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2010年冬 藤巻幸夫 「人と人とをつなぐ力」

大手デパート「伊勢丹」のカリスマバイヤーとして知られ,その後,足袋の老舗メーカー「福助」の会社再建に携わるなど,実業家として数々の業績を上げていらっしゃる藤巻さんをゲストに迎えました。

第2回 「本気で築く人間関係」

相手とのいい関係を築くには,「本気の思い」を伝えていくことが大切なんですね。

今,若い人たちの人間関係が希薄だといわれ,なんだか日本全体も元気がなくなっている気がします。
  これがなぜかなって,ずっと考えていたんですけど,結局,若い人たちが怒られていないことが原因のような気がして仕方ないんです。「草食系男子」なんて言葉が使われていますが,それもきっと,相手の本気を受け止めたりすることに慣れていないからなのではと思うんです。
 僕は今,明治大学などで若い人たちに教えているんですが,やる気のない学生には本気で怒ります。バーンと机を叩いて,「ふざけるな,お前。出て行け!」なんてね。

藤巻幸夫

会社にいたときには,手を上げたこともあります。でも,訴えられたりしなかった。後では感謝してくれるんです。僕の本気の気持ちが伝わるからでしょうね。

なぜ,そこまで本気になれるんですか。

僕は,基本的に人間に興味があって,人間が好きなんです。人それぞれが持っているいいところを見つけて,伸ばしてやりたくなる。だから,つい本気になってのめり込んでしまい,どうにかしてやりたいというところで,怒ってしまうんですね。


藤巻幸夫

怒り方って難しいですよね。

そう。とってもデリケートです。
  ただ感情的に怒ってもだめ。頭に血が上ると,つい本人そのものを攻撃してしまいがちですが,そういう「人格否定」では何も解決しません。消しがたいしこりだけが残ってしまいます。
  部下や後輩に対して腹が立ったときには,怒りのエネルギーを,何がいけないのか具体的に説明することに費やしてください。本気で。
  怒られた側も感情が高ぶっているので,素直には受け止めてくれないかもしれませんが,相手のことを本気で考えていれば,必ず伝わります。
  人格を否定するのではなく,仕事の仕方や姿勢についてじっくり正す。ここがポイントですね。

そういう怒り方が,いい人間関係を築いていくんですね。

周囲が指摘しないと改善されないウィークポイントは誰もが持っています。それを放置しない,いわばホスピタリティーのあるコミュニケーションとしての「怒り方」というのが必要でしょうね。
  怒った直後はお互いが気まずくなっても,その積み重ねが,互いに信頼感を生み,いい人間関係が築かれていくんです。

ご著書『特別講義 コミュニケーション学』では,怒り方と同時に,ほめ方についても書かれています。

ほめるときには,「他人事」としてではなく,「自分事」としてほめるように意識しようということを訴えています。
  「がんばっているね」「お前,よくやったぞ」
というような,第三者的な立場からの言葉がけではなくて,
  「あなたが成功してくれて,私はうれしい!」
という,自分の喜びや感謝の気持ちとして伝えたほうが,相手の体温はより高くなると思います。もちろん,そうした感情だけでなく,
  「こっちも,お前に負けてはいられないな」
というような“意地”でもいいんです。

ほめるときにも“本気”でということですね。

藤巻幸夫

そうです。今,僕が言った言葉をただ形式的に話しても,全然意味がありません。
  本気でほめることができる,というのは,ふだんから相手のことをしっかり見ているからこそできることなんです。
  やっぱりいちばん大切なのは,日ごろから培っている人間関係。その土台の上で「気持ち」と「言葉」がそろって,初めて相手の心に響くほめ方ができるんです。


藤巻幸夫

藤巻さんの“本気”を伝えたいという熱い想いは,「日本元気塾」 という形に結実していますね。


 日本を元気にしたいという思いで,一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎教授,髙島郁夫さん(株式会社バルス代表取締役社長),奥山清行さん(工業デザイナー・KEN OKUYAMA DESIGN 代表)とともに講座を開いています。
  若い人たちをはじめ,さまざまな世代が参加して「人間が人間に熱い想いを伝える」ことを目指す塾で,2010年10月に第2期がスタートしたところです。
  自分自身を変革する,フロンティアを切り拓く。そういう気持ちに火をつけ,一歩を踏み出す勇気と実行力のある個人を育成していきたいと思っています。

そこでは,どういうことを教えていらっしゃるのですか。

僕のパートのテーマは「現場主義の仕事術」です。
  マーケティングの本に書いてあることは嘘ではありませんが,真実は現場にあります。世の中の流れを掴むためにも,ものづくりの真髄を見極めるためにも,「自分自身で」現場を感じてほしい。そんな思いを込めて,僕自身はもちろん,現場感覚に優れた多方面で活躍する方々を招いてのセッションで,クリエイティブでオリジナリティのある仕事術を学びとってほしいと思っています。
  また,第1回でお話しした佐藤一斎の『言志四録』なども紹介しながら,人間とは何かというところまで踏み込んだ話ができればいいなと思っています。

日本を元気にするためには何が必要か,世の中を「楽しくする」には何が必要か,そのために今の自分には何ができるのか。そういったことをとことん突き詰めて,行動に移していこうと思っています。

藤巻幸夫[ふじまき・ゆきお]

藤巻幸夫

1960年東京生まれ。上智大学卒業後,伊勢丹に入社。「解放区」「リ・スタイル」「BPQC」など数々の売り場をプロデュース。またバーニーズジャパン設立メンバーとしてレディースを担当する。
 伊勢丹退社後,アパレル会社,バッグ会社の役員を経て2003年福助株式会社の社長を務め,1年半で再建を果たす。2005年株式会社セブン&アイ生活デザイン研究所代表取締役,株式会社イトーヨーカ堂取締役執行役員衣料事業部長となる。
 株式会社シカタ代表取締役プロデューサー,株式会社テトラスター代表取締役などを兼任し,新しいライフスタイルの提案や日本をキーワードにこだわった売り場,ブランド作りの道を歩き始める。またアカデミーヒルズ「日本元気塾」の講師や明治大学特任教授としても教育分野にも進出。2014年逝去。