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2012年秋 小久保英一郎 「研究は知的な探検」

平成24年度版中学校『国語』教科書3年に掲載されている「月の起源を探る」の筆者である,理論天文学者の小久保英一郎さんにお話をお聞きしました。

Story3 自分の「起源」を求めて

日本の文化財を巡る旅をよくされているとのこと。考古学から天文学と,本当に興味の幅を広くおもちになっているのですね。

 子どもの頃に夢中になっていたことの延長からか,遺跡や古墳,寺社などに興味があって,時間を見つけては訪れています。それから,日本各地の祭りを見に行くのも好きです。日本にはすばらしい文化がありますからね。
 そして,前にお話ししたスクーバダイビングをする時間も,僕にとって大切なものです。一つの研究がまとまったら南の島に潜りに行くという生活をしたい,そんなふうに考えています。
 文化財の探訪も,スクーバダイビングも,そして月の起源について考えることも,どれも僕にとっては「探検」なんです。研究は,海に潜ったり山に登ったりするときのように体を使うわけではありませんが,知的な探検だと思っています。体を使うか,頭を使うか,アプローチのしかたは違っても,自分が興味をもち,見たい,知りたいと思うものに挑んでいくという意味で,すべて自分の中ではつながっています。
 それから,「起源」ということもキーワードかもしれません。月の起源,地球の起源——何かの起源というものにとても興味があるんです。祭りや文化財を見に行くのも,日本人や日本文化の起源や根元を知りたいと思うからなのでしょうね。

小久保英一郎
「自分がどこからやって来たのか」ということでしょうか。

 ええ,そうです。宇宙が始まって銀河系が生まれ,太陽が生まれて地球が生まれた。生命が誕生し,進化して人間が生まれ,日本人が生まれた。そして,日本の文化が形成されてきた。そういう,今の自分へと続く流れの中の,少し昔を見るか,はるか昔を見るか。その違いだけです。天文学も,考古学も,文化財や祭りの研究も,切り取る部分は違うけれど,すべて一つの流れの中にあるものを見ている。今の日本,今の自分を知ることにつながっているんです。
 僕は月だけではなく,地球を含めた太陽系やその他の天体についても,並行して研究しているのですが,「起源を探る」ために,地球や太陽系がどうやって生まれたのかを知りたいと思っています。

今,取り組んでらっしゃる巨大衝突説に関わる研究も,そこに結び付いているわけですね。

小久保英一郎

 巨大衝突説には,まだうまく説明できない部分があるので,それを解決することがまず大事ですね。そして,月の起源と地球の起源,どちらに当てはめても矛盾が生じないような,調和的なシナリオが描けるといいなと思っています。まだ少し時間がかかりそうですけれども——。
 今後,探査などによって,月の内部に関する情報がもっともたらされれば,条件がよりはっきりしてくるので,わかることも増えてくるのではないでしょうか。核の大きさとか,内部にどんな岩石が含まれているのかとか,そんなことをもっと詳しく知る必要があるんです。地震波を使って,その波の伝わり方によって探った月の内部,今はそれがいちばん知りたい情報です。

「月の起源を探る」を学習した中学生の中から,「月や地球の起源を明らかにしたい」と思う子が出てくるかもしれませんね。

 中学生や高校生を対象とした講演会などで話をさせていただくこともあるんです。この間は,母校へも行ってきました。
 その少し前に,横須賀で講演をしたときには,この文章を教科書で読み,内容に興味をもって来てくれたという中学校3年生の男の子がいました。学校で勉強したばかりだと言っていました。ちょっとびっくりしましたが,とてもうれしかったです。教科書に掲載されるということは,多くの子たちの手に渡るということなんですね。背筋が伸びます(笑)。
 その横須賀の講演会では,「宇宙の中の地球」という題で話をしました。自分が伝えたいことが,この題に集約されています。地球がどんなところにあって,その周りの宇宙がどうなっているか,それから,僕の研究,つまり地球がどのようにしてできてきたかという話です。

ご自身の子ども時代を思い出させるような,探究心旺盛な子も来るのではないですか。今の中学生を見て,思うことはありますか。

 僕が中学生や高校生だった頃は,講演会などに出かけていくような積極性はあまりなかったんですよね。もっとも,今と違って,講演会自体が少なかったような気もします。好きなことをいろいろと自分なりに勉強してはいましたが,そういったものに参加する真面目さのようなものはあまりなかったかもしれません。野外に出るのが好きでしたし。だから,足を運んでくれる子たちはえらいなと思うし,本当にありがたいなと思いますね。

小久保英一郎

 宇宙の話って,とても不思議でおもしろいのですが,それを支えている研究は,基本的に,うまくいかないことのほうが多いんです。知りたいことがあったとしても,それがすぐにわかるなんてことはまれで,一つ一つ積み重ねていって,ようやく見えてくるものです。歩みは小さくても,ともかく「知りたい」という気持ちに突き動かされて,前へ進んでいくという感じですね。だれも知らないことに挑むから,ゆるやかな道ではない。でも,だれも知らないことに近づくからおもしろいんです。
 今の子たちは,インターネットで検索して,「はい,これが答え」と,簡単に答えが出ることに慣れているかもしれません。けれども,こういう地道な研究の世界に少しでも興味をもってくれる子がいるというのは,とてもうれしいことですね。

小久保英一郎[こくぼ・えいいちろう]

小久保英一郎

1968年,宮城県生まれ。理論天文学者。東京大学大学院総合文化研究科博士課程を修了。国立天文台理論研究部教授。1998年,「原始惑星の寡占的成長」理論で注目を集める。2000年には,スーパーコンピュータを活用し,月が46億年前に,約1か月かけて形成された過程を明らかにする。趣味はスクーバダイビング,文化財(遺跡,寺社,祭り)探訪など。著書に『一億個の地球』(共著),『宇宙と生命の起源』(共編著)など。日本惑星科学会最優秀研究者賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。

Photo: Shunsuke Suzuki