メニュー

探求的な学習で
鑑賞を深める

一條 彰子

東京国立近代美術館主任研究員

教育普及プログラムに力を入れる東京国立近代美術館の,学芸員の方にお話を伺いました。

近年,教育普及に力を入れる美術館が増えています。
中でも東京国立近代美術館(東京都千代田区)は,1990年代から美術鑑賞に特化した教育普及プログラムを提供し続けています。1998年より教育普及専門の学芸員を置き,多様な層に美術館活用の促進を図るために多くのボランティアのガイドスタッフを育成しています。今回は,同館の教育普及すべてに関わる学芸員の一條彰子さんに,同館の「学校連携プログラム」と「子ども向けプログラム」を中心にお話を伺いました。

第1回 美術館は子どもたちの能力を引き出す場

2015.08.05

――東京国立近代美術館では,特に学校と連携する「スクール・プログラム」で,どのようにプログラムをつくられているのでしょうか。

一條 基本は,ガイドスタッフによる対話を用いた探究的な鑑賞を中心に構成しています。子どもたちはギャラリートークをきっかけに,作品をよく観察し,さまざまなことを考え,それを話したり友だちの意見を聞いたりします。この「見る」「考える」「話す」「聞く」の循環が生まれるように工夫しているのです。これは,現在の学習指導要領にある言語活動の充実を具体的に取り入れた方法でもあり,視覚的な読解力も養うプログラムです。
ただし,当館のプログラムはセミ・オーダーですので,先生から学習課題や子どもたちの様子などをかなり細かくヒアリングしてから内容を決めています。美術館での学習は,学校での学習とは違います。実物に触れながら,作品の知識だけでなく,観察力や考える力など,子どもたち自身が自分の力を組み合わせて鑑賞を深められる探求的な学習の場だととらえています。

――言葉のやりとりだけで鑑賞を深める難しさもあると思うのですが,何か工夫をされていますか。

一條 特に小学校低学年などの児童の場合は,ギャラリートークの中にアクティビティ(体を動かしたり手を動かす活動のこと)を入れたりします。例えば,クレーの作品を見るときには,カラーチップを使って絵の中の色の発見をしていく、などですね。アクティビティを通して,作品の見方を自然に身につけることができるし,言葉でうまく表現できない子どもが作品や場になじむこともあります。大人でも楽しいツールですよ。今年の春から,未就学児童対象の「セルフガイド プチ」をつくりました。こちらは「まねしてみよう」「かぞえてみよう」といった,その年齢の子どもたちに身近な行動から作品にアプローチできるようにしています。また,ビンゴカードを挟み込んでいて,遊びながら作品に触れられます。小学校低学年の子どもたちにも使えるツールです。

画像,インタビューの様子

左/カラーチップを使うアクティビティのツール。鑑賞ツールは,すべてガイドスタッフとともにアイデアを出し合い,手作りするという。
右/ビンゴカードの説明をする一條さん。「当館の普及活動の特徴は,豊富な実践経験と情報の蓄積とも言えます。それらが新しいプログラムやツールの開発にも生かされています」。

――中学生対象の場合も,何らかの鑑賞ツールを使うことはありますか。

一條 学習課題によって「こどもセルフガイド」(※1)や「アートカード」を使うこともあります。どちらも作品をしっかり観察して考えることを促すものです。鑑賞ツールは,修学旅行などに合わせて小グループ学習で来館する中高生にも使います。

※1 こどもセルフガイド(東京国立近代美術館)

画像,インタビューの様子

「こどもセルフガイド」はQ&A形式。作品を見て考えたことや感じたことを記入できるようになっている。企画展用の「ジュニアセルフガイド」は,中学生くらいを対象にする場合,鑑賞を深めるための文字情報を多くするなど,工夫がされている。

――「スクール・プログラム」で取り上げる作品を選ぶ際に,基準はあるのでしょうか。

一條 当館のコレクション展から作品を選びます。私たちが重視するのは,作品が対象となる子どもたちの「発達段階」にふさわしいかという点です。他館の学芸員と共同研究で制作した「鑑賞教育.jp」(※2)というサイトをご覧いただくと,目安となる作品にどんなものがあるか,わかっていただけると思います。

※2 鑑賞教育.jp

――学校と美術館の連携を考えるときに,両者にとって大切なことはなんでしょう。

一條 美術館の側で大切なのは学校のことを知る,学習指導要領を理解することだと思います。そのうえで,自分たちの所蔵品を使って何ができるかを考えることでしょう。学校の先生たちにお願いしたいのは,「美術館で子どもたちに何を学ばせたいか」を明確にしていただくことです。作品鑑賞を深めさせたいのか,美術館の施設や鑑賞マナーについて学ばせたいのかなど,ここを考えていないと,上手に美術館を使うのは難しいでしょう。

次回(8月下旬アップ予定)は,教師向けのプログラムについてご紹介します。

関連書籍

『エグゼクティブは美術館に集う――「脳力」を覚醒する美術鑑賞』

奥村高明 著 定価:本体1,950円+税 / A5判,192ページ / ISBN978-4-89528-895-8

『風神雷神はなぜ笑っているのか――対話による鑑賞完全講座』

上野行一 著 定価:本体2,500円+税 / A5判,296ページ / ISBN978-4-89528-894-1