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展覧会へ行こう!

藤原 えりみ

美術ジャーナリスト

いま話題の展覧会を一つ取り上げ,その見どころをご紹介します。

藤原えりみ(ふじはら・えりみ)

1956年山梨県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・國學院大學非常勤講師。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。雑誌『和楽』(小学館)で,美術に関するコラムを連載中。光村図書高等学校『美術』教科書の著作者でもある。

第6回 レオナルド×ミケランジェロ展

2017.08.30

「レオナルド×ミケランジェロ展」

三菱一号館美術館(東京都千代田区) 2017年6月17日(土)~9月24日(日)

この展覧会の見どころ

(1) 美術史上でもまれに見る天才どうしの白熱したライバル関係!

(2) 画家の目と彫刻家の目の違いを実感できる素描の数々

(3) 近年,ミケランジェロ作と認定された裸体のキリスト像も展示

レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ,その二人の作品を対比して展観する展覧会が開催中だ。ポスターやチラシ等を手にして「素描が多いんだよね~」と思われた方も多いだろう。だが,その素描そのものがやっぱりスゴイんです!(イタリア・ルネサンスを代表する巨匠の二人なのだから当然といえば当然なのだけれど。)

彼らは素描を通して,人間や動物など自然の産物の奥に潜む秩序や理想的な形態を追求した。二人にとって,素描とは単なる手業の訓練のためのスケッチや大作のための下絵ではなく,創造の根幹に迫る精神的な行為の痕跡でもあったのだ。

今回出品されるレオナルドの素描群はトリノの王立図書館所蔵のもので,ポスターのメイン画像としても使われている《少女の頭部》(※1)は,かつて美術史家バーナード・ベレンソンが「世界でもっとも美しい素描」と絶賛した傑作(実は筆者も,レオナルドの作品のなかで1点選べと言われたら,「モナ・リザ」でも「最後の晩餐」でもなく,この素描を選ぶ)。展覧会は,この少女の素描と,ミケランジェロが弟子をモデルに描いたといううつむいた横顔の素描(※2)の比較から始まる。この二つを見ただけで,二人の違いに気づく方も多いだろう。繊細な描線とハッチングによる陰影を通して周囲の空間までも描き出そうとするレオナルド。それに対して,対象の形態を通して存在するものの量感と実在性を捉えようとするミケランジェロ。それはとりもなおさず,画家と彫刻家の目の違いでもある。

画像,レオナルドの素描

※1  レオナルド・ダ・ヴィンチ
《少女の頭部/<岩窟の聖母>の天使のための習作》 (1483-85年頃)
トリノ王立図書館 ©Torino, Biblioteca Reale

画像,ミケランジェロの素描

※2 ミケランジェロ・ブオナローティ
《<レダと白鳥>の頭部のための習作》 (1530年頃)
カーサ・ブオナローティ
©Associazione Culturale Metamorfosi and Fondazione Casa Buonarroti

絵画と彫刻のいずれが優れているのかという,当時盛んに行われた議論「パラゴーネ」についての展示もあって,この二人が互いに才能を認め合いつつも強力なライバル意識をもっていたことがわかる。ミケランジェロは絵画も制作したが,本人はあくまでも彫刻家という意識をもっていた。レオナルドは彫刻作品を試みるものの戦争などに翻弄されて実現できなかったのだが,やはり彫刻よりも絵画を優位に置いていた。このあたりの資質の違いが,3階から2階へと展示を追っていくにつれて,男性裸体や馬など同一主題の2人の素描の比較によって浮かび上がってくる。

見比べながら歩いていると,壁に書かれたレオナルドの言葉が目に飛び込んできた。「君の人物像の全ての筋肉を明瞭に見せようとするな。もしそれを守らないなら君は人物ではなく,クルミの入った袋を描写したようになるだろう」。そ,それってミケ様のことじゃない?!爆笑。(いや~,レオ様。衆人の面前でレオ様を罵倒したミケ様のような傍若無人さはないものの,貴方も結構イケズなお方ですわねえ。)

さてさて冗談はともかくも。今回の見どころの一つに,近年ミケランジェロ作と認定されたキリスト像がある(※3)。高橋明也館長によると,大理石に疵(きず)があることがわかり,おそらく頭部と体の一部を掘り出したところでミケランジェロは制作を放棄。その後,別の彫刻家が仕上げたものとのこと。確かに,ミケランジェロ作品というにはお腹周りの緩みや,緊張感皆無のぽってりしたお尻に違和感を覚える(フィレンツェの「ダヴィデ像」の引き締まったお尻と比較してみよう!)。だが,黒い疵の走る顔の表情には鬼気迫るものがあり,ミケランジェロらしさの片鱗が感じられる。

画像,ミケランジェロの彫刻

※3 ミケランジェロ・ブオナローティ
(未完作品,17世紀の彫刻家の手で完成)
《十字架を持つキリスト(ジュスティニアーニのキリスト)》(1514-1516年)
大理石 2500(キリスト像だけで2010)mm
サン・ヴィンチェンツォ修道院付属聖堂所蔵

「ダヴィデ像」はこちらから(アカデミア美術館)

フィレンツェ市庁舎の大評議会の間で競い合うはずだった二人の作品は完成せず,また「レダと白鳥」というギリシャ神話由来の同主題による油彩画もオリジナルは失われてしまった。互いをライバル視しながらも,時代の波間に沈んでいった作品に共通性が見いだせるのも興味深い。これら二つもそれぞれ対比することができたなら……と,溜息とともに思わずにはいられない。

次回は,9月下旬アップ予定です。

※三菱一号館美術館のサイトには,さまざまな魅力的なコンテンツがアップされているので,参照されたい。

三菱一号館美術館・高橋館長による「館長タカハシの納得レオ×ミケ『イデアと人体』 vol.1/vol.2」はこちらから

ルネサンス美術研究者・めりさんによる漫画「本当にあったレオミケ話」はこちらから

「レオナルド×ミケランジェロ展」

【会場】 三菱一号館美術館(東京都千代田区)
【会期】 2017年6月17日(土)~9月24日(日)
【開館時間】 10:00~18:00
(祝日を除く金曜,第2水曜,会期最終週平日は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
【休館日】 月曜休館(ただし,祝日は開館)
【お問い合わせ】 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
※岐阜歴史博物館(岐阜県岐阜市)に巡回。2017年10月5日(木)~11月23日(木)

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