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2013年夏 長谷川義史 「僕の世界をつくるもの」

絵本作家の長谷川義史さんに,漫画「さんぱつやきょうこさん」の制作にまつわること,絵本づくりのもとになっていること,絵本を読んでくれる子どもたちとの関わりなどについてお聞きしました。

Story1 「さんぱつやきょうこさん」のひみつ

『飛ぶ教室』の人気連載,漫画「さんぱつやきょうこさん」ですが,単行本が7月25日に発売されましたね。2005年にこの連載が始まったときの,いきさつについてお話しいただけますか。

 「休刊していた『飛ぶ教室』が光村図書から復刊するので,そこに,コマ割りの漫画を描いてください。4ページでお願いします」という依頼があったんです。当時,漫画は,ちょこっとしたのをたまに描くぐらいで,描き慣れていたわけちゃうし,「え,漫画ですか?」と返したのを覚えています。そうしたら,編集者の方は,「そうです。例えば,長新太さんみたいな感じのを」と言われた。正直,「あんなん描けるわけないわ。いらんこと言うてくれるなあ」と思いましたよ(笑)。別に意識せんでもいいんですけど,プレッシャーじゃないですか。

長谷川義史

 でも,僕は基本的に,断るのはあんまり好きじゃないんです。だって,僕が断ったら,誰かがやるやん。編集者の方は,その企画ができるようにがんばると思うからね。だから,僕もできるようにがんばって,なんとかやってみようかなと。いちおうチャレンジ精神はあるから,「いつまで続くか分からへんけど,ともかく始めさせてください。やります」ってことで,始まったんです。

依頼は,「4ページで漫画を」ということだったのですね。「さんぱつやきょうこさん」という発想はどこから生まれてきたのでしょうか。

 「さあ,そろそろ原稿を描かなあかんぞ」というときに,いろいろ考えたなかから出てきたものだと思います。単行本のはみ出しコメントにも書きましたが,大阪に「くしかつやきょうこさん」というのがいるんですよ。話は長くなるんですけど……。

長谷川義史

 僕の若い頃からの知り合いに,桂雀三郎さんという落語家さんがいまして,そのひいき筋に,串かつ屋をやっている「やぐらの大将」という方がいるんです。「やぐら」というのは屋号。雀三郎さんのつながりで,若い頃に知り合った方です。「やぐらの大将」は,ずっと独り身やったんですけど,だいぶ年取ってから結婚をされて,「きょうこさん」という奥さんがお店にやってきた。それまでの串かつ屋は串かつ屋で魅力的やってんけど,そこに女の人のもつ優しさみたいなんが入った串かつ屋がまたいい感じでね。それで,僕の中に「串かつ屋きょうこさん」というのがあったんです。でも,そのままではあかんでしょう。
 かたや,僕は昔から散髪屋が好きで,若い頃に散髪屋の取材の仕事をやっていたこともあってね。ただただ,見ず知らずの散髪屋に入っていって,散髪をやってもらって,イラストルポにするという,そんな仕事。だから,なんか散髪屋に愛着があった。


 その「散髪屋さん」というのと「串かつ屋きょうこさん」とが入り交じったんです。それと,「きょうこさん」には,小泉今日子さんのイメージも入っていて……小泉今日子さんが一人でやっている散髪屋さん,いいなと思ってね(笑)。そうして,一人でやっている,何考えているのかよく分からへんけど,ちょっとかわいい「さんぱつやきょうこさん」が生まれたんです。

連載を続けるなかで感じた,漫画の難しさみたいなものはありますか。
長谷川義史

 僕の漫画は,コマ割りだけど,ストーリーも別にないし,漫画にもなってへんと思っていますよ。僕,普段はもっと分かりやすくポンポンポンって進んで,最後には絶対オチがあるという終わり方やないと嫌なんです。でも,「さんぱつやきょうこさん」に関しては,「こういうオチなのかな」とか「オチはないけど,なんか感じた」とか,人によって思うことが違うものをポイっと渡すということをやってきた。渡された人に,どう感じるのかを委ねるようなものにしようって決めたんです。あまり意味の分かるようなものはやめようと。どうせ底が浅いんやったら,わけが分からないほうが何かありそうだと思ってくれる気がしてね。

 でも,これが難しい。連載1回目をなんとか描いて,2回目を「こんなんでいいのかな」と思いながら描いて,3回目はますます「なんやこれ」と思って泣きそうな感じで描きましたね(笑)。それで,編集者の方に原稿を送るときに,「こんなんでええんでしょうか」と愚痴みたいなことを書いたんです。そうしたら,「そんなにつらかったら,無理して続けなくてもいいんですよ。おやめになることも考えますか」って言われてん。
 そう言われるとね……そこで自分からやめると,「もう,参りました」っていうことになる。それは嫌じゃないですか。向こうから「やめてください」って言われるんやったらしゃあないけど,自分から「もうすんません」と言うのは,今までやってきた姿勢じゃないなと思った。だから,「向こうが『あかん』と言わはったときにやめたらええんや」と,なんとか続けることにして,4回目でちょっと吹っ切れたのがありましたね。まあ,毎回,「何描くねん」とはなりますけどね(笑)。

先ほどのお話にもありましたが,単行本化にあたって,各回に著者コメントを書きおろしてらっしゃいますね。8年分を振り返っていかがでしたか。

 いろいろと思い出しましたね。そもそも,8年やっているっていうのがびっくりです。ああ,でも,6年目に,1回びっくりしたんですよ。編集者の方から「次の号で6年目ですよ」と言われて,「へえ!」って。「小学生やったら,卒業やん」と思った(笑)。そのときでもびっくりしたのに,もう8年でしょう。びっくりですよ。
 書きおろしの はみ出しコメントは全部,移動中の電車や新幹線の中でちょこちょこ書いては編集者の方にメールで送っていたんです。一つ一つは短いけど,30本も書くとなると大変だなと思って,移動中にやっていた。あらためて漫画を見る作業は,おもしろかったですけどね。

特に印象に残っている回や,気に入っている回はありますか。

 そうですねえ……「その25」は,東日本大震災と,福島の原子力発電所事故があったすぐ後に描いた回なんですけど,あの頃って,もう本当に,「明日,世界があるのかどうか」みたいなときやったでしょう。せやから,みんなそうやと思いますけど,あのときに描くのはしんどかったですね。こんな大変なときに,こういう仕事してていいのかなって……。でも,それでも,なんとか,いつか花咲くでしょうっていう気持ちで描いたのが,この回なんです。だから,僕,この回はすごく好きです。

 あとは,「その4」のそうめんが出てくる回,「その15」のタヌキが出てきてずっとポンポンいっている回,「その26」のあべ弘士さんの回,「その29」の今森光彦さんと「あべひろムシ」が出てくる回が好きですね。

長谷川義史

 僕は,雑誌で何かやらせてもらうときはだいたい,「箸休め」の役割だと思ってやっているんです。『飛ぶ教室』は真面目な児童文学の雑誌やから,ちょっとおまけみたいな,「箸休め」のページであれたらええなあと思って続けています。単行本化はうれしいし,本当にありがたいことですね。散髪もしてもらえたしね(笑)。

『飛ぶ教室』第34号(2013年7月25日発売)に掲載されている,『さんぱつやきょうこさん』発売記念の企画ですね。

 そうです。これこそ,ほんまにどうかと思う(笑)。だって,ただ散髪しにいっているだけですよ。児童文学の雑誌で,ただ散髪しにいっているだけなんですから。でも,おもしろかったですね。


さんぱつやきょうこさん

さんぱつやきょうこさん

長谷川義史 作

児童文学総合誌『飛ぶ教室』で人気連載中の漫画「さんぱつやきょうこさん」が,ついに単行本になりました!

定価:1260円(税込) ISBN978-4-89528-687-9


長谷川義史 [はせがわ・よしふみ]

長谷川義史

1961年,大阪府生まれ。絵本作家。絵本『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』『シバ犬のチャイ』(以上,BL出版),『スモウマン』(講談社),『うえへまいりまぁす』(PHP研究所),『がまの油』(ほるぷ出版),『串かつやよしこさん』(アリス館)など多数。
『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で,第34回講談社出版文化賞絵本賞受賞。『かあちゃんかいじゅう』(ひかりのくに)で,第14回けんぶち絵本の里大賞受賞。『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で,日本絵本賞と第57回小学館児童出版文化賞を受賞。『いいからいいから 3』(絵本館)で,第19回けんぶち絵本の里大賞受賞。児童文学総合誌『飛ぶ教室』(光村図書)で,漫画「さんぱつやきょうこさん」を連載中。

Photo: Shunsuke Ito