メニュー

そがべ先生の国語教室

宗我部 義則

お茶の水女子大学附属中学校教諭

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに,明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校教諭。お茶の水女子大学非常勤講師。国立教育政策研究所「教育課程実施状況調査問題(中学校国語)」作成および分析委員。平成20 年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

第10回 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(2)
「走れメロス」(2年)

2015.12.15

「走れメロス」とそのモチーフになった「人質(シラー作)」を比較して読む授業の続きです。(これまでの流れは,第8・9回をご参照ください。)

第8回 「比べる」ことで「考える力」を引き出す

第9回 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(1)

「走れメロス」を読んだ後に,シラーの詩「人質」を読ませました。そして,「太宰は,『人質』を『走れメロス』へ小説化する際に,相当な書き足しや変更をしていますよね。気づきましたか?」と,生徒たちに問いかけました。

すると,生徒から「書き出しが違う」「『人質』のメロスには寝てしまう場面がない」など出てきました。

そこで,「両者を徹底的に比べて,どんな違いがあるかをリストアップしてみよう」と呼びかけました。生徒たちも夢中になって違いを調べ上げました。実は「メロス」と「人質」には大小さまざまな違いがあります。生徒たちはいろいろな違いを指摘しました。発表の際には,「○○について,『人質』の詩では……だけど,メロスでは……に書き足されている」などと,比べていう言い方を徹底します。次の写真は,生徒たちが気づいた両者の違いをストーリーの展開に沿って描き出したものです。

画像,走れメロスの板書

さて,実は,いろいろな違いに気づきながら,生徒たちはいつの間にか,「なぜ(冒頭の)シラクスの街の場面を付け足したんだろう」「『人質』のメロスの方が英雄っぽい。なんで弱音を吐くようにしたんだろう」「フィロストラトスが,メロスの忠僕からセリヌンティウスの弟子に変更になってる。なんでこんな変更をしたのだろう」と次々疑問があがってきます。比べるといろいろ気づくとともに,疑問が生まれてくるのです。

そこで,「これだけの違いの中から一つ取り上げて,なぜ書き換えたのか,書き換えたことでどんな違いが生まれてくるのか,作者・太宰治と「走れメロス」の謎を解き明かしていこう」と呼びかけました。生徒たちもがぜんやる気になっています。

こうして,同じ疑問,関連して話し合える疑問を選択した生徒どうしでグループを組み,あれこれ話し合いながら解釈をまとめていきました。学習者たちの解釈の例(要旨)を紹介します。

【疑問】

「走れメロス」では,なぜメロスが倒れて眠ってしまう場面を加えたのか。そのことによって,「走れメロス」はどんな話として生まれ変わったのか。

【学習者の解釈(要旨)】

「人質」のメロスは,最後まで強くまさに勇者である。「人質」では人を信じられない王と,人は信じられるというメロスが対決していて,この二人の対立を軸に,人は信じられるかどうかをめぐって話が進んでいく。しかし,「走れメロス」では,メロスは途中で「いっそ悪徳者として生きるか」などと言いながら,走るのをやめてしまう。信じること,信じられることをやめてしまおうとするメロスが描かれている。では,太宰の「走れメロス」で対立しているのは,誰と誰か。絶対にゆるがずに対立しているのは,実は王とセリヌンティウスではないか。王城でこそ王とメロスが対立しているように見えるが,太宰のメロスは走り出す前の結婚式の場面から,戻りたくないと思うなど揺れる人間で,フィロストラトスの言葉の通り,セリヌンティウスこそ,どんなにからかわれてもメロスを信じて疑わない。人は信じられないという王と対立しているのは,メロスは絶対に帰ってくる=人は信じられると考えて揺るがないセリヌンティウスで,メロスはその間(信じられる,信じられないの間)を揺れる弱さをもった人間に書き換えられているのだ。

画像,走れメロスの板書

上の写真はこのグループが説明に使った板書図です。どうでしょうか。こんな解釈が生徒の中から立ち上がって,彼らなりの「メロス論」が確かに立ち上がってきているといえるのではないでしょうか。

「比べて読んで,違いについて解釈して意味づける」……この授業で学習者たちが取り組んだ言語活動です。「比べる」という思考・活動が「読みの力」を高めている様子がうかがえます。 

次回は,読書指導についてご紹介します。

目次

【第1回】 響く声を育てよう <2015.03.31>

【第2回】 力のつく国語のノートづくり <2015.05.11>

【第3回】 話し合い指導(1)―土台固めを大切に― <2015.06.17>

【第4回】 話し合い指導(2)―進行,参加のしかた― <2015.06.29>

【第5回】 話し合い指導(3)―発表のしかた― <2015.07.13>

【第6回】 話し合い指導(4)―考えを可視化する― <2015.09.01>

【第7回】 語彙指導 ―「言葉の宝箱ノート」― <2015.10.13>

【第8回】 「比べる」ことで「考える力」を引き出す <2015.12.02>

【第9回】 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(1)――「走れメロス」(2年) <2015.12.09>

【第10回】 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(2)――「走れメロス」(2年) <2015.12.15>

【第11回】 読書指導――学校図書館と連携して読書に誘う(1) <2016.02.23>

【第12回】 読書指導――学校図書館と連携して読書に誘う(2) <2016.03.01>

【第13回】 国語学習 三つの誓い <2016.04.04>

【第14回】 デジタル教科書で読みを深める(1)――黒板ツールを使って <2016.06.07>

【第15回】 デジタル教科書で読みを深める(2)――黒板ツールを使って <2016.07.25>

【第16回】 デジタル教科書で読みを深める(3)――人物相関図を作る <2016.09.20>

【第17回】 デジタル教科書で読みを深める(4)――全文表示画面を使って <2016.09.28>

【第18回】 古典に親しむ――架空インタビューで読む「平家物語」 <2016.12.05>

【第19回】 古典を楽しむ(1)――「Contemporary Remix 和歌」 <2017.01.20>

【第20回】 古典を楽しむ(2)――「Contemporary Remix 和歌」 <2017.01.20>

【第21回】 古典を深める(1)――「旅に生きる~おくのほそ道~」 <2017.04.13>

【第22回】 古典を深める(2)――「旅に生きる~おくのほそ道~」 <2017.04.18>

【第23回】 説明文の読みの学習をもっと楽しく――「ダイコンは大きな根?」(1年) <2017.05.23>

【第24回】 リレー朗読で読む――「星の花が降るころに」(1年) <2017.08.30>

【第25回】 「対話的な学び」を引き出す――「誰かの代わりに」(3年) <2017.12.26>

目次へ