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藤原 えりみ

美術ジャーナリスト

いま話題の展覧会を一つ取り上げ,その見どころをご紹介します。

藤原えりみ(ふじはら・えりみ)

1956年山梨県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・國學院大學非常勤講師。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。雑誌『和楽』(小学館)で,美術に関するコラムを連載中。光村図書高等学校『美術』教科書の著作者でもある。

第2回 草間彌生 わが永遠の魂

2017.04.04

「草間彌生 わが永遠の魂」

国立新美術館(東京都港区) 企画展示室1E  2017年2月22日(水)~5月22日(月) 

この展覧会の見どころ

(1) 約80年に及ぶ画業に触れる大個展

(2) ジャンルを超える多才なマルチアーティスト

(3) 現在進行形の熱い創作意欲

最初の展示室に足を踏み入れた瞬間,三方の壁を埋め尽くしている作品のパワーに圧倒される。2009年から継続中の最新の絵画シリーズ「わが永遠の魂」から厳選された作品群で,その数132点! それも100号(162×162cm)と120号(194×194cm)という大画面。さらに展示室中央には,カラフルな水玉模様が踊るような巨大な花の立体作品が数点置かれ,展示室全体が鮮やかな色彩と抽象的な形から生まれるリズムで躍動しているようなのだ。

画像,展示風景

※1 「わが永遠の魂」より

なんともまあ……と,思わず息を呑むこと必至。

ここでガツンと首根っこを捕まれたような気分になるも,一息深呼吸して,右側の入口から最初の展示室に向かう。10歳で描いた鉛筆画(すでに水玉の原型のような斑点がちりばめられている)から始まり,画家として認められつつあった20代の終わり頃までの作品群だ。幻覚に襲われる不安定な精神状態に苦しみながらも,絵を通じて自らを取り巻く不穏な世界との対話を試みる意志の強さが感じられる。日本のシュルレアリスムの中心人物であった,詩人の瀧口修造に認められたこともあってか,初期作品にはシュルレアリスム的な幻想性が漂う。

しかし前衛芸術家・草間彌生が誕生するのは,28歳で渡米し44歳で帰国するまでの16年間を過ごしたニューヨークにおいてだ。細かい網の目が画面を覆うネットペインティング(※2),男性性器を思わせる突起状の布でできたモチーフで立体物を覆うソフトスカルプチュア(※3),参加者の裸体に水玉のボディペイントを施したり自らの身体を使って歩いたりするパフォーマンスなど,ジャンルを超えた制作活動を展開。緻密な手業の集積である密度の高い造形作品と社会的メッセージを備えたパフォーマンスは,当時の最先端の表現であり,文字通り「前衛」の斬新さを備えていた。だが創作活動への過度の傾注のせいか体調を崩し,日本に帰国。

画像,草間彌生の作品

※2 《No. AB.》1959年 豊田市美術館蔵 ⓒYAYOI KUSAMA

画像,草間彌生の作品

※3 手前/《最後の晩餐》 千葉市美術館 奥/《太陽の雄しべ 》富山県美術館 いずれもⓒYAYOI KUSAMA

帰国後は死と向き合うような精度の高いコラージュ作品を制作する一方で,小説やエッセイなど文学創作も手がけるようになる。現在に至る主著は31冊と,執筆活動でも旺盛な創作意欲に圧倒される。帰国後しばらくは日本での評価が定まらず辛い時期を過ごしたようだが,90年代に入ると日本だけでなく世界でも草間作品の再評価が高まる。そして作品もまた,明るさと力強さを増し,生きる歓びを歌い上げるような大らかさを獲得していく。

少女時代の展示室からぐるりとめぐって,観客は最初に足を踏み入れた展示室,つまり現在の草間彌生作品の空間に戻ってくる。2000年代初期までの作品と比べると1点1点の作品の精度や密度,完成度はやや緩くなっているかもしれない。だが,ここには宇宙へと突き抜けていくような,ひたすらな生への肯定が充ち満ちている。鮮やかな色彩空間に囲まれてふと思う。「200歳まで生きても描きたいものが途切れない」(注)と語る草間だが,彼女の作品は見る人の背中もそっと押してくれるのだ。「生きなさい」と。

(注)「闘争心と乙女心が交錯する草間彌生の“3つの時代”」(『WEB 女性自身』2017年3月5日配信)より

次回は,「バベルの塔」展をご紹介します。

「草間彌生 わが永遠の魂」

【会場】国立新美術館(東京都港区) 企画展示室1E
【会期】 2017年2月22日(水)~5月22日(月)
【開館時間】10:00~18:00 金曜日は20:00まで
※4月29日(土)~5月7日(日)は毎日20:00まで開館
※入場は閉館の30分前まで