんな修復作業をしたんだろうね。第18段落の2文目に『それまでかびやほこりで薄汚れて、暗い印象のあった絵から』とあります。それはなぜか。一つは、描かれてから500年以上経っているから。もう一つは、第二次世界大戦中、爆撃から守るために泥を塗って埋め、その影響で一気に汚れてしまったからだそうです」。

続けて、修復作業はこれまでに何度も行われてきたこと、過去の修復家たちが絵の具を描き足すうちに、違う絵になってきてしまったこと、最新の修復では、新しい時代の絵の具を丁寧に落とす作業が行われたことを、先生は話して聞かせました。その説明を自分の目で確かめるように、じっと絵を見つめる生徒たち。この後、授業は全文への通読へと進んでいきました。

第3時 筆者は「最後の晩餐」をどう評している?

授業の開始とともに、先生からワークシートが配られました。ワークシートには、「最後の晩餐」の絵と課題が印刷されています。

課題

(1)「最後の晩餐」の絵について――「最後の晩餐」とは?
  描いた人/どこにある?/いつ頃の作品?/大きさは?/簡単に言うとどんな場面?
(2)布施さんの「最後の晩餐」評について
  布施さんは「最後の晩餐」を、どう評しているか。ズバリ述べている表現(言葉や文)を本文中から抜き出してみよう。

先生からの「今日は、グループ学習で進めてもらいたいと思います。課題について、話し合ってまとめてください」という指示を受けて、生徒たちは一斉に机や椅子を動かし、グループ学習に入りました。教室のそこかしこから、生徒たちの活発な話し合いの声が聞こえてきます。

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ワークシートを見ながら、話し合いを進める生徒たち。

話し合いを終えて、課題(1)について全体で確認した後、続いて(2)の確認へと進みます。「『最後の晩餐』の絵に対して、布施さんはどんなふうに評価しているのか。本文中のどこを抜き出しましたか」と、先生。

「第4・16・19段落の『かっこいい。』。かぎでくくっているし、何度も出てくるから、やっぱり重要な言葉なんじゃないか」「第10段落の『心の動きの見本帳』」「『かっこいい』『すばらしい』『衝撃』をまとめて、第19段落の『魅力的』」などなど、各グループの発表が続きます。どの生徒も、筆者の評価の言葉をしっかりと吟味しているようでした。

第4・5時 筆者の考えに対して、自分はどう思う?

これまで読み取ってきた「最後の晩餐」への筆者の評価をもとにして、自分の考えを形成していきます。「そのために、文章に沿って『絵を読み解く』ことをもう少しやりたいと思います。解剖学・遠近法・明暗法、それぞれが指すことを確認します。絵に書き込みをしながら、確かめ読みしていきましょう」と、先生。

スクリーンに、「最後の晩餐」が大きく映し出されます。驚き、失意を表しているのはどの部分か。どの人物がユダか。生徒たちとやり取りしながら、絵で確かめていきます。続いて、スクリーンに映し出されたのは、先生が用意したさまざまな補足資料のスライド。レオナルド・ダ・ヴィンチの手による人体図や骨格・筋肉などのドローイング、飛行機や歯車の構造図です。「すごい……!」。解剖学をはじめとした、レオナルドの数々の研究の成果を、生徒たちは息をのんで見つめていました。

レオナルドの人体図などをスクリーンに映して説明する宗我部先生。

それから、遠近法。先生は、こんな指示を出しました。「ちょっと確かめてみよう。定規を使って、キリストの右のこめかみにあるという消失点を探してみてください」。天井や床、机の端、テーブルクロスのしま模様。生徒たちは、周りの友達と相談しながら、消失点へとつながるいくつもの線を見つけていき、「わあ、どの線も消失点を通るよ!」と、盛り上がります。

そして、クラス全体で明暗法について確認した後、いよいよグループごとに、自分の考えをまとめる時間に入ります。先生から示された論点は、次の3点。これらについて、筆者の考えに共感できるか、疑問に感じることはあるかを、グループで話し合います。ここでまとめた自分たちの考えを、筆者の布施英利さんの前で発表し、聞いてもらうことになるのです。

『最後の晩餐』に線を書き込み、消失点を見つけていく。

■論点1 「最後の晩餐」は、「絵画の科学が生み出した新しい絵」という布施さんの考え。
■論点2 「かっこいい。」とは、どんな点がかっこいいのか。共感できるか。
■論点3 「本当の『最後の晩餐』は、21世紀の私たちが初めて見た」という布施さんの考え。

生徒たちは、話し合いでまとめた考えを、グループごとに発表用のホワイトボードに書き入れていきました。途中、先生が言葉かけをします。「『共感できる・できない』っていう話をするときには、『布施さんはきっとこういう意図で書いたんだと思うんだけど』っていう部分をきちんと指摘したうえで、自分たちの考えを言えるようにしたいね」。筆者の意図を捉えたうえで、それに対する自分の考えをもつ。そのことを促すための先生の言葉です。各グループ、発表の準備を進め、次は、筆者と対面する第6時です。

ホワイトボードに、グループで話し合った内容をまとめる。

第6時 筆者が教室にやってきた!

いよいよ、筆者の布施英利さんを教室に迎えての発表の時間。生徒たちは「筆者の考えに対して自分はどう思うか」を、布施さんの前で堂々と発表していきます。布施さんは、メモをとりながら、真剣に生徒たちの意見に耳を傾けていました。

そして、授業の最後には、布施さんから、生徒たちの疑問や意見をふまえて、授業の講評をいただきました。

第6時の詳細については、9月16日発行の小社広報誌「中学校国語教育相談室 78号」(P4~15)をご覧ください。

広報誌「中学校国語教育相談室 No.78」はPDFでもご覧いただけます

左/教科書に掲載されている写真とは、少し印象の違う布施さん。丸い眼鏡がトレードマーク。
右/生徒たちは、筆者の考えや意図を聞き、自分の考えを深めていった。

第7時 自分の考えをまとめる

単元の最後、これまでの学習を振り返って、絵や評論に対する自分の考えをまとめる時間。一人一人の考えを文章に書く前に、第6時に筆者が話してくれたことの中で印象に残ったことについて、クラス全体で交流します。

「布施さんが、『評論とは、答えを与えてくれるのではなく、問いを与えてくれるものだ』とおっしゃっていて、とても心に残った」、「『自分の目でよく見ること』が何より大事、という言葉が印象的だった」、「『最後の晩餐は新しい絵なのか』という、僕たちの問いに対して、当時はかなり新しい絵だったという説明をしてくれて、納得した」など、生徒たちはそれぞれに、印象に残った筆者の言葉を挙げていきました。

そして、自分の考えをまとめる文章として、先生から提案された書き方は3種類。

  • 著者へのリーダーズボイス……著者に宛てた感想文や手紙のスタイル。
  • 書評……「君は『最後の晩餐』を知っているか」を1冊の本として、評論のおもしろさ、見方の新しさやすごさ、課題に思うことを指摘するスタイル。本の紹介になるように、よさや提案の新しさについて、まだ読んでいない人に向けて書く。
  • 後書き……文章を読み終えた読者に向かって、評論のおもしろさ、見方のよさについて解説したり、評論を味わい直す文章を添えたりするスタイル。

文章には、内容の中心となるタイトルを付けます。「みんなが書いたものは、後日、布施さんにも読んでもらいます」という先生の言葉。生徒たちは、真剣な面もちで取り組んでいました。

※生徒たちがまとめた文章の一部は、「中学校国語教育相談室 No.78」のP13に紹介されています。

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布施 英利(芸術学者・批評家)
「君は『最後の晩餐』を知っているか」(2年)

 

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