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トークイベント 陣崎草子×如月かずさ [前編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2019年2月1日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

トークイベント「『子どもの本』をかくということ」 陣崎草子×如月かずさ [前編]

昨年11月9日、子どもの本の専門店「ブックハウスカフェ」にて『ウシクルナ!』(陣崎草子 作)と『給食アンサンブル』(如月かずさ 作)の発行を記念して、トークイベントを開催しました。作者のお二人が、創作のこと、児童文学のこと、これからの「子どもの本」のことを、広く、深く語ります。

苦しかった、楽しかった連載

『ウシクルナ!』も『給食アンサンブル』も児童文学総合誌「飛ぶ教室」で連載をしてからの単行本化でした。連載スタート時のお話を聞かせてください。

如月:私が連載をはじめるとき、すでに「ウシクルナ!」は連載中だったので、内容がかぶらないように、リアリズムのお話にしようと思いました。テーマはけっこう悩んだんですが、ちょうど「週刊少年ジャンプ」で料理バトルの連載をやっていたのに影響されて、そこから、給食はどうだろう、というふうになりましたね。

陣崎:「ウシクルナ!」の連載は、読み切りで「飛ぶ教室」40号に「特大にまちがってるサンタ」を書いたのがきっかけでした。単発でお話をいただいたとき、瞬時に長い物語が頭に浮かんできて、「あ、これ、続きそうな感じで終わったら、連載の依頼が来るんじゃない?」と思って出したら、うまい具合にお話をいただけて(笑)。ところが、連載第1回目を書きはじめたら、「チチ袋」とか「栃乙女レラミ」とか、当初とは全く違うものが頭に浮かんできてしまって、それを追いかけて書いていったら、「何この話?」って、あきらかにとっちらかった状態になってしまって……もう、連載中はとにかく大変でした。

如月:それでも物語を着地させられたのがすごい(笑)。自分は絶対それができないから、最初にプロットを固めてから書きますね。1話の枚数は30枚くらいなのに、プロットが10枚以上になったりすることもありました。

構想から執筆までの段階で、どの時がいちばん楽しかった、または、苦しかったですか?

陣崎:さっきも言ったように、毎回大変で、這いつくばって書いていたので、全体的に苦しかったです。ただ、私は、自分で絵も描いていたんですが、この前、編集部から原画を返してもらったとき、すごく自分の絵を「きれいだ」って、思ったんですよね。辛かったのに、この作品に対して、とても強い愛情があることがよくわかった瞬間です。

如月:自分はネタが思いつかないときが辛かったですね。作家としての才能が枯れてしまったのではないかと思ってしまって。あと、連載中は既定の枚数を毎回オーバーしてしまったので、それを収めるのに苦労しました。

『給食アンサンブル』は話ごとに主人公が変わっていきますが、そのあたりの苦労などはありましたか?

如月:例えば、第1回目で登場した美貴が、第2回目の桃の回で登場するとき、その後の変化した様子が、描けるということが楽しかったです。最終話でそれまでの登場人物をちょっとずつ登場させるのも、楽しかったですね。

「飛ぶ教室」40号に読み切りで掲載された「特大にまちがってるサンタ」。

『ウシクルナ』には、50点ものイラストが描かれている。躍動感あふれるイラストを見ているだけで楽しい。

「笑い」との接点

お互いの本にちなんだ質問です。陣崎さん、好きな給食はなんでしたか?

陣崎:うーん。気になっていたのは、マーガリンですね。紙に包まれている四角いマーガリンがあって、真ん中あたりに凹みができているんですが、それが、まるでおしりみたいな形に見えて、そこにパンを押しつけて、うにゅって、えぐりとって食べるのが好きでしたね(笑)。

(笑)。陣崎さんは関西のご出身ですよね。日ごろから「笑い」が身近だったんですか? どんなバックグランドが、この作品を生むきっかけになったんでしょうか?

陣崎:そうですね。……そういえば、高校1年生のときに、親にお年玉をほとんど使い込まれていたのが発覚したんです(笑)。しかも、全額じゃなくて、後から中途半端に1万円入金した形跡があったっていう。当時は、高校生にとっては大金だったので、怒りを爆発させて絶望したんですが、大学生になって友人に話すとき、自分で話しながら爆笑していました。お年玉使い込んじゃう親って笑えて悪くないな~と思って(笑)そういった、強烈な怒りや絶望を感じた瞬間が確かにあっても、時が立つとただただ笑える記憶になっていることってたくさんあって、「ずっと固定する不幸は存在しない」ということに気づいたことがバックグラウンドの一つになっていると思います。

如月さんは、「笑い」に関するエピソード、何かありますか?

如月:大学院で戦前のユーモア児童文学と子どもの描き方を研究していたので、昔の「笑い」がテーマの児童書は読んでいましたね。その中で、明治末期に佐々木邦という作家が書いた『いたずら小僧日記』があって、これが印象的です。この作品は、アメリカ作品の翻案なんですが、はちゃめちゃな内容で、今読んでも全く古びなくて面白いんですよ。子どもたちに爆発的に受けたのをきっかけに、子どもの雑誌にもユーモア児童文学がどんどん増えていったので、ユーモア児童文学の出発点といった意味でも興味深い作品です。しかも、あの有名な雑誌「明星」に連載されていたんですよ。

陣崎:へえ。面白そう! 如月さんの研究分野である戦前や戦後の児童文学の話、機会があったらもっとお伺いしたいです。

書いてみたら、児童文学が最適なフィールドだった

子ども向けの本を書こうと思ったきっかけはなんですか?

如月:作家になろうと思ったのは中学生のころです。でも、最初から児童文学作家を目指していたわけではなくて、ハードボイルド作品やライトノベル作品に影響を受けて、書いていたんです。書きはじめた頃は、新人賞に応募するような長い作品が書けなかったですね。でも、あるとき、ジャンルを気にせずに、自分が面白いと思うものを書いてみようと思って書いたら、それが児童文学だったみたいで。児童文学が最適なフィールドだったということがわかりました。それがきっかけですかね。

陣崎:私は、最初はおしゃれな絵を描くイラストレーターになりたかった。でも、そもそもおしゃれに興味がなくて(笑)。じゃあたくさん絵を描けるのはなんだろうと考えたら、絵本作家かなと。でも、絵本を出版社に持ち込んでも、新人のデビューはハードルが高くて何度も弾かれていました。それなら長い文章を書いて賞でも取れば、なんだか偉そうに見えて、絵本も出させてもらえるようになるんじゃないかと、小説家って絵本も書いているしと、トンチンカンな考え方をして小説を書きはじめて賞に応募したら、書きはじめて3作目の作品で講談社の賞をいただいてデビューをして……。その次に狙い通りに絵本が出せた。――というのが表面的な経緯になります。
でも、深い部分では、昔から子どもの本との結びつきが強かったと感じています。小学校の学級文庫にあった宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は、不思議にぼーっと光ってみえました。今、宮沢賢治の『おきなぐさ』の絵を描かせていただくことになっているんですけど、アトリエの近くに絶滅危惧種である「おきなぐさ」を偶然発見したりして、子どもの本の世界に手を引かれているような感覚があります。


陣崎草子(じんさき・そうこ)

大阪府生まれ。絵本作家、児童文学作家、歌人。『草の上で愛を』で第50回講談社児童文学新人賞佳作を受賞、同作でデビュー。小説作品に『片目の青』(講談社)、『桜の子』(文研出版)。絵本作品に『おむかえワニさん』(文溪堂)、『おしりどろぼう』(くもん出版)。歌集に『春戦争』(書肆侃侃房)。絵の担当作品に『高尾山の木に会いにいく』(理論社)、『ユッキーとともに』(佼成出版社)など、著作多数。

如月かずさ(きさらぎ・かずさ)

1983年群馬県生まれ。児童文学作家。『サナギの見る夢』で第49回講談社児童文学新人賞佳作、『ミステリアス・セブンス――封印の七不思議』(岩崎書店)でジュニア冒険小説大賞、『カエルの歌姫』(講談社)で日本児童文学者協会新人賞を受賞。作品に、『ラビットヒーロー』『シンデレラウミウシの彼女』『たんじょう会はきょうりゅうをよんで』(以上、講談社)など、著作多数。

お二人の書籍の詳細は、こちらからご覧いただけます。

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