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2013年冬 佐藤卓 「つなぐ デザイン」

光村図書のロゴマークのデザインを手がけてくださった,グラフィックデザイナーの佐藤卓さんに,デザインや言葉,教育について思うことを伺いました。

Story2 おもしろくないものは何一つない

デザインに物語性があると,見つけた物語を人に伝えるうれしさが味わえますね。

 変な言い方ですが,僕は「ほどほど」っていう言葉が好きなんです。ネガティブな意味で使われることもある言葉です。でも,僕は「ほどほど」って,最後まで「行き切る」ということを知ったうえで,その手前で止めることだと思っています。それを知らずに手前で止めるのは,「いいかげん」や「手抜き」。行き切ったところを知ったうえで,手前のちょうどいいところで止め,そこまでは徹底的に仕上げるんです。そうすると,残った部分には,ふっと人が入ってきてくれる余地が生まれます。


佐藤卓

 一方的に伝え切って力でねじ伏せるのではなく,ちょっと手前で止めておくというのは,いつも考えることです。場合によっては,「わからない」という部分で止めておく。「え? 何これ」って思った時点で,その人はもうその対象に引き込まれているということですからね。


それが,「間に入ってつなぐ」ということなのですね。

 そう。モノと人をつなぐ,人と人をつなぐ。そこから関係が,そして動きが生まれていく。意外と単純なことなんですよ。基本となるのは,「そういうものを見たら,自分はどう思うだろうなあ」と考えればいいだけのことですから。「客観的になる」ともいえますね。


佐藤卓

 例えば,コーヒーカップ。これが家の中でどんなふうに存在してくれていたらいいだろうと,単純に考えるんです。生活の中で,コーヒーカップが「他のものはいいから,私だけを見て!」って言っていたら,「うるさいんだよ」って言いたくなるでしょう(笑)。「あなたはコーヒーカップ以下では困るけれど,コーヒーカップ以上である必要はないんだよ」と諭したくなりますよね。つまり,コーヒーカップをデザインするときは,そういうことを考えればいいということです。
 こうやって考えることで,そのモノのあるべき姿がだんだん見えてくる。牛乳も,チューインガムも同じです。デザインって,自分が何をやりたいかではないんですよね。



「やりたいことをやる」のではなく,「やるべきことをやる」ということですね。

 さらに言うと,その「やるべきこと」が,自分の「やりたいこと」であるのが理想です。そうしたら,ものすごくいい状態になれます。仕事って,実は全て「やるべきことをやる」ということ。そして,それが「やりたいこと」でもあれば,世の中の役に立てるんじゃないかなと思うんです。
 でも,自分がそうなれているかどうかは別ですよ。自分のことは棚に上げちゃう。自分ではわかりませんからね。僕ができているかどうかは,皆さんが決めることだと思っています。もちろん,自分でいろいろと考えてやりますが,それが実現できているかどうかは,第三者の言葉にこそ真実があるはずです。だからそれを受け入れて,自分を磨いていく。常に自分を疑い,自分に問いかけて,直すべきときにはどんどん直していくことが大切なんです。


デザインするとき,いちばん時間をかけて丁寧にしたいのは,その対象を見つめる段階なのでしょうか。

 そうですね。携わろうとしている対象をどこまで理解できているかが重要ですね。何を形にするかは,対象の中身をどこまで理解しているかで決まるので,ここは何よりも大切なところです。


佐藤卓

 でも,あらゆる物事を完全に理解することなんて絶対に不可能です。ただ,だからといって諦めるということではありませんよ。「どこまで理解できているのか」「まだまだ理解できていないはずだ」と常に疑い続けるべきだということです。
 一方で,デザインは社会とともにあるものだから,必ず時間という制約がつきまといます。つまり,形にするべきときには形にしなければならない。しかし,自分は全てを理解できていない。この矛盾の中でどこまで,納得できるところまでもっていき,形にするかなんです。



パッケージデザインから,教育番組のアートディレクションなど,本当に幅広く活躍されています。

 おもしろくないものは何一つありません。やったことのないことを,まず1回は積極的にやってみる。自分にはそういうところがあると思っています。こんなふうにいろんな仕事をしているデザイナーは,もしかするとそんなにいないのかもしれませんね。


佐藤卓佐藤卓

 僕がこう考えるのには,父親がグラフィックデザイナーだったということが,なんらか影響しているのかなとも思います。父は,昔,容器のデザインをしていたんです。デザインという分野がまだまだ世の中で理解されていなかった時代だと思うんですよね。「デザイン料」って見積もりを書くと,「これは何だ。何に当てはまる費用なんだ」と言われたそうですよ。だから,父はどんなデザインの仕事でもやっていた。そういう姿を見て育ち,「グラフィックデザイナーでも,いろんなことをやるんだ」と自然に思うようになりました。


佐藤卓

 それに,僕にとっては全部がつながっているんです。考えてみてください。コーヒーカップは皿の上に乗っていて,皿はテーブルの上に乗っていて,テーブルは床の上にあって,そこには照明が当たっていて……全部,いろんな関係の中で成り立ち,つながっているでしょう。つながっているんだから,つながりの中で考えていけばいい。単純なことです。
 そう考えていくうちに,自然といろいろなお仕事をさせてもらうようになってきて,そうするとまた,物事を関係の中で考えることが当たり前になってくる。「私はこの分野しかやりません」と決めてしまったら,そんな考え方にはならないでしょうね。物事が関係して他に派生することで,見えてきたり生まれたりするものがあるんだと思っています。


佐藤 卓 [さとう・たく]

佐藤 卓

グラフィックデザイナー。1955年,東京生まれ。1979年東京藝術大学デザイン科卒業,1981年同大学院修了。株式会社電通を経て,1984年佐藤卓デザイン事務所設立。
金沢21世紀美術館や国立科学博物館シンボルマーク,武蔵野美術大学美術館・図書館ロゴのデザインなどを手がける。他に,パッケージデザイン,グラフィックデザインなども行う。
また,NHK Eテレ「にほんごであそぼ」の企画メンバーおよびアートディレクター,「デザインあ」総合指導,21_21 DESIGN SIGHTディレクターも務めるなど,活動は多岐にわたる。著書に『デザインの解剖』シリーズ(美術出版社),『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)など。

Photo: Shunsuke Suzuki