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藤原 えりみ

美術ジャーナリスト

いま話題の展覧会を一つ取り上げ,その見どころをご紹介します。

藤原えりみ(ふじはら・えりみ)

1956年山梨県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・國學院大學非常勤講師。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。雑誌『和楽』(小学館)で,美術に関するコラムを連載中。光村図書高等学校『美術』教科書の著作者でもある。

第7回 ヨコハマトリエンナーレ2017
島と星座とガラパゴス

2017.10.03

「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」

会場:横浜美術館・赤レンガ倉庫1号館・横浜市開港記念会館 地下 2017年8月4日(金)~11月5日(日)

この展覧会の見どころ

(1) 3年に1回開催される,横浜を舞台とする国際芸術展の第6回

(2) テーマは,グローバル化とネットワーク化の一方で,民族・宗教・経済状況などにより細分化されつつある世界のありさま。

(3) 38組のアーティストと1プロジェクトが参加。アーティスト一人一人の作品世界と対話できる個展に近い展示形式。

多いときには100組以上のアーティストが参加したこともある横浜トリエンナーレだが,今回は38組と1プロジェクトに絞り込み,各アーティストの展示スペースをしっかりと確保した展示となっている。そのため,三つの会場のいずれにおいても,一人一人の作品と対話できる空間が生まれている。

今回のテーマは「島と星座とガラパゴス」。この三つの単語,最初はピンと来ないかもしれない。けれども,このフレーズには,多国籍企業による経済のグローバル化とデジタルメディアによるネットワーク化が進む一方で,SNSなどで形成された小さなコミュニティを通じて,他とは孤絶しつつ密度の高いコミュニケーションも成立する,現代社会の諸相が織り込まれている。大海の島々と夜空の星は無限の中に浮かぶ有限性のシンボルなのだが,人間は,その有限な存在を結びつけ,その関係性に生活の基盤や意味を見出してきた。宗教,民族,政治,経済のいずれにおいても軋轢と断絶,接続と多様性が展開する現状を,アートはどのようにとらえ,そして変えていけるのか……。壮大なテーマではあるが,今の私たちが絶えず見据えていかねばならないヴィジョンだと言えるだろう。

まずは横浜美術館の入口に展示されている中国人アーティストのアイ・ウェイウェイの作品(※1)。美術館の外壁にずらりと並ぶのは救命ボート,そして入口両脇の柱を覆うのは,実際に難民たちが使った救命胴衣。カラフルなオブジェながら,救命胴衣に包まれていた難民の一人一人の身体が浮かび上がる。その手前には,2004年に北極圏の後退した氷河の下から現れた島に触発されたイギリスのアレックス・ハートリーの,独立国家を立ち上げるプロジェクトで,島の断片を搭載した移動式の建物はその大使館という設定(※2)。

画像,ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

※1 アイ・ウェイウェイ(艾未未)《安全な通行》2016 《Reframe》2016
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景(横浜美術館)
Photo: KATO Ken
©Ai Weiwei Studio  
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

画像,ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

※2 アレックス・ハートリー 《どこでもない国大使館》2017
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景
Photo: KATO Ken
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

かつてベトナム戦争後に移住を希望するボート・ピーブルが滞在していた島をテーマとするベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンの映像作品や,柳幸典の憲法第9条をLEDで立体化した作品(※3),畠山直哉の東日本大震災で被災した陸前高田の風景を円形のブースに展示した写真作品(※4)など,世界情勢や環境問題,国家とは……といったシリアスな問いを静かに語りかける作品がある一方で,そうした問題をユーモアのオブラートでくるんで呈示する,思わず吹き出してしまうような作品もある。

画像,ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

※3 柳幸典 《Article 9》2016
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景
Photo: KATO Ken
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会
(会場:横浜市開港記念会館地下)

画像,ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

※4 畠山直哉 《陸前高田市高田町 2012年6月23日 #1》
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景
Photo: TANAKA Yuichiro
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会
(会場:横浜美術館)

たとえば,新疆ウイグル自治区出身のザオ・ザオ。民族問題の舞台となるタクラマカン砂漠に冷蔵庫を運んでビールを飲むというプロジェクト(※5)。ドイツのクリスチャン・ヤンコフスキーの《重量級の歴史》(※6)もかなりインパクト大だ。ポーランドの社会主義国家時代の遺産であるさまざまな銅像を重量挙げの選手たちが持ち上げる様子をTV番組仕立にした映像作品で,なんとも無目的に思える行為を真面目にこなす選手たちとレポーターの発言に思わずニヤニヤ。

ザオ・ザオの映像作品,イメージ

※5 ザオ・ザオ(赵赵)《プロジェクト・タクラマカン》2016 イメージ
(会場:横浜美術館)

クリスチャン・ヤンコフスキーの映像作品,イメージ

※6 クリスチャン・ヤンコフスキー《重量級の歴史》2013
Photographer: Szymon Rogynski 
Courtesy: the artist, Lisson Gallery
(会場:横浜赤レンガ倉庫1号館)

そうした作品と並んで,歴史や人と人のつながりについて内省的な時空に導いてくれるものもある。野口英世や藤田嗣治,ジョン・レノンをテーマとする「帰って来た○○」シリーズの小沢剛の新作《帰ってきたT.K.O.》(T.K.Oが誰であるのかは行ってみてのお楽しみ。横浜に縁のある歴史上の人物です)には,歴史の波に揉まれた文化人の悲哀が漂う。また,アイスランドのラグナル・キャルタンソンの作品《ザ・ヴィジターズ》(※7)は,ある邸宅の別々の部屋で9人の演奏者が同時に音楽を奏でる映像インスタレーションで,孤立と接続というまさに今回のテーマにぴったりの作品であるうえに,演奏の質の高さと叙情的なメロディに思わず聞き惚れてしまうことだろう。

画像,ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景

※7 ラグナル・キャルタンソン《ザ・ヴィジターズ》2012
ヨコハマトリエンナーレ2017展示風景
Photo: TANAKA Yuichiro
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会
(会場:横浜赤レンガ倉庫1号館)

巡回バスが用意されているとはいえ,1日で3会場のすべてを回るのは難しいので(特に映像作品を押さえるためには),できれば横浜美術館1日,赤レンガ倉庫1号館と横浜市開港記念会館で1日というスケジュールで動くのがお薦め。1か所につき当日中は出入り自由で,他会場は別の日でもOKというチケット制度を活用したい。また黄金町バザールや氷川丸内での展示など関連イベントもあるため,事前に情報チェックして出かけよう。 

次回は,11月上旬アップ予定です。

「ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス」

【会場】横浜美術館・赤レンガ倉庫1号館・横浜市開港記念会館 地下 ほか
【会期】 2017年8月4日(金)~11月5日(日)
【開館時間】 10:00~18:00  ※最終入場17:30
10/27(金),10/28(土),10/29(日),11/2(木),11/3(金・祝),11/4(土)は20:30まで開場(最終入場20:00まで)
【休場日】 第2・4木曜日(8/10,8/24,9/14,9/28,10/12,10/26)
【お問い合わせ】03-5777-8600(8:00-22:00)ハローダイヤル

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