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2010年冬 藤巻幸夫 「人と人とをつなぐ力」

大手デパート「伊勢丹」のカリスマバイヤーとして知られ,その後,足袋の老舗メーカー「福助」の会社再建に携わるなど,実業家として数々の業績を上げていらっしゃる藤巻さんをゲストに迎えました。

第3回「“つなぐ力”をつける」

藤巻さんは,初め,大手百貨店のバイヤーとして活躍されていましたね。

ファッション担当で,最初の3年間は,バーゲンの呼び込みが主な仕事でしたね。そこで,買う人を巻き込んで,「また来たい」という気持ちになってもらえることが大事だと学びました。つまり,売り手と買い手の結び付きですね。
 僕はよく「顧客視点」という言葉を使うんですが,常に相手のことを考えていれば,物は売れるんです。

今は物が売れない時代といわれています。

もちろん経済状況の変動もありますが,僕は必ずしもそれだけじゃないと思うんです。
 さっき言った「売り手と買い手」に加えて「作り手」との関係。この三者の連携がうまくいっていない。間に立つ僕ら売り手が,作り手の気持ちをしっかりと買い手に伝えることができれば,すごくうまく回っていくんですよ。それができないと,せっかくいいものであっても売れないんです。

藤巻幸夫

売り手の役割は大事ですね。


藤巻幸夫


 そうですね。僕は,売り手はプロデューサー的な役目をもっていると思っています。産地の人の思い,デザインのこと,コピーのこと,お客様の興味…。いろいろなことを考えてマネジメントしていく仕事です。
 今,新しいシャンプーをプロデュースしているんです。実は,忙しい生活が続いて体調を崩したことがあったんですが,そのときに受けたアロマトリートメントから,安全で,豊かな生活の大切さを実感したんです。
 それがヒントとなって,安全性や心の豊かさにこだわったネーミングやデザイン,環境への配慮なんかを取り入れた商品を作ってみました。原料に柚子を使うことによって農業支援も可能になりましたし,収益の一部で森林の増加,環境保全にも取り組んでいます。

ただ,物を売ってもうけるだけではないんですね。

僕がいちばん興味があるのは,人に喜んでもらうこと。どうすれば買い手はもちろん,作り手にも最大限に喜んでもらえるか,そのストーリーを考えるだけでワクワクします。そして,みんなでそのワクワクを分け合いたいんです。

それは,販売だけに限らず,いろいろな仕事でも必要な感覚だと思います。

教科書だってそうでしょ? 作家と先生や子どもを結ぶ中間にいる。先生も,教科書と子どもを結ぶ中間にいる。僕のいう「売り手」の立場ととてもよく似ていると思いますよ。みんながワクワクするストーリーを描ける力が必要なんです。
 その力を養うためには,Plan-Do-See の繰り返ししかありません。つまり仮説を立てて検証する。でも,そう言ってしまえば味気ないので,「みんなで思いを出し合って,分かち合って,確認し合いましょうよ」と言う言葉を使っています。

そのストーリーで,人と人とをつなぐということですね。

そう。そういうイメージをもてることが「つなぐ力」なんです。生産した人の思いを,いちばんわかりやすい言葉と形で売り手に伝える力です。

教科書作りの上でも,本当に大事な視点です。

もし僕が教科書を作ったら,きっと売れますよ(笑)

最後に,藤巻さんが気に入っている言葉を教えてください。

近江商人の言葉に「三方良し」というのがあります。「売って良し,買って良し,世間良し」です。とてもいい言葉でしょう。「世間良し」というのは,商売が社会全体の幸福につながるということを言っているんです。
 この言葉って,教科書や教育の世界にも当てはまるような気がします。子どもたちの幸せのために,これからも良い教科書を出し続けてくださいね。

藤巻幸夫

藤巻幸夫[ふじまき・ゆきお]

藤巻幸夫

1960年東京生まれ。上智大学卒業後,伊勢丹に入社。「解放区」「リ・スタイル」「BPQC」など数々の売り場をプロデュース。またバーニーズジャパン設立メンバーとしてレディースを担当する。
 伊勢丹退社後,アパレル会社,バッグ会社の役員を経て2003年福助株式会社の社長を務め,1年半で再建を果たす。2005年株式会社セブン&アイ生活デザイン研究所代表取締役,株式会社イトーヨーカ堂取締役執行役員衣料事業部長となる。
 株式会社シカタ代表取締役プロデューサー,株式会社テトラスター代表取締役などを兼任し,新しいライフスタイルの提案や日本をキーワードにこだわった売り場,ブランド作りの道を歩き始める。またアカデミーヒルズ「日本元気塾」の講師や明治大学特任教授としても教育分野にも進出。2014年逝去。