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第9回 みんなが話したくなる「スピーチ」の工夫 ―中・高学年(準備)編―

青山先生の国語教室

2018年2月2日 更新

青山 由紀 筑波大学附属小学校教諭

子どものモチベーションをアップさせる、国語の授業アイデアをご紹介します。

第9回 みんなが話したくなる「スピーチ」の工夫
―中・高学年(準備)編―

前回は、長期休業中のできごとを題材にした、低学年のスピーチの工夫をお伝えしました。今回は、中・高学年向けのスピーチの工夫についてお伝えいたします。

4年の説明文教材「ウナギのなぞを追って」では「要約」について学びます。今回のスピーチは、この「要約」を学びながら、ニュースをテーマにスピーチを行います。

まずは、スピーチの準備のための授業を1時間行います。

―筑波大学附属小学校4年 スピーチの準備のための授業―

青山 教科書(下巻)86ページに、「要約」の説明が載っていますね。要約とは、目的に応じて文章の内容を短くまとめることですが、今回は、クラスのみんなにニュースを知らせるという目的で、新聞記事を要約してみたいと思います。
ところで、ニュースを知らせるって、2年生のときにも日直のスピーチでやったことがありますね。今回は、4年生らしいニュースのスピーチになるようにしましょう。今からそのやり方を説明しますが、みなさん、この1週間くらいの間に、どんなニュースがあったか知っていますか。

(複数の児童が挙手)

児童 たしか今週…、貴ノ岩に暴行した、日馬富士という横綱が引退しました。

青山 このニュース、知っている人はいますか。

(多くの児童が挙手)

児童 そのニュース、けっこう前だよ。

児童 今週じゃない?

青山 今、みんなからは、「たしか今週」とか、「もっと前じゃない」という声がありましたが、ニュースをスピーチするときは、こんなふうにやってもらいたいと思います。

――スピーチ開始(題材にしている新聞記事は、書画カメラで映せるように準備しておく)

青山 2017年10月30日月曜日、毎日小学生新聞に載っていたニュースです。
記事は、毎日新聞の梅村直承記者が撮った写真が、新聞協会賞を受賞したというニュースです。新聞協会賞というのは、この1年間にもっとも優れた報道に与えられる賞だそうです。
それはこのような写真です。(書画カメラで新聞記事を提示)

画像、先生の解説

青山 これが何の写真かわかりますか?

児童 リオオリンピック!

青山 そうです。昨年8月19日、リオデジャネイロ・オリンピック陸上男子400メートルリレー決勝の写真です。日本チームのアンカーを務めたケンブリッジ飛鳥選手が、ジャマイカのウサイン・ボルト選手と競り合っているところです。ボルト選手が思わず「驚き」の表情でケンブリッジ飛鳥選手を見た、わずか0.2秒の一瞬だそうです。その一瞬を逃さずに撮影したのが、毎日新聞の記者である梅村さんでした。
実は、梅村さんは、他の競技を撮影してからこの会場に入ったので、撮影しやすい場所は全て埋まっていたそうです。「大勢のカメラマンが並んでいるところから撮っていては、同じようなものしか撮れない」と思い、ケンブリッジ選手とボルト選手の表情を追いかけることを選んだそうです。自分の他に、毎日新聞の4人のカメラマンが会場にいたため、ゴールの様子は仲間が必ず撮ってくれると信頼していたことから、普通とは違うチャレンジができたのだそうです。

――ここからは感想

青山 梅村さん本人は、ボルト選手がケンブリッジ選手をこんな表情で見ていることは、撮っているときは気がつかなかったそうです。たった1枚の写真ですが、このときのボルト選手の気持ちやケンブリッジ選手の思いなど、いろいろなことが想像できます。また、仲間を信頼して、自分は別の場所で撮影するというチームワークのよさに驚きました。「他の人とは同じことをしない」、「ふつうとは違うチャレンジをする」ということは、私も見習いたいと思いました。

――3分間のスピーチ終了

青山 さて、今のスピーチですが、実はこんな原稿を準備していました。(事前に用意していたスピーチ原稿を児童に配布)

みなさんにも、これと同じ用紙を使ってスピーチをしてもらうので、書き方を見てみましょう。

いちばん左上は準備した日にちです。次に、「◆記事の内容(要約)」、「◆自分の考えや意見、感想」の欄があります。「◆資料名」の欄には、何の資料を使ったのか(新聞名)、新聞の日付、何面の記事なのか、といった情報を書きます。

新聞は1ページ、2ページではなく、1面、2面といいます。

 

画像、スピーチ原稿
青山先生のスピーチ原稿

今回のニュースは、みなさんに見せた1面だけでなく、2面にも関連する記事が載っていましたが、全部読み上げていたら3分で収まりません。ですから、まずは、記事の内容を短く要約する必要があります。要約するときは、自分が伝えやすい言葉に言い直したり、聞き取りやすいように一文を短くしたりすることが必要ですね。そして、自分の考えも入れて、全部で3分くらいになるようにまとめましょう。

最後に、「◆調べたこと」という欄ですが、話題によって、この欄が必要になります。例えば、こんな記事の場合は、いろいろと調べることになるかと思います。
(書画カメラで別の新聞記事を提示)
「隕石が数百キロメートルずれていたら、恐竜は絶滅しなかった?」という記事です。
かつて地球上にいた恐竜は、隕石によって絶滅したといわれていますが、その隕石が落ちてくる場所が少しずれていたら、恐竜は絶滅していなかったのではないか、という内容です。巨大隕石はいつ頃降ってきたのか、隕石ってそもそも何なのかなど、みんなから質問が出るかもしれないので、調べておかないといけないですね。
ここまでで、何か質問はありますか。

児童 新聞記事は、新しいものにしないといけないんですか。

青山 準備に時間がかかると思うので、1か月くらい前のものでもいいですよ。

児童 他の人と同じ記事を選んでしまったら、どうすればいいですか。

青山 いい質問ですね。同じ記事でも大丈夫です。なぜならば、「自分の考えや意見、感想」がいちばん大切なので、ニュース自体は、他の人と同じものでもかまいません。

それでは、今日から準備を始めてくださいね。できた人から順に、来週からスピーチを始めましょう。


授業の冒頭で述べた「4年生らしいニュースのスピーチ」とは、クラスのみんなにわかるようにニュースを要約すること、出典を明確にすること、そして、自分の考えを入れることです。次週より、授業の冒頭に、二人ずつスピーチを行うことにしました。出席番号などの順番ではなく、準備のできた子どもからスピーチを行えば、準備に時間のかかる子は自分のペースでじっくり取り組むことができ、友達のスピーチを聞いてから、自分の原稿を見直すこともできます。また、自宅に新聞がない子どものために、学校で購入している新聞を貸し出せるようにしておきます。クラス全員がしっかり準備できるような環境を整えたら、いよいよスピーチの始まりです。(談)

次回は、児童のスピーチの様子をお伝えいたします。

青山由紀(あおやま・ゆき)

東京都生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。日本国語教育学会常任理事。全国国語授業研究会常任理事。著書に『古典が好きになる』(光村図書)、『板書 きれいで読みやすい字を書くコツ』(ナツメ社/樋口咲子共著)、『子どもを国語好きにする授業アイデア』(学事出版)などがある。光村図書小学校『国語』教科書編集委員を務める。

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