みつむら web magazine

第1回 響く声を育てよう

そがべ先生の国語教室

2015年3月31日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第1回 響く声を育てよう

「中学生になると声が小さくなる」とよく言われます。でも、中学生ってたくさん自己主張をしたい時期でもありますし、体の成長の上からも、変声期を越えてよく響く声になっていく時期です。彼らの声を引き出してあげないともったいない。
そのためには、声で伝え合うのが楽しく安心して発言できる学級の風土、それに、大きな声で挨拶したり、しっかり返事したりするのが当たり前の環境を、学年の先生たち、学校全体、そして何よりも中学生たちといっしょにつくっていくことです。それには先生たちの表情や声の明るさも大切ですし、からかいや嘲笑を許さない一貫性も大切です。それが元気な声を育てていく土壌になります。

そういう土壌づくりの一方で、国語の授業では、「ことばの専門教科」の立場から、発声や声の大切さにアプローチしたいものです。わたしの授業開きから、その一端を紹介します。

響く声で話そう!

授業開きは、その年々のいろいろな楽しい工夫をして臨みますが、次の二つのことは必ず話しています。

(1)響く声で話そう!
(2)力のつく国語ノートづくり

今回は、(1)についてお話しします。

「声」はとても不思議です。書いた文字をパッとみても誰が書いた字かわからないことが多いけれど、声は一瞬で誰の声かわかりますね。そして、ちょっとした声の表情の違い、話し方の違いで、言葉のうしろにある、声の主の心まで感じられます。試してみましょう……(と子どもたちにゲームをしてもらいます)

隣どうし二人でペアを組んで、その一人が、「おはよう」と言います。
ただし、あらかじめ次のア・イ・ウのどれか一つの気持ちを決めてから言うのです。

ア うれしい気持ち。何か楽しいことがあったときのように。
イ 悲しい気持ち。何か心配事があるときのように。
ウ 怒った気持ち。親や兄弟とケンカした後のように。

もう一人の人は、相手が「おはよう」と言うのを聴いて、返事をします。ただし、

アの気持ちだと思ったら、「おはよう! 何かいいことあった?」
イの気持ちだと思ったら、「おはよう。どうしたの?」
ウの気持ちだと思ったら、「おはよう。何朝から怒ってるの?」

と、一言添えて返事をするのです。最初に「おはよう」と言った人は、正解なら「正解!」と答えたり、手で○をつくったりして、正解であることを示します。逆にハズレだったら「ブブ-」と口でブザーを鳴らしたり、手で×をつくったりして正解を教えます。

画像、授業風景
「おはよう」の声を聴いて、どんな気持ちか当てて楽しむ生徒たち。

こんなゲームをやりながら、「声って本当に不思議ですね。そして大切ですね。私たちはふだん文字で伝える以上に多くの場面で、声で気持ちや伝えたい内容を伝え合っています。そのとき一番大事なのは、声が相手にきちんと届くことです。よく響く声で、相手に聞こえること。相手に届かない声は、伝えていないのと同じなのです。よく響く声をつくっていきましょう」と話します。

画像、板書例
板書例

声は届けるもの!

もう一つ、声について生徒たちの、そしてもしかすると私たち教師自身の意識を変える必要があるのは、「声は出すものでなく、届けるものだ」ということです。

試しに、「これから私が話している声をよく聴いてください。そして、自分のほうへまっすぐ向いているときと、違う方向を向いて話しているときの声の伝わり方に違いがあるかを感じてください」などと話しながら、生徒たちの前で体を回し、声と体の向きの関係を体験させてみましょう。
自分のほうを向いて話しているときと、よそを向いて話しているときでは、あきらかに、聞こえ方が違います。「自分のほうを向いている」「違う方向を向いている」というのが聞こえ方の違いでわかるのです。

もしも声が「音」なら、音源から同じ距離にいる人には同じように聞こえるはずです。しかし声にははっきりと方向性があるのです。

さらに、一番手前の席の子にしっかりと目をあわせ、体を正対させて話しかけた場合と、その子の頭越しに一番後ろの子に話しかけた場合の違いも感じてもらいましょう。一番後ろの子に話しかけながら、「どう? さっき一番前の○○さんに話しているときと違って、今ははっきり自分に向かって話しかけられているのがわかるでしょう?」と聞きます。一番後ろの子がうなずいたら、「逆に一番前の○○さん、後ろの○○さんに話しかけたとき、声が頭の上を飛び越えていくのを感じられましたか?」と聞いてみましょう。自分に向けられて話しかけられたときと、他の人に向けて話しかけられたときとでは、はっきり違って聞こえるのです。

声は、方向性があるだけでなく、誰に向けて発せられているかもしっかりと感じられるものです。
そんな実感をもてたところで、「声は出すものでなく、聴いて欲しい相手に直接届けるものなのです」と話します。
声は、塊で相手に届けるものなのです。

子どもたちの声が小さく感じたとき、私たちはうっかりすると「もっと大きな声で」と指導します。しかしそれは「大きな声を出せ」という「出す指導」です。
そうでなく、「ちょっと聞き取りにくかったから、もう一度はっきり言ってごらん」というと、声の大きさ自体はそれほど大きく変わらなくても、「聞き取りやすい声」になるものです。「はっきり」というのは「届ける指導」なのです。それができたら「ああ、しっかり聞こえたよ。いい意見だね」と褒めるのも大切です。

次回は、ノートづくりについてご紹介します。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集