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図書館へ行こう! 第6回

図書館へ行こう!

2018年11月15日 更新

猪谷 千香 文筆家

図書館の最前線を知る筆者が全国の「子どもが集まる図書館」を訪ね、その魅力を紹介します。

猪谷千香(いがや・ちか)

東京都生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞で長野支局記者、文化部記者などを経た後、ニコニコ動画やハフィントン・ポスト日本版の記者として活動。2017年9月から弁護士ドットコムニュースの記者として取材を続ける。著書に、『つながる図書館』(ちくま新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)など。

第6回 カモシカも訪れる!?
日本一小さな村の図書館
――舟橋村立図書館(富山県)

数年前、仕事で富山市を訪れた時に立ち寄ったのが、富山市から電車で15分ほどのところにある舟橋村の図書館だった。

舟橋村は富山平野の「ヘソ」に位置する北陸唯一の村であり、面積3.47平方キロメートルという、日本で最も面積が小さな村でもある。その広さは東京ディズニーランド7個分に相当するそうだ。
この日本一小さな村は、「奇跡の村」とも呼ばれている。その理由は、全国トップクラスを誇る人口増加率にある。現在、人口約3000人。平成に入ってから、ほぼ倍増してきた。子どもも多く、2010年の国勢調査では、総人口に占める15歳未満人口の割合は21.8%と、日本一だった。その秘密の一つが、図書館にあるかもしれない。

2008年、舟橋村の村立図書館が全国でニュースになったことがあった。開館10周年の記念行事を開催していた時に、カモシカが偶然、迷い込んだのだ。カモシカは1階の児童書コーナーでちょっと慌てて本棚に乗ったりしたものの、絵本を数冊汚しただけで、山に戻された。

画像、舟橋村立図書館
偶然、図書館に迷いこんだカモシカ。
「本が読みたかったのかも?」とみんなで話していたそう。

以来、カモシカの図書館として知られるようになり、その時の様子をもとに翌年、『カモシカとしょかん』という絵本が出版された。村立図書館の職員から絵本化の相談を受けた富山県立図書館の職員が原作を書き、村が予算をつけたのだという。
この絵本は、山に戻ったカモシカ「カーモくん」が、絵本を読んでもらえる子どもをうらやましいと思い、図書館のお姉さんのところを訪れるというもので、カモシカ来訪から10年たった今年の夏に、続編にあたる絵本『としょかんやさん』も出版された。

画像、気仙沼市立気仙沼図書館
カモシカの図書館として知られるようになり、ついには絵本も出版された。​​​​​​

さっそく絵本を取り寄せて読んでみた。今回の物語は、その後も図書館を訪れるようになっていたカーモくんが、いつもニコニコと出迎えてくれる図書館のお姉さんが子どもたちに絵本を読んだり、一緒に調べものをしたりしている姿に憧れるというもの。カーモくんは、自分も図書館のお姉さんのようになりたいと、本を集めて「としょかんやさん」を開くが、何かが足りないことに気づき……。

カーモくんが憧れる図書館は、数年前に訪れた舟橋村立図書館そのままの印象で描かれていた。とにかく、子どもたちが熱心で楽しそうなのだ。その秘密は、「人」にある。

画像、舟橋村立図書館
子どもたちが大好きな円卓のコーナー。

高野良子館長や職員が心がけているのが、図書館を訪ねてくる子ども全員の顔と名前を覚えることだという。高野館長は、「新しい親子連れが図書館に来たら、必ず声をかけて、お子さんのお名前を聞いています」と話す。
動機はシンプルだ。声をかけてもらえれば子どももうれしいし、保護者にも、子どもの名前を覚えてもらっているという信頼関係が芽生える。絵本に描かれた居心地の良い図書館は、そうした小さな、しかし、とても大切な努力で営まれていた。「としょかんやさん」を開いたカーモくんが絵本の最後で気づいたのも、このこと。ぜひ絵本を手にとって、読んでいただきたい。

もともと舟橋村には、村役場に図書室があるだけで、利用者は不便を強いられていた。また、舟橋村から富山市へとつなぐ富山地方鉄道本線の駅である越中舟橋駅も老朽化していた。1980年代当時は、人口の増加も停滞、舟橋村には課題が山積していた。
村はまず、1989年に駅舎の建て直しの検討を始め、結果、駅舎は複合施設として建設されることになったのだ。スーパーマーケットを誘致しようという意見もあったが、赤ちゃんからお年寄りまで滞在できる図書館を建てることになった。年間予算13億円の村が10億円の事業費で図書館を建設したというのだから、英断というほかない。図書館などの子育て支援策が功を奏して、今では、舟橋村は子育て世帯の流入が絶えない。

1998年にオープンした図書館は、村の人たちから愛されて開館20年を迎えた。「としょかんやさん」のあとがきに、高野館長はこう寄せている。
「カーモくんのように『としょかんやさん』になりたいと思う子どもがたくさんでてきて、ますます図書館を好きになってくれたら」

舟橋村では、きっとそんな子どもたちが育っているに違いない。

舟橋村立図書館

〒930-0289 富山県中新川郡舟橋村竹内602
TEL:076-463-5831
【開館時間】10:00~19:00(土・日曜日は17:00まで)
※11月~3月平日は18:00まで。
【休館日】毎週月曜日・国民の祝日・年末年始・蔵書点検期間・館内整理日

Photo: 舟橋村立図書館

次回は、指宿市立図書館(鹿児島県)を紹介します。

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