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教科書の言葉 Q&A 第19回

教科書の言葉 Q&A

2016年8月10日 更新

教科書編集部 光村図書出版

教科書にまつわる言葉へのさまざまな疑問について、編集部がお答えします。

第19回 「行う」、それとも 「行なう」? 

Q:「行う」と「行なう」、書籍やネット上ではどちらも見かけますが、どちらの送り仮名が正しいのでしょうか。

現在、小学生が「行」という漢字の「おこなう」という訓読みを学ぶときには、「行う(おこな-う)」と習います。教科書では、「行う」で統一しています(【資料1】【資料2】)。
一般の書籍等での表記においては、どちらも間違いとはいえませんが、現在では「行う」のほうが主流といえるでしょう。

教科書紙面
【資料1】
平成27年度版 光村図書小学校『国語』6年P268

 

教科書紙面
【資料2】
平成28年度版 光村図書中学校『国語』1年P122
「シカの『落ち穂拾い』――フィールドノートの記録から」(辻 大和)

 

この記事を読んでいる方の中には、自分は学校で「行う」ではなく「行なう」と習ったはずだ、という方もいらっしゃるかもしれません。実際に、編集部では、「『行う』『行なう』、『表す』『表わす』など、学校で習う送り仮名が、どうも親と子で違っているようなのですが……。」というお問い合わせをいただいたことがあります。

現在の送り仮名は、1973(昭和48)年6月に内閣告示された「送り仮名の付け方」(※1)で示された原則をよりどころとしています。この「送り仮名の付け方」は、七つの原則(「通則」)があり、それぞれの通則には、基本的な法則である「本則」に加え、必要に応じて、例外的な事項(「例外」)や、許容的な事項(「許容」)も示されています。

この中で、「おこなう」は「通則1」に分類され、「活用語尾を送る」という通則1の「本則」によれば「行う」となります。教科書では、この本則により「行う」という表記で統一しています(※2)。
ただ、通則1には、活用語尾の前の音節から送る「行なう」も許容であると記されています。

では、親と子で、送り仮名が違うという状況は、どこから生まれたのでしょうか。
実は、上記の1973年の「送り仮名の付け方」は改定版で、この改定版の告示と同時に廃止された「送りがなのつけ方」という別の告示があります。1959(昭和34)年に内閣告示されたもので、この古いほうの「送りがなのつけ方」では、「行なう」が本則で、「行う」が許容とされていました。そのため、ある一時期、学校でも「行なう」のほうが教えられていたことがあったのです。当時の教科書を見てみると、確かに「行なう(おこ-なう)」という送り仮名の付け方になっています(【資料3】【資料4】)

教科書紙面
【資料3】
昭和46年度版 光村図書小学校『国語』6年上P145
教科書紙面
【資料4】
昭和47年度版 光村図書中学校『国語』1年P73
「フシダカバチの秘密」(アンリ=ファーブル/古川晴男 訳)

1973年に改定された現行の「送り仮名の付け方」で、「行なう」などの語を「許容」として明記したのは、この1959年版への配慮がなされた結果だと考えられます。冒頭のQに、「どちらの送り仮名が正しいのか」と書きましたが、言葉における「正しさ」とは、なかなか一筋縄ではいかないテーマのようです。
以上、今回は、言葉に関する豆知識として、送り仮名のちょっと意外な経歴をご紹介しました。

※1
「送り仮名の付け方」(1973年告示)は、「単独の語」と「複合の語」、「活用のある語」と「活用のない語」など、語の性質や成り立ちによって送り仮名の付け方について七つの原則(「通則」)を立て、語例とともに説明しているものです。「常用漢字表」の制定および改定に伴い、1981年と2010年に一部改正されています。
※2
学校教育における送り仮名の学習については、原則として、「送り仮名の付け方」通則1から通則6までの「本則」と「例外」、通則7および「付表の語」(1のなお書きの部分を除く)によることとされています。

次回は、「十」の読み方についてお答えします。

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