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2012年冬 加藤久仁夫 「自分の世界観を物語る」

アニメーション「つみきのいえ」で第81回アカデミー賞 短編アニメーション賞を受賞された,アニメーション作家の加藤久仁生さんに,創作の背景にある世界観やアニメーション制作に込める思いなどについてお聞きしました。

Story2 「つみきのいえ」――生きていくということ

アニメーション「つみきのいえ」は,見た後に,えもいわれぬ切なさが残る作品ですね。
加藤久仁生
DVD「つみきのいえ」(2008年制作)
監督:加藤久仁生
発売:株式会社ロボット
販売:東宝株式会社

 作る側からすると,「こう見てほしい」という気持ちはもちろんあります。でも,せりふがない作品だからこそ,あのおじいさんが本当は幸せなのかどうかということは,明確にしすぎないようにしたいと思って作っていました。鑑賞する人たちが,その作品に入り込む余地みたいなものを残しているつもりです。いろいろな人の感想を耳にして思うのは,一見,シンプルな物語ではあるけれど,だからこそ,見る人の状態や気持ちによってずいぶん変わるのだろうということ。そういうアニメーション作品が作れたのかもしれないなあと思っています。

アニメーション「つみきのいえ」が発表された後,今度は絵本『つみきのいえ』が出版されましたね。

 そうですね。絵本の話が出たときは,アニメーションとして1年かけて一度作り上げたものを,また別の形にするのはどうなんだろうという気持ちがありました。ただ,アニメーションでは脚本の,絵本では文章の担当である平田研也さんは,当時,毎日,お子さんに読み聞かせをしていたこともあり,絵本に興味があったようなんです。
 アニメーションのほうは,どちらかというと大人向けだと思っています。ですから……「過去を振り返る」というストーリーである以上,子ども向けとは言い切れないまでも,見たときに何か引っかかって,少し大きくなってからふと思い出す,そういうものを新たに作れるのなら,絵本を作ってみるのもいいんじゃないかと思うようになりました。自分が子どもの頃も,悲しい物語を見たり読んだりしても,印象に残っているのは,そういう悲しさとは全く違うディテールの部分だということがあった気がします。そのときにはわからなくても,あとでなんとなく覚えているという絵本が作れたらという思いもありました。
 それから,「ページをめくって展開する」という,アニメーションではできないことが試せるという興味もありましたね。同じモチーフを別の媒体で表現することで,何かおもしろい発見がありそうだと思いました。

加藤久仁生
絵本制作の際は,「子どもに向けて」というのを意識されていたのですね。

 絵本の出版社,白泉社の編集の方から言われたのは,「絵本をいちばん最初に手に取るのは子ども」だということ。だから,そのことは意識して,絵柄や色のトーン,風景の描き方,構成など,平田さんと何度も話し合って作っていきました。
 それから,全体として,あまり悲しい感じにならないように。おじいさんは一人で生きているけれども,そこにもちゃんと日常っていうものがあるんじゃないかと思うんです。亡くなった人がいて,でもそれすらも日常になっているというのは,すごく大事なことなんじゃないかと。そういったことを,絵本なら,わざとらしくなく自然に描けるんじゃないかということは考えていましたね。
 その意味で,子ども向けというのは,意識してはいましたが,あくまでもぼんやりとした読者という感じだったかもしれません。自分にはまだ子どもがいないし,当時,小さな子が身の回りにいる環境ではなかったので,具体的な読者としては像を描きにくかったところはあります。そこは,子どもの反応もじかに感じることができる平田さんといっしょに考えていきました。

絵本『つみきのいえ』の出版後,英語版である『Once upon a Home upon a Home』が出版されることになるのですね。

 英語版の翻訳者であるアーサー・ビナードさんは,白泉社の方が推薦してくださったんです。実際にお目にかかったことはないのですが,これまでにアーサーさんが手がけてこられた作品のことをうかがって,僕も平田さんも,「いいんじゃないかな」と思いました。僕はあんまり英語が得意ではないのですが,白泉社の方によると,おもしろい翻訳になっているとのことですよ。

英語版『つみきのいえ』は,光村図書の中学校英語教科書『COLUMBUS 21』(3年)に掲載させていただいています。

 初めに掲載のお話があったときは,「いいんですかねえ」という感じの気持ちでした。なんだか,教科書に載るということがあまり想像できなくて。ちゃんと授業に沿うものになるのかなという不安もありました。ともかく,ちょっとびっくりしました。
 3年生というと,受験がたいへんなときですよね。これを読むどころじゃないんじゃないかという気もしますね(笑)。でも,受験にあまり関わらない感じで読める位置づけなのであれば,ともかく楽しんで読んでもらえたらなと思います。僕も,英語は得意ではなかったので,えらそうなことは言えませんけれどね(笑)。

でも,アカデミー賞の受賞スピーチは,うまく会場の笑いも引き出して,本当にすばらしかったです。

 いえいえ,本当にひどいもので……あれは本当に失笑ものです。あのときほど,ちゃんと英語を勉強しておけばよかったと思ったことはありませんでした。あれから何度か,英語の勉強にチャレンジしようと思ったのですが,なかなか手を出せずにいるんですよね。英語は勉強しておいたほうがいいですね(笑)。
 アカデミー賞のときは,もちろん,受賞できるかどうかなんてわからないのですが,受賞スピーチは考えておくように言われていたんです。ノミネートされた他の人たちは,それぞれ国は違ったのですが,みんなわりと英語を話せる人たちでしたから,「君がいちばん危ういんじゃないの」と心配されていました。

加藤久仁生

 授賞式の前,2週間ほど,アメリカのアニメーションスタジオを見学するツアーに参加していたんです。それで,その移動の車中で,同行した同じ会社の通訳の方と現地コーディネーターの方と相談して,話すことを考えました。まずは間違えないように話すこと。そして,感謝の気持ちを伝えること。それから,ちょっとしたジョークを。結果として,会場のお客さんたちは盛り上がってくれましたから,それはよかったなと思いました。でも,後から,「Thank you」の発音がおかしかったとか,いろいろ言われたスピーチでしたよ(笑)。

加藤久仁生[かとう・くにお]

加藤久仁生

1977年,鹿児島県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。大学卒業後,2001年,(株)ロボットに入社。アニメーション作家を集めた同社アニメーションスタジオCAGEに所属し,テレビ番組,Webアニメーションなどを手がける。
主なアニメーション作品に「The Apple Incident」「或る旅人の日記」「つみきのいえ」など。「つみきのいえ」で第81回アカデミー賞短編アニメーション賞,アヌシー国際アニメーション映画祭アヌシー・クリスタル賞ほか多数受賞。主な著書に,絵本『つみきのいえ』『あとがき』(白泉社)など。

Photo: Shunsuke Suzuki