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2013年冬 佐藤卓 「つなぐ デザイン」

光村図書のロゴマークのデザインを手がけてくださった,グラフィックデザイナーの佐藤卓さんに,デザインや言葉,教育について思うことを伺いました。

Story1 光村図書のロゴマーク

2013年12月,光村図書のシンボルマークとロゴタイプが生まれました。

光村図書ロゴマーク

 デザインしてくださったのは,グラフィックデザイナーの佐藤卓さん。今回は,このロゴマーク制作時のエピソードについてうかがいます。
 ロゴマークのデザインについては,「ロゴマークについて」で詳しくご紹介しています。そちらも合わせてご覧ください。



初めて依頼にうかがったとき,光村図書は佐藤さんの目にどう映っていたのでしょうか。

 教科書をつくり続けてこられているということで,自分でなんとなく抱いていたイメージがありました。そして実際にお話をうかがって感じたのは,「あ,やっぱりそうなんですね」ということ。変化したり,新しいものが次々と生まれたりする世の中で,守り続けているものがある会社なんじゃないかという想像が外れていなかったので,うれしかったですね。
 それに,僕は,子どものための番組づくりに関わるなかで,教育の大切さへの思いを自分なりにもっているので,この出会いはとてもうれしかった。

佐藤卓

 でも,その段階ではまだ見えるものが何もないから,思いが共有できても,それを最終的にどう形にするかというプレッシャーは当然ありました。思いに共感すればするほど,プレッシャーは大きいんですよ。

今回,かざぐるまをモチーフにデザインしていただきました。かざぐるまは,光村図書の原点ともいえるものです。

 光村図書には,「かざぐるま」という,会社にとってとても意味があり,多くの人が頭に思い描けるいい財産がある。でもだからといって,それに頼ってしまっていいんだろうかという気持ちも,どこかにありました。「かざぐるまもいいけど,他にもあるんじゃないの」と思われてはいけませんしね。常にそうですが,本当に,向こう側の見えない森の中を探し回るみたいな感じです。

佐藤卓
昭和25年,光村図書が初めて刊行した小学校国語教科書「かざぐるま」読本。


 かざぐるまの形にしても,単にそれを絵にするだけではどうも納得ができませんでした。「物語性」が浅いような気がして。だけど,うちの会社のデザイナーと相談しているうちに,「折り紙を折ることで形が見える」ということを発見したんです。

佐藤卓
折り紙でつくったかざぐるまに着目。白地に赤い円を描いた紙で折ると,美しいかざぐるまの形が現れた。


 いつも思っているのは,「意味のない形に頼らない」ということ。よくわからない形を自分でつくるのではなく,ある方法によって形が現れるというデザインでありたいんです。そこに意味と説得力が生まれるから。この段階で,意味のある形はできたなと思いました。でも,まだ納得できなかった。

何が足りなかったのでしょう。

 20世紀までのシンボルマークなら,ここまででよかったんだろうな。でも今は,できあがったものをただ見せつけられるのではなく,そこから何か動き出すというようなしかけが必要だと思うんです。動きが生まれたり,人と人との間に会話が生まれたり。シンボルマークのような「モノ」との間にも,インタラクティブな関係がつくれるのではないか。それが僕の考え方です。モノと人との関係は刻々と変化する。だから,この形にももっと可能性があるはずだって思ったんです。

「これだ!」と思える瞬間が訪れたのはいつですか。

 まずは,歌人・塚本邦雄の話をしなければなりませんね。僕は以前,彼の短歌に感動したことがあるんです。「句またがり」ってご存じでしょうか。五七五七七の句をまたいで言葉を乗せるという詠み方のことです。つまり,句の切れ目と言葉の切れ目が異なる。彼はそれを使って,すばらしい短歌をたくさん詠んでいます。初めて出会ったときには,背中がゾクゾクして,短歌で世の中を変えようとしたその志に感動しました。以来,デザインにもこれと同じことが当てはめられるんじゃないかと,ずうっと思っていたんですね。

佐藤卓

 さっきお話ししたように「このままでいいはずがないな」と納得できずにいたときに,そのことを思い出したんです。二つが急に頭の中で重なってね。「あっ! ちょっと待てよ」と。そうするともうワクワクするわけです。試してみたくてしかたがなくなる。かざぐるまを並べたときの形,その間をどう取ればいいかを早く見たくてね。会社に着くやいなや,並べてみました。



佐藤卓
かざぐるまを並べ,そのつながりの部分をシンボライズした。


 そして,「これだ! ここの形だ! これでいける!」と。いつも,気づくのは頭の中での「あっ!」という瞬間。一瞬の出来事。まさに,「デザインあ」ですね(笑)。

三つの案をご提案いただきましたが,満場一致でこのデザインに決まりましたね。デザインの力だと思います。

 クライアントには,いろいろな方向性のデザインをご覧いただきたいので,いくつか案をご提案するようにしています。ただ,無限の可能性が感じられるようなものって,1個見つけられるかどうかという確率だと思うんです。だから,さっきのような瞬間って,本当に「見つかった!」という気持ちなんですよね。

 でも,デザイナーは常に謙虚でいなければなりません。皆さんが本当にそれをいいと思ってくださるかどうかは,全くわかりませんでした。結果,僕がイメージしたことを感じてくださり,皆さんの気持ちがまとまったのだとしたら,こんなにうれしいことはないんですよ。本当に。決まったときは,「やったあ!」と,一つになれた喜びでいっぱいでした。こうなるともう,しばらく幸せでいられます。だからデザイナーをやめられなくなっちゃうという感じですよ(笑)。

佐藤卓
社員一同,大切にしていきます。

 うれしいです。なんとなく,デザインっておしゃれなもの,かっこいいものをつくることだって誤解されている部分があるんですよね。でも,そうではなく,僕は,デザインって「間に入ってつなぐこと」だといつも考えています。このロゴマークも,そういうものになればうれしいなと思います。


佐藤 卓 [さとう・たく]

佐藤 卓

グラフィックデザイナー。1955年,東京生まれ。1979年東京藝術大学デザイン科卒業,1981年同大学院修了。株式会社電通を経て,1984年佐藤卓デザイン事務所設立。
金沢21世紀美術館や国立科学博物館シンボルマーク,武蔵野美術大学美術館・図書館ロゴのデザインなどを手がける。他に,パッケージデザイン,グラフィックデザインなども行う。
また,NHK Eテレ「にほんごであそぼ」の企画メンバーおよびアートディレクター,「デザインあ」総合指導,21_21 DESIGN SIGHTディレクターも務めるなど,活動は多岐にわたる。著書に『デザインの解剖』シリーズ(美術出版社),『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)など。

Photo: Shunsuke Suzuki