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2011年夏 澄川喜一 「伝統・文化を未来へつなぐ」

彫刻家で東京スカイツリーのデザイン監修をされた澄川喜一さん(東京藝術大学名誉教授)に,スカイツリー・日本の伝統文化・今後の美術教育について伺いました。

第2回 「自分の故郷をよく知ってこそ国際人になれる」

澄川さんは,東京都教育委員会の「日本の伝統・文化理解教育推進会議」の委員を務められましたが,子どもたちには,日本の伝統文化をどのように学んでほしいとお考えですか。

澄川喜一

 まず,子どもたちには,自分の故郷の伝統文化をしっかりと知ることから始めてほしいですね。
 どんな人でも,生まれたところはその人にとっての故郷だと思います。それなのに,その故郷のことをよく知らずに外の世界に飛び出していっても,外の世界の人に相手にされないと思うのです。例えば,美術の世界ではヨーロッパに勉強に行きたがる人が多いけれど,日本のことをよく知らずにヨーロッパのことばかり知りたがる人がいる。でも,日本の人は,ヨーロッパじゃなくて,日本で生まれたんです。日本のことをよく知らないで,「西洋絵画や西洋彫刻を学びたい」とヨーロッパに行っても,たぶんうまく学べない。
 僕も大学在職中は留学生試験に立ち会っていたんだけど,受け入れる外国の人は日本の留学生に「日本をもってきてほしい」って言うんです。向こうの人は,日本人がジャポンの感性で面白いことをやるのを期待しています。藤田嗣治さんや,僕の郷里の森英恵さんなどは,故郷や日本の文化についてよく知り,それを生かして外国で活躍していました。この方たちのように故郷や日本の文化を知っていないと,向こうで「あなたは何?」ってアイデンティティを問われても満足に答えられないでしょ。それを勘違いしている人がいる。
 そういう意味で,まず,東京に生まれたなら江戸の文化,関東地方に生まれたなら関東地方の文化のいいところを知ってほしい。そういうところから伝統文化を学んでほしいと思います。

澄川さんはどのようなきっかけで日本の伝統文化や美術に興味をおもちになったのですか。

 僕は島根県の生まれです。そこは,自然もあるけど,歴史的には柿本人麻呂がいたり,絵描きでいえば雪舟,明治ごろになると森?外が出たところなんです。そういうのが自分の故郷という意識があります。それから,小学校を卒業して山口県岩国市にある工業学校に入学したときに錦帯橋と出会ったことが,僕の芸術家としての原点になっています。5つのアーチが連なった木造の大きな橋を見て,こんなに美しいものが世の中にあるのかと感動しました。

山口県岩国市の錦帯橋

山口県岩国市の錦帯橋

その他に,大事にされている伝統文化はありますか?

 神話を学ぶことも大切だと思っています。僕の田舎にはお神楽があって,これはほとんど神話を題材にしたものなんです。だから,子どものときから,スサノオノミコトはこうだったんだということを教わったり,出雲大社のオオクニヌシノミコトのことを教わったりしました。
 平成23年度から使われている光村の小学校国語教科書では,神話を題材にした「いなばの白うさぎ」が掲載されていますが,いいことだと思いますね。

長く美術教育にも携わっておられますが,教育の分野でも伝統文化は重視されてきましたね。

子どもに日本の文化をしっかりと教えてあげることが大切なんです。
 日本の文化って,すごくいいんですよ。僕はいつも思うんだけれど,日本は資源が少ない国だから,世界に誇れるものは「文化力」なんじゃないかな。文化力というのは,感性と技術。日本の文化力は世界一だと思っています。そして,文化の中で美術というのはとても重要だから,子どもに美術教育の中で日本のよさを教えてほしいです。その子どもが将来外国に行っても,ちゃんと日本のよさを伝えることができれば,尊敬されますから。

国際人になるためには,自国の文化を学ぶことが,まず大事なんですね。

国際人というのは,自分の故郷をよく知っていないとなれないものです。
 もちろん,「知るべき文化は美術だけだ」とか,固いことはいわない。文学もあるし,演歌もあるし,漫画もある。なんでもいいんです。今,日本の漫画は外国でもすごい評判でしょう? あれも日本を代表する文化なんですよね。それと上手さ。上手だからみんな,引き込まれちゃう。漫画も誇りに思っていい文化の一つですね。

澄川喜一[すみかわ・きいち]

澄川喜一

1931年島根県生まれ。彫刻家。東京藝術大学名誉教授。東京藝術大学彫刻科卒業,同大専攻科修了。1995年から2001年まで東京藝術大学学長を務める。主な作品に「カッターフェイス」(東京湾アクアライン海ほたる),「青春交響の塔」(下関あるかぽ~と)など。1998年紫綬褒章受章,2003年日本芸術院賞・恩賜賞受賞。04年日本芸術院会員に就任。08年文化功労者,09年NHK放送文化賞受賞など。光村図書中学校・高等学校『美術』教科書の著作者を務める。