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スペシャル対談 宇野亞喜良×石井睦美 [後編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2016年6月9日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

スペシャル対談「今江さんのこと、『飛ぶ教室のこと』」宇野亞喜良×石井睦美 [後編]

5月9日、東京・ジュンク堂池袋本店。「飛ぶ教室」第45号発売記念として、イラストレーター・宇野亞喜良さんと作家・石井睦美さんのトークイベント。
2回に分けてお送りしている今回は後編、「『飛ぶ教室』のこと」についてです。児童文学界のこれから、雑誌の存在意義を感じられる対談となりました。

画像、対談の様子

格好いいメディア

石井 「ユリイカ」の編集者時代、会社の近くにあった「書泉グランデ」によく行っていたんですが、ある時、その児童書のコーナーに「飛ぶ教室」創刊号が、おまけのゼロ号と一緒に置いてあったんです。それを見た瞬間、「ああ、なんてすごい雑誌が出たんだろう」って思いました。

宇野 「飛ぶ教室」は、今江さんが立てたコンセプトで始まったんでしょう?

石井 ええ。「飛ぶ教室」創刊時には、その袖に「飛ぶ教室」の理念が書かれています。これも今江先生が書かれたものなんです。それは今江先生の児童文学に対する気持ちそのままだったんじゃないかな。

画像、「飛ぶ教室」創刊号
「飛ぶ教室」創刊時には、
「なぜ飛ぶ教室か」が袖に書かれていました。

 

宇野 我々絵描きも何かそういうものをやんなきゃって、太田大八さんがそういう思いをもっていた。それで、今江さんに相談に行ったりして、「Pee Boo」っていう絵本情報誌ができたんですね。そこを考えても、今江さんはこの業界の中ですごい働きをしている。出版社は銅像を建ててあげなきゃいけないくらい(笑)。

「飛ぶ教室」は光村の格好いい出版物なんだけど、売れてるのかな? 誠文堂新光社も「アイデア」という雑誌を出していて、やりたい放題やっていて格好いいんだけど、それも売れてるかどうかは分からない。
だけど、そんなふうに出版社が一つ格好いいメディアをもっていると、その出版社全体の哲学がある感じがしますよね。

石井 本当に。

宇野 景気のこともあって、売れる売れないってたいへんですけど、逆にこういう時代だから、とんでもない出版社が、とんでもない本を出すっていうこともあり得る気がします。とんでもない出版社と巡り合いたいですね。

石井 そのとんでもない出版社と巡り合うためには、やっぱり自分が頑張ってちゃんとしたものを書かないとなって。

宇野 そういうことですね。昨年文芸誌「群像」の企画で、6人の作家が絵本的な文学を書いて、それに6人の絵描きが絵をつけるというのがあって、今年も5月号でそれをやったんですが、その絵描きの1人に選ばれて絵を描いたんですね。それは、いわゆる子どものための文学、子どものための絵ではなくて、結構しつこい絵とか、アーティスティックな絵でできている。今後絵本になるかどうか、売れるかどうか分からないけど。

石井 是非絵本にしてほしいですね。出版社も作家も慈善事業じゃないので、もちろん売れたほうがいいのだけれど、でも、子どもが見た時に「こんな世界があるんだ」って思う本や作品が世の中にあってほしいし、そういうものに教室の片隅や児童書コーナーで出会えるといいと思います。私が「飛ぶ教室」の編集人をやらせてもらった時にも、そんな気持ちで作っていました。

宇野 「飛ぶ教室」っていうのは、「これを読むと児童文学が書けるようになる」というわけではないんですよね?

石井 そうです。書きたくなるということはあるかもしれないけど。

宇野 例えば、「イラストレーション」って雑誌も、それを読んでいればイラストレーションがうまくなるかって言ったら、そうではない。そんな雑誌を買うよりも、映画でも観たほうがその栄養になるんじゃないかとも思うんだけど、でも、こういう雑誌自体が一種のエンターテインメント。面白い存在として在ればいいと思うんです。

石井 そうですね。「飛ぶ教室」に限らず、こういう類の雑誌がどんどんなくなっていく日本だとしたら……ちょっとさみしくないですか?

冒険し続ける

宇野 石井さんが「飛ぶ教室」の編集長だったのは、僕にとってラッキーなことで、とても面白い綴じ込み絵本の仕事をくれたんですよね。石井さんとも組んだけど、蜂飼耳さんとのほうが先だったかな。

石井 ええ、蜂飼さんのは「エスカルゴの夜明け」(「飛ぶ教室」第2号 2005年 所収)ですね。

宇野 主人公の少女は、エスカルゴを育てているおじさんに引き取られている。その女の子が、おじさんの留守中にやってきた少年と二人でエスカルゴを全部食べて、うちを出ていっちゃうっていう話でしたよね。僕はそういう変な不良っぽい女の子を好きだから、文には靴を履いていないとは書いていなかったけど、女の子をはだしで描いちゃったんです。
この綴じ込み絵本ってすごく贅沢で、雑誌の中なのに、表紙も見返しも扉もついている。本誌とは少しサイズも違うんですよね。

石井 本当、贅沢です。
私のは、「おばあさんになった女の子は」(「飛ぶ教室」第4号 2006年 所収)ですね。これは、宇野さんと組みたいと思って書いた作品なんです。

宇野 それも本当、話が面白くて、格好いい本で。石井さん、蜂飼さん、お二人の作品は、児童文学の中では異色ですよね。

画像、「飛ぶ教室」綴じ込み絵本
見返しもある綴じ込み絵本。
(上:「飛ぶ教室」第4号、下:「飛ぶ教室」第2号)

石井 「飛ぶ教室」は創刊時からそうなんですけど、「児童文学の冒険」ってタイトルがついているように、そして創刊の辞にあるように、これまでの枠にとらわれない気持ちで作られている。だから、それまでだったら決して載らないような作品もいっぱい載っているんです。

宇野 最近の編集もまた面白いですね。編集長を毎号変えたりして。

石井 そうですね、それは復刊10周年記念の企画としてやったものですね(「飛ぶ教室」第42号~44号)。
私が編集人をしていた時にも、柴田元幸さんにゲスト編集長になっていただきました。海外の小説と児童文学のあわいのところを取り上げて、あれも面白かったですね。(「飛ぶ教室」第8号 2007年)

宇野 ムックっぽいのかな。編集長が変わると、テーマががらっと変わって面白い。
僕が編集長を頼まれるはずはないんだけど、頼まれたとして出来たその号が売れないと嫌ですよね。「あなたの号だけ残っていますよ」とか言われたりしたら……(笑)。

石井 書店回って買い占めたいですね(笑)。

「飛ぶ教室」45号の内容は、こちらからご覧いただけます。

飛ぶ教室 第45号(2016年春)

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