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展覧会へ行こう!

藤原 えりみ

美術ジャーナリスト

いま話題の展覧会を一つ取り上げ,その見どころをご紹介します。

藤原えりみ(ふじはら・えりみ)

1956年山梨県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了(専攻/美学)。女子美術大学・國學院大學非常勤講師。著書に『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。雑誌『和楽』(小学館)で,美術に関するコラムを連載中。光村図書高等学校『美術』教科書の著作者でもある。

第8回 驚異の超絶技巧!
ー明治工芸から現代アートへー

2017.10.27

驚異の超絶技巧! ―明治工芸から現代アートへ―

三井記念美術館 2017年9月16日(土)~12月3日(日)

この展覧会の見どころ

(1) 欧米で評価された明治時代の工芸技術の真髄

(2) ㎜単位の細部にまでこだわる驚異的リアリズムと超絶技巧的な手業

(3) 明治時代の名工たちの遺伝子を受け継ぐ現代作家15名の作品も

明治時代の輸出用工芸品を収集・展示する京都の清水三年坂美術館の所蔵品で構成された「超絶技巧!明治工芸の粋」展が,東京の三井記念美術館で開催されたのは2014年4月のことだった。東京国立博物館や東京藝術大学所蔵の金工品や陶芸品を通して,鷲(わし)や蟹,植物,自在置物の蛇などを実物そっくりに作り上げる驚異的な江戸時代から明治時代の職人技を知ってはいたのだが,この展覧会では,金工や陶芸だけでなく,牙彫(げちょう),木彫,漆芸,刺繍絵画など,初めて見る精緻極まる作例に目を奪われっぱなし。とにかく写実追求と細密な作業の徹底ぶりが尋常ではない。明治維新によって仕事を失いかけるも,殖産興業の一環として明治政府が奨励した輸出用の工芸品制作に活路を見出した,刀装金工や甲冑(かっちゅう)師,仏師,根付師ら,職人の自負と執念が込められているかのようだ。

前回とは異なる出品作で構成されている第2弾となる今回の展示でも,まるで磁石に吸い寄せられる金属のように,目が勝手に作品の細部に吸い寄せられていく。たとえば,前回展で大きな話題となった象牙彫師の安藤緑山(あんどうろくざん)。今回も実物大のキュウリやブドウ,干し柿などなど,どう眺めても象牙には見えない質感表現に陶然とする。とくに半透明なブドウの粒のなんとみずみずしいこと! 

画像,安藤録山の作品

安藤緑山 《葡萄》 個人蔵

写実追求という点では陶芸の初代 宮川香山(みやがわこうざん)も忘れがたい。高さ50㎝ほどの花瓶の表面を覆うのは,立体的に作られた崖に止まる鷹(たか)。鋭い顔貌や羽根の1枚1枚,ごつごつした岩肌,緑色の花の,とても焼き物とは思えないリアルな立体造形。彼の作品で最初に驚いたのは,東京国立博物館蔵の蟹が張りついた鉢だったが(なぜ鉢に蟹??),こちらはさらに手が込んでいて恐れ入谷の鬼子母神。人は理解できないものに遭遇したときに笑うと言われるが,私にとっては香山の作品はまさにそれ(「やりすぎですってば」とつぶやきつつクスッと)。

画像,宮川香山の作品

初代 宮川香山 《崖二鷹大花瓶》 眞葛ミュージアム蔵

細密な描写技術にもすさまじいまでの迫力が宿っている。並河靖之(なみかわやすゆき)の有線七宝による「花文飾り壺」は高さ12㎝。決して大きくはない壺に描かれた藤や菊の花や文様の輪郭線は細い金属線で作られているのだから,作業工程を思い浮かべるだけでも気が遠くなりそうだ。

画像,並河靖之の作品

並河靖之 《花文飾り壺》 個人蔵

金・銀・銅,鉄,四分一(銀と銅の合金),赤銅(銅と金の合金)などの複数の金属を組み合わせて,精密な彫りや象眼を施す技術は日本独特のものであり,欧米で大人気を博したという。作者不詳の「鐘楼形時計」には,まさにその高度な技術がてんこ盛り。屋根には飛天や龍,1階の外壁には厳島や金閣寺などの名所,鐘楼の基礎部分には菖蒲(しょうぶ)や鷺(さぎ)が描き出され,2階には小さな梵鐘(ぼんしょう)と鐘撞き棒が見える。㎜単位以下の細部に至るまで気を抜かず手を抜かず。息苦しいまでの緊張感とシャープな造形に,これまた絶句。

画像,鐘楼形時計

無銘 《鐘楼形時計》 清水三年坂美術館蔵

他にも紹介したい作例は多いのだが,現代作家について少し触れておきたい。今回出品した15名は,展覧会監修者の山下裕二氏が見出した作家たち。いわゆる現代美術の世界とも伝統工芸の世界とも一線を画して,ひたすら黙々と制作を続ける彼らの作品には,明治工芸のDNAが受け継がれていると山下氏は語る。金属で植物をモチーフとする作品を制作する鈴木祥太の「綿毛蒲公英」(※1),不思議な生命感に満ちた動物や爬虫類を大理石でつくる佐野藍(※2)。二人とも1980年代末生まれという若さだが,池田学など「がっつり描き込み系」の画家に対する評価が高まるなか,立体でも彼らのような手の技術を活かした作品が評価される日も遠くないのではないかと思う。

画像,鈴木祥太の作品

※1 鈴木祥太 《綿毛蒲公英》 個人蔵

画像,

※2 佐野藍 《Python xxx》 個人蔵

画家の山口晃氏がいくつかの作品にユーモア溢れるコメントを寄せている,展覧会のウェブサイトも楽しい。ここでは紹介しきれない作品の画像も見られるので,サイトをご覧いただいて,再来年まで各地を巡回する息の長い展覧会ゆえ,鬼気迫る明治工芸の実物にぜひ触れて欲しいと思う。

次回は,「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」をご紹介します。

「驚異の超絶技巧!―明治工芸から現代アートへ―」

【会場】三井記念美術館
【会期】2017年9月16日(土)~12月3日(日)
【休館日】毎週月曜日 
【開館時間】10:00~17:00 入館は30分前まで
※岐阜県現代陶芸美術館(2018年6月30日~8月26日),山口県立美術館(2018年9月7日~10月21日),富山県水墨美術館(2019年1月26日~4月14日),あべのハルカス美術館(2019年1月26日~4月14日)に巡回。

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