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展覧会へ行こう!

藤原 えりみ

美術ジャーナリスト

いま話題の展覧会を一つ取り上げ,その見どころをご紹介します。

藤原えりみ(ふじはら・えりみ)

1956年山梨県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・國學院大學非常勤講師。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。雑誌『和楽』(小学館)で,美術に関するコラムを連載中。光村図書高等学校『美術』教科書の著作者でもある。

第3回 「バベルの塔」展

2017.04.26

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-

東京都美術館(東京都台東区) 2017年4月18日(火)~7月2日(日) 

この展覧会の見どころ

(1) ピーテル・ブリューゲル1世「バベルの塔」本邦24年ぶりの展示

(2) ヒエロニムス・ボスの代表作2点本邦初公開

(3) 緻密な描写と大気の広がり,透明感あふれる色彩の魅力

「こんなに根を詰めて描き続けていたら,そりゃあ早死にもするだろうなあ……」。40歳前後で亡くなった,16世紀ネーデルラント(オランダとベルギーにまたがる地域)絵画を代表する画家ブリューゲル。40点ほどしか残されていないという油彩画のひとつ「バベルの塔」の前で,ため息とともに思わずつぶやいてしまった。

画像,バベルの塔

ピーテル・ブリューゲル1世 
《バベルの塔》
1568年頃 油彩,板
Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

画面の中央には巨大な円形の塔,塔の右手には大型船が停泊中の賑わう港湾,左手にはのどかな田園風景が見はるかす限り延々と続く。塔の建設に携わる人々や塔の手前の敷地で建設資材の煉瓦を焼く人々,田園で農作業にいそしむ人々などがびっしりと描き込まれ,米粒ほどの小さい姿を目で追っていくうちに絵の空間に引き込まれていく。さらに巻き上げ機などの建築機材や作業用の仮小屋と思しき建物,洗濯物のような布などが次々と浮かび上がり,見れば見るほど細部が立ち上がってくる驚きに包まれる。しかも,縦59.9cm×横74.6cmという小さな画面に描き込まれた人物は約1400人(!)。情報密度の凝縮度が尋常ではない。というわけで,冒頭の感嘆とあいなった。

バベルの塔は『旧約聖書』の「創世記」に登場する巨大な塔で,神に迫ろうとする人間の傲慢さの象徴と解釈されてきた。ブリューゲルはこの塔にどんな意味を込めていたのだろう。人間の愚かさを戒める意味なのか,それとも所蔵館のボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館のエックス館長が語るように「大事業に挑戦することは,たとえ結果的に失敗したとしても価値がある」という人間的な試みへの讃歌なのか。農民の風俗や当時の人々の生活風習をユーモアと辛辣な風刺を込めて描いたブリューゲルだからこそ,人工と自然あるいは人為と神意の相克に込められた意味は,単純なものではなさそうだ。

そのブリューゲルに大きな影響を与えた画家が,一世代前のヒエロニムス・ボスである。ボスといえば奇怪な妖怪めいた動物や人間たちが跋扈(ばっこ)する摩訶不思議な祭壇画が有名だが,今回見られる2点は比較的小品で,繊細極まりない彼の色遣いや細部描写をじっくりと味わうことができる。《聖クリストフォロス》では奇妙な樹上の壺型の家や吊される熊など,背景に描かれた細部が興味をそそる。そして,ブリューゲルに引き継がれていくことになる,青く霞む広大な遠景の風景と透明な大気の表現に目を奪われることだろう。

画像,聖クリストフォロス

ヒエロニムス・ボス 
《聖クリストフォロス》
1500年頃 油彩,板
Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands (Koenigs Collection)

ヘラルト・ダーフィットやヨアヒム・パティニールなど,他の画家の作品も比較的小品ながらネーデルラント絵画特有の細密描写が魅力的だ。さらに,ボスやブリューゲルの版画でも,小画面に異様な風体の人間や怪物がみっしりと描き込まれているため,単眼鏡必携の展覧会だ。

出品作品の魅力に加えて関連企画も充実している。本展覧会では東京藝術大学COI拠点とオランダ芸術科学保存協会との連携による高精細複製画や,漫画家・大友克洋による塔の内部を想像して制作された《INSIDE BABEL》の展示,東京藝大のArts & Science LABでは立体模型とプロジェクションマッピングの展示もある。さらには,上野の松坂屋,マルイ,アトレ,エキュートには,バベルの塔をテーマにした特別プレート「バベル盛り」(!)を提供する飲食店も。上野は「バベル祭り」真っ最中であります。

次回は,「ジャコメッティ展」をご紹介します。

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展

【会場】東京都美術館(東京都台東区)企画展示室
【会期】2017年4月18日(火)~7月2日(日)
【休室日】月曜日 ※ただし,5月1日(月)は開室
【開室時間】9:30~17:30 
毎週金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)