みつむら web magazine

書写の用具研究 第1回

書写の用具研究

2016年12月21日 更新

編集部 光村図書出版

書写の用具を一つ取り上げ、書写用具店の方にお話を伺うコーナーです。

第1回 教えて! 筆のこと

さまざまな筆を扱う書道用具専門店・清雅堂(東京都千代田区)にお邪魔し、店主の廣瀬保雄さんにお話を伺いました。

創業86年の書道用具専門店清雅堂へ行ってきたよ。 筆について、いろいろお聞きしてきました。

 

1. 穂の長さ・太さ

わあ、筆がたくさん並んでる! こんなにいろいろな種類の筆があるんですね。


筆にはさまざまな種類がありますが、穂の長さ・大きさ・材質で分類することができるんですよ。
筆
お店に入った瞬間、ずらっと並んだ筆が目に入る。

 

確かに、よく見てみると、穂の大きさや長さがそれぞれ違いますね。


筆は穂の長さによって、長い順に、長鋒(ちょうほう)、中鋒(ちゅうほう)、短鋒(たんぽう)に区別されます。中鋒がいちばん扱いやすい長さなので、中学生のみなさんが書写の時間に使われているのは、中鋒だと思います。

長鋒はちょっと扱いにくいので、上級者向けです。でも、慣れてくると、長い穂を操って字を書くのはとても気持ちがいいんですよ。それから、穂の太さによって1号から10号まで号数をつけ、区別されています(※)。皆さんが、普段、書写の授業で使っているのは、3~5号あたりでしょうか。小筆として使うのは7~8号だと思います。

※ 筆の太さ(cmは直径)
筆の号数は、製造会社によって、太さが少し変わることがある。

2. 穂の材質

穂の材質についても教えてもらえますか。
 

穂は、毛の種類によって弾力が異なり、書き味が変わってきます。剛毛筆(ごうもうひつ)、柔毛筆(じゅうもうひつ)、兼毛筆(けんもうひつ)に大別されます。
剛毛筆は、馬・狸(たぬき)・鹿などの硬い毛で作られた筆です。弾力が強く、墨含みがよくありません。ですから、楷書を書くときに向いています。
柔毛筆は、主に羊などの柔らかい毛で作られた筆です。弾力が少なく、墨含みがよいのが特徴です。柔らかい書き味なので、初心者にはちょっと扱いづらいかもしれません。行書や草書を書くときに向いています。
兼毛筆は、硬い毛と柔らかい毛を混ぜて作られた筆です。ある程度の弾力性と墨含みがあり、楷書や行書のどちらを書くのにも向いています。

では、中学生が使いやすい筆はどれなんでしょうか。
 

そうですね。やはり、兼毛筆を使われるのがいいと思いますよ。剛毛と軟毛が混ざっているほうが適度な弾力があり、初心者でも扱いやすいんです。

筆には、いろいろな動物の毛が使われているんですね。

鼠(ねずみ)の髭(ひげ)で作った「鼠鬚(そしゅ)」という筆もあります。穂先が利き弾力があり、書聖として名高い中国の王羲之(おうぎし)は、鼠鬚筆を使って「蘭亭序(らんていじょ)」という傑作を残したといわれています。ただし、後世の鼠鬚筆はリスの尾の毛を使ったものです。こういう筆は、専門店でないと手に入らないかもしれません。

筆の説明をする店主
穂の材質について説明する店主の廣瀬さん。
 

3. 筆の使い方

お店に並んでいる筆を見ると、穂がふさふさの状態のものと、固まった状態のものとがありますね。
 

ふさふさの状態のものを「捌(さば)き筆」、糊で固めた状態のものを「固め筆」といいます(写真参照)。
捌き筆は、根本まで墨を含ませて使います。いっぽう固め筆は、3分の2ぐらいまで手でもみほぐし、水やぬるま湯につけて糊(のり)を取り除いてから使います。

筆を使った後は、墨がついた部分を水洗いして、反故(ほご)紙などで水切りし、穂先を整えて乾かすようにしてください。

捌き筆と固め筆
固め筆(左)と、捌き筆(右)

4. 書を好きになってほしい

筆を買うときは、どうやって選んだらよいのでしょうか。
 

先ほど話したように、中学生の皆さんには、兼毛筆で中鋒の3~5号の筆が扱いやすいと思います。
でも、自分に合った筆かどうかというのは、実際に書いてみないとわかりません。もっと言えば、書いてもすぐにはわかりません。何度も書いてみて、やっと「この筆はいいな」とわかるものです。ですから、自分に合った筆に出会うのは簡単ではないんですよ(笑)。

店内に並ぶ筆は上海、蘇州など、中国から輸入されたものも多い。

 

いつか自分に合った筆に出会えるようになりたいです。
 

私はこの仕事をして50年以上になりますが、幼い頃から書が大好きでした。昔は店の奥に小さな座敷があって、そこで店の人たちといっしょに、書の先生に習っていたんです。
この店は、父が昭和3年に創業したのですが、私が店を継いだのは、戦後の復興が始まった頃から。その当時は、「書を本格的にやろう」とお客さんの意気込みがすごかったんですよ。半紙を2,000枚一締めで売っていたのですが、その一締めを購入して、一生懸命に書の練習をしている人がたくさんいました。活気がありましたね。
みなさんにも、ぜひどんどん書いて、書のおもしろさを味わってほしいと思います。そして、うちみたいな書道用具店に、ぜひ脚を運んでみてください。いろいろな筆がありますので、見ているだけでも楽しめると思います。

 

ぜひ、また伺いたいです。今日は、ありがとうございました!

Illustration: KAMO

清雅堂(せいがどう)

東京都千代田区神田須田町1-14
Tel:03-3256-3011  Fax:03-3256-3014
営業時間:10:00~18:30 (土~18:00)
定休日:日曜・祝日

次回は、筆ができるまでの工程をご紹介します。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集