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第19回 古典を楽しむ(1)――「Contemporary Remix 和歌」

そがべ先生の国語教室

2017年1月20日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第19回 古典を楽しむ(1)
――「Contemporary Remix 和歌」

古典学習シリーズの第2回です。今回は、「古典を楽しむ」をテーマにしてみたいと思います。『万葉集』・『古今和歌集』・『新古今和歌集』の和歌の学習を取り上げてみます。

今年のお正月にも全国の家庭や学校で、百人一首かるたを楽しんだ生徒・先生も多いことでしょうね。古典への導入にはもってこいの伝統文化です。ただ、和歌は、いざ解釈や鑑賞となると中学生には苦手意識をもつ子が少なくないのも一面でしょう。その一方で、恋の心を詠んだり、四季の美しさや生命の輝きを歌ったりして、現代社会に生きる私たちにも共感できる歌もたくさんあります。むしろ、その時空を超えて心に響いてくる共感性の高さこそが「和歌の魅力」といえそうです。
そうであるなら、「ああ、あるある」「ほんとにそうだよね」「わかるなぁ」という共感をおぼえる歌を取り上げて、これが「1000年も前の歌だなんて信じられない!」という感動を共有していくことができたら、和歌の学習はもっともっと楽しく、そして「万葉・古今・新古今」の歌や歌人たちがぐっと身近なものに感じられるようになるはずです。

和歌を現代詩として書き換える

この記事の読者の先生方は、「Contemporary Remix“万葉集”」(光村推古書院)というシリーズ本をご存じでしょうか。「『万葉集』ってクラシックじゃなくてポップスだったんだ、ロックだったんだ。」というコピーで出版され、『万葉集』の和歌を現代詩としてアレンジして写真作品と組み合わせて味わう、そんな楽しみ方を提案している本です。これが今回の授業のネタ本です。

あれこれ説明するよりも生徒作品例をご覧いただきましょう。

画像、生徒作品
作品例1 「秋来ぬと……」(1枚目)
画像、生徒作品
作品例1 「秋来ぬと……」(2枚目)

「秋来ぬと……」の歌の季節の移ろいに気づいた繊細な感情がよく味わえていますね。
この生徒は解説に、「秋がいつの間にかやってくるという寂しさを感じ、『蝉がいない木にそよそよと秋風は吹く』という風の音」でそれを表そうとしたと書いています。最初はもとの歌を書き換えるのに「蝉」は蛇足かと思いましたが、この生徒はきっと「そういえばこの間まで鳴いていた蝉の声が聞こえなくなったなあ」と、生活の中でふと季節の移ろいを感じた経験があるのでしょう。きっと本歌の作者・敏行と時空を超えて響き合ったのだなあと思い、「ああ、そんな瞬間にも夏が終わったのを感じますね」と感想を述べました。嬉しそうな笑顔が印象に残っています。

作品作りをする上での約束は次の四つです。

  1. 古典和歌(『万葉集』・『古今和歌集』・『新古今和歌集』を中心に、百人一首の歌などを取り上げてもよい)を、現代詩化すること。
  2. 1枚目には本歌と現代詩化した作品、氏名を必ず入れること。
  3. イメージに合う写真を撮ったり探したりして組み合わせること。
  4. 2枚目に本歌の鑑賞を含めて、意図や工夫した点などを解説すること。

写真は自分が撮ったものなら最高だけれど、インターネット等でイメージに合うものを探して拝借してもよいことにしました(その場合はサイト名などを作品の解説中に示す)。上の作品は、自分で撮った夕空のお気に入りの写真だそうです。
この生徒の解説の前半部分は、鑑賞用に用意したワークシートの項目をそのまま用いています。

  • 歌の核心……その歌がズバリ表そうとした情趣・感情はなにか(あなたの解釈)
  • 鍵……「歌の核心」がそれだとわかる鍵になる語句・表現(鑑賞の根拠を引用)
  • 直訳……調べてわかった歌の意味(資料に出ていたままでもよい)

この3点をおさえて鑑賞させることで、とんちんかんな解釈のまま現代詩化するのを避けられるように配慮したのです。

他にも生徒たちは、さまざまな作品を作っていました。続きは第20回で。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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