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2010年春 高野 進 「動いて,考えて,また動く」

バルセロナ五輪の400メートル競技で8位入賞,現在は独自の走法理論を構築し,北京五輪銅メダリストの末續慎吾選手らを育てている高野進さんにお話を伺いました。

第2回 『動いて,考えて,また動く』で伝えたいこと

光村図書の国語4年上巻に『動いて,考えて,また動く』という説明文を書き下ろしていただきました。

『動いて,考えて,また動く』では,わたしが最高の走りを目指して,自分でも走り,コーチとして教えてきた経験の中で考えたことをまとめてみました。

高校のとき,当時取り組んでいた走り方に疑問を感じ,試行錯誤を重ねて,自分に合った走り方を見つけ,それがいい記録に結びつきました。その経験がきっかけになり,その後の競技人生,コーチとして他人に教えるうえで,自分にとって最高のものを実現するためには,「まず動く,そして考える」ことが大切だということを訴えたかったのです。

自分なりの工夫は,「まず動く」ことなしにはありえません。まず,自分から積極的に動いてほしい。そして,成功や失敗を繰り返しながら自分にしかできない方法を見つけ出していってほしい。「動いて,考えて,また動く」には,こんな思いを込めました。

高野さんご自身には,どんな経験があるのですか。

実は,高校のころ一時期,棒高跳びをやっていたことがありました。そのとき,まず先輩の動きを観察しながら,自分でやってみるんですけれど,ちっともうまく跳べない。それでも何回も,何回も繰り返し跳び,何回も失敗を繰り返しながら,次の動きをイメージして試したところ,徐々に体が浮き始めました。「まず跳んで,それからイメージして,そしてまた跳ぶ」ということを繰り返しながら,徐々に高いバーをクリアーできるようになっていったんですね。

結局,棒高跳びは,けがでやめざるをえなかったのですが,400メートルに取り組むようになってからも,この方法で「一本一本,進化する走り」を目指すことができるようになったのです。

この教材を通じて,いちばん子どもたちに訴えたかったのはどういうことですか。

「まず動くこと」,これがいちばん大切なのではないかと思っています。現代は情報化社会です。経験しなくても,簡単にいろいろな理屈や理論がわかってしまいますから,考えすぎて動けなくなることが往々にしてあります。最初は言われた通りでもいいからまず動いてほしい。

人間は,自分の手を動かし,ほほに風が当たっていろんな感じを受け,それで脳が刺激されて進化してきたんだと思います。脳が先に進化して,それからいろんなことができるようになったわけではありませんからね。

次に「考える」。動いた後は,動物のように本能だけで動き続けたり,ただ闇雲に突っ走ってしまったりするのではなく,やったことについて考え,行動にフィードバックして「また動く」のです。

何かうまくなりたいことがあれば,「まずやってみる」。そしてうまくいかなかったら,なぜそうなのか「考えてみる」。そして再び挑戦してみる。一回だめだったからといって,すぐにあきらめるのではなく,何回もトライする継続性も大事です。走ることに限らず,すべてのことの基本だと思います。

高野 進

教材の中では,走りのメカニズムについても詳しく説明されています。

それは,この文章で,人間の移動方法としての「走る」を見つめ直してほしいということも言いたかったからです。

人類は長い歴史の中で二足歩行を始め,そして走り始めました。しかし,外敵から逃げるために走る必要のなくなった現代社会は,ほとんど人が走ることを放棄しています。

にもかかわらず,陸上競技や駅伝のテレビ中継が高い視聴率を得るのは,やはり「走る」ことに魅力を感じている人が多いからではないでしょうか。

もっと走ることの楽しさを感じてもらい,自分に合ったオリジナルの理想的な走り方を見つけていってもらいたいと願っています。

高野 進[たかの・すすむ]

高野 進

1961年,静岡県富士宮市生まれ。東海大学体育学部教授。

陸上400メートル競技で,82年インドアジア大会優勝。84年ロサンゼルス五輪と88年ソウル五輪ではベスト16,92年バルセロナ五輪で8位に入賞する。日本記録保持者(44秒78)。

大学で教鞭を執るかたわら,陸上競技部短距離コーチとして学生を指導。財団法人日本陸上競技連盟理事・強化委員長として国際競技会等で活躍する選手の育成にも努めている。また,特定非営利活動法人日本アスレティクスアカデミー理事長として,陸上競技の普及活動を進めている。

主な著書に『高野進流 日本人のための二軸走法』(スキージャーナル),『走れ!ニッポン人 一億三千万総アスリート計画』(文藝春秋),『陸上 短距離走 パーフェクトマスター』(新星出版社)などがある。