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2013年夏 長谷川義史 「僕の世界をつくるもの」

絵本作家の長谷川義史さんに,漫画「さんぱつやきょうこさん」の制作にまつわること,絵本づくりのもとになっていること,絵本を読んでくれる子どもたちとの関わりなどについてお聞きしました。

Story3 絵本ライブ——語って描いて歌って

全国各地で「絵本ライブ」というイベントをなさっているそうですね。

 初めは「講演会」として呼んでもらっていたんですけど,講演会って,壇上でずっとしゃべっているっていうイメージがあるじゃないですか。でも,僕のはそんなのとちゃうし,「僕のは,絵本というものを使ったライブの表現やな」と気づいてからは,基本的に「絵本ライブ」という呼び名を使っています。
 ライブでは,自分の絵本の読み聞かせをします。それから,「ライブ紙芝居」といって,ホワイトボードに貼った模造紙に,その場で絵を描きながらストーリーを語り,紙をめくってはまた絵を描いて語っていくような紙芝居もしています。ネタは,あらかじめ用意しておくんですけどね。あとは,ウクレレ弾きながら絵本の歌を歌ったりとかね。「じゃがいもポテトくん」とか「ようちえんいやや」とか,絵本の歌があるので,それを歌うんです。音が入ると,空気が新しくなって生き返ってくれるからね。

長谷川義史

 始めたばかりの頃は,こんなにいろいろな技はなかったんですよ。大人にも子どもにも,なんとかその時間を楽しんでもらおうと思ったら,ただ読んでお話をしているだけじゃなくて,何かせんとね。それで,あれやこれやと工夫してやっているうちに,こういう形になったんです。

始めるきっかけとなったのはどんなことですか。

 やろうと思ってやり始めたんじゃないんですが……僕が絵本をつくり始めようとしている頃,絵本作家さんたちが,ときどき,絵本の読み聞かせ会とか講演会とかをやってはったんです。それで,まだ絵本もつくってへんくせに,「あんなんしてみたいな」と思っていたんです(笑)。それは,単純に,普段は家で絵を描いていて,たまに呼ばれた土地へふらっと行くっていうのは楽しそうだっていうこと。寅さんみたいに,ふらっと旅に出るのがええなと。だから,「もし絵本作家になったら,あんなんしよう。したい」と思っていたんです。

長谷川義史

 その後,絵本をつくりだして何年かしてから,ありがたいことに呼んでもらえる機会があって,それが現実になりました。ただ,結局,皆さんの前でお話をするっていったって,僕は初めにテーマを掲げてやっているんじゃないので,「絵本のつくり方」みたいな話はできないわけです。それでしょうがないから,自分の絵本を読むことから始めました。初めは大人向けとして呼ばれていたんですが,そのうち子どもも来るようになってね。でも,子どもって,すぐに飽きるじゃないですか。だから,絵本をいろいろと工夫して読んだり,絵を描いたりしながら,徐々に,今の「絵本ライブ」の形ができていったという感じです。
 呼ばれなかったら,こんなことしてなかったと思います。僕,だいたいそんな感じやねん。自分から「行くぞ」というんじゃなくて,ふらふらっと行ってみて,そしたら誰かに会ってまたふらふらっと,ここまできたと思っています。

印象に残っている,子どもたちとのやり取りはありますか。

 子どもは正直で我慢しないから,途中で嫌になってきたら騒ぐし,「もう終わってほしい」「まだやるのん」とかはっきり言うんですよね。それがええとこなんやけど,突っ込んできよるから怖いですよ。でも,その分,ウケたときの反応も分かりやすくて,その瞬間は快感ですね。子どもって,嘘がないからおもしろいし,本気で挑まないとあかんと思っています。

長谷川義史

 やり取りからアイデアが生まれることもありますね。例えば,『いいからいいから』(絵本館)という絵本。あれはもともと,「ライブ紙芝居」でやっていたお話なんです。自分で考えたものだけど,「ほんまあほみたいな話やなあ……」と思いながらやっていました。でも,あるとき,幼稚園の男の子が,お母さんと3回続けてライブに来てくれてね。「ライブ紙芝居」のときに,「また今日も,おへそ取られる話をしてくれ」ってリクエストをしてくれた。そのうえ,会が終わった後にやってきて,「あのお話,絵本にしてください。そしたら家でいつでも見れるから」と言うんです。僕は,あの話を自分でやりながらも,「ばかみたいな話やな」と思っていたから,「ほんまにおもしろいん?」ときいたんです。そうしたら,「おもしろい!」と言うんですよ。そのときまで僕は,おもしろいって気いつけへんかった。だから,ほんまに教えてもらったと思っています。

 それで,その話を出版社の人にして,『いいからいいから』の絵本が出ることになったんです。「絵本ライブ」をやっていなかったら,あの絵本は生まれていなかった。普段,自分で考えてんねんけど,それがそんなにおもしろいことなんやって,気がつけへんことがあるんですよ。

長谷川さんには,小学校『国語』教科書3年上巻「いろはにほへと」の挿絵を描いていただいています。

 教科書の挿絵って,自分が子どものときのものをいまだに覚えています。それぐらい特別なものです。この「いろはにほへと」の挿絵は,絵巻みたいに絵が横に続いていくものです。授業中に,ほっとする絵があったらうれしいじゃないですか。だからそういう気持ちを込めて描きました。ときどき,子どもに「教科書に出てた!」と言ってもらえて,それはうれしいことですね。

長谷川義史
「ほっとする」っていうのがいいですね。

 「さんぱつやきょうこさん」もそうだし,僕のはみんなそうです。芯はきっちりあるんだけれども,それを必死で訴えるんじゃなくて,ちょっとほっとするようなものがいい。他者に対しては,「生きていくうえで間違ったことはしなければ,まあそれでええやん」っていうスタンスです。大層なことを言えば,「他者の命のことをもっと考えたら,やらなあかんことはおのずと分かるんだ」って,そういうことをほわあっと伝えるようなことができればいいなあと思っています。それが絵でも,絵本でも,「絵本ライブ」でも表現できて,見てくれた人に伝わってくれたらいいなということですね。


長谷川義史 [はせがわ・よしふみ]

長谷川義史

1961年,大阪府生まれ。絵本作家。絵本『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』『シバ犬のチャイ』(以上,BL出版),『スモウマン』(講談社),『うえへまいりまぁす』(PHP研究所),『がまの油』(ほるぷ出版),『串かつやよしこさん』(アリス館)など多数。
『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で,第34回講談社出版文化賞絵本賞受賞。『かあちゃんかいじゅう』(ひかりのくに)で,第14回けんぶち絵本の里大賞受賞。『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で,日本絵本賞と第57回小学館児童出版文化賞を受賞。『いいからいいから 3』(絵本館)で,第19回けんぶち絵本の里大賞受賞。児童文学総合誌『飛ぶ教室』(光村図書)で,漫画「さんぱつやきょうこさん」を連載中。

Photo: Shunsuke Ito