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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わっている。主な著書に,『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第3回 子どものつまずきを読み解く
“知識”と“洞察力”を

2016.07.06

今日のポイント

  • 子どもの行動を表面的に解釈せず,つまずきを「氷山モデル」で読み解くようにする。
  • 姿勢の崩れやすい子は,「関節の角度」や「筋肉の張り具合」に関するつまずきがある。表面的な姿だけを見て,「態度が悪い」「意欲が低い」と決めつけないようにする。
  • 子どもを変えようとするよりも,授業改善がポイントとなる。

今回は,特別支援教育の立場から「つまずきを読み解く視点」についてお伝えします。

表面的には,問題行動のように見える子どもの行動には,必ずと言ってよいほど,目に見えにくいつまずきが潜在しています。

例えば,読み書きのつまずきを隠すかのごとく,授業中にふざける子がいます。手先の不器用さをごまかすかのように,わざとめちゃくちゃな作品づくりをする子もいます。感情の言語化が苦手なために,暴力的な態度でしか気持ちを表現できない子だっているのです。

画像,氷山モデル

※ 氷山モデル

特別支援教育の世界では,子どもの行動を必ず「氷山モデル」(※)で理解します。前段のような子どもたちの姿であれば,「ふざけているように見えてはいるが,その背景に読字や書字の障害があるのではないか?」とか「作品をわざとめちゃくちゃにしていたようだが,不器用さを隠そうとしているのではないか?」とか「すぐに手が出る子と言われてきたけれど,感情を言葉にするのが苦手だからではないか?」と考えるようにするのです。

では,座っている姿勢が崩れやすく,頬づえをついたり,机に突っ伏したりする。また,まっすぐ立っていられず,何かに寄り掛かることが多いため,不真面目な感じに見える……そんな姿を見かけたら,読者の皆さんはどのようにつまずきを読み解きますか?

画像,姿勢が悪い

姿勢を維持するためには,まず,腰・股関節・膝などのいくつかの「関節の角度」の一定時間の維持が必要になります。同時に,「筋肉の張り具合」も一定の時間,調整し続けなければなりません。「関節の角度」や「筋肉の張り具合」の調整は,身体内部の感覚の一つである「固有感覚(または固有受容感覚)」という感覚が担当していますが,実は,この固有感覚の反応の低さ(「低緊張」と呼ぶこともあります)が,姿勢保持のつまずきの原因なのではないかと言われているのです。

関節の角度や筋肉の張り具合の調整が難しいとなれば,姿勢の保持のつまずきだけでなく,がさつな様子や,他者との距離感が近い様子など,行動面や対人関係面のつまずきも付随的に引き起こされるはずです。

このような知識がないまま,表面的な姿だけを見て「態度が悪い」「意欲が低い」と決めつけていませんか? これでは,姿勢の崩れにばかり目が向き,注意を促したり,叱ったりすることに時間が費やされてしまうはずです。叱ってばかりいると,真面目に授業に向かっている,別の子どもたちの気持ちまで離れていってしまいます。これでは,なんだかモッタイナイですよね。

姿勢の崩れを防ぐポイントは,ズバリ「授業改善」です。すなわち,姿勢の崩れが見られる子どもを叱るのではなく,授業が「退屈」で「教師の話が長い」とか「手持ちぶさた」といった印象をもたれているというところを見直すということです。

例えば,ペアトークを取り入れ,話を聞かせる時間よりも能動的に参加する場面を多くつくってみましょう。この他にも,発問の前に全員を起立させ,「わかったことを隣の人に話しましょう。また,相手の意見に納得したら座りましょう」といった姿勢を転換する場面を入れることも有効に働きます。

課題の途中で,他の友達がノートにどのようにまとめているのかを参考にするために,教室を静かに回れる時間を設定するという方法(「ギャラリーウォーク」と言います)も,動きを取り入れることができるので集中の持続に役立ちます。

これからの通常学級の教育には,表面化することのない「つまずきの根っこ」に思いを巡らせる,洞察的な見方が求められるのではないでしょうか。


〈参考文献〉
内山登紀夫監修,川上康則編(2015)『特別支援教育がわかる本2 通常学級でできる発達障害のある子の学習支援』ミネルヴァ書房

次回は,学級経営を安定させる,教師の「軸・枠・型・幅」について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura

目次

【第1回】 子どもはルールよりも「ラポール」にしたがう <2016.05.09>

【第2回】 「お試し行動」に振り回されないために <2016.06.08>

【第3回】 子どものつまずきを読み解く“知識”と“洞察力”を <2016.07.06>

【第4回】 教師としての軸・枠・型・幅をもつ <2016.08.09>

【第5回】 話を聞けない,指示が入らない子 <2016.09.12>

【第6回】 支援の空回りを防ぐ <2016.10.11>

【第7回】 切り替えが難しい子 <2016.11.09>

【第8回】 「気になる子」を気にしすぎる子 <2016.12.07>

【第9回】 「なんでオレだけ?!」に対する指導 <2017.01.11>

【第10回】 保護者の理解を得るために <2017.02.08>

【第11回】 落ち着きがない子 <2017.03.09>

【第12回】 「専門家」の言うことは絶対ではない <2017.04.06>

【第13回】 授業の規律や学級の秩序を乱す子 <2017.05.16>

【第14回】 「作戦ゴリラ」 <2017.06.08>

【第15回】 「きょうだい児」の理解 <2017.07.05>

【第16回】 ルールを守ることにこだわりを示す子 <2017.08.23>

【第17回】 人を頼るスキルが乏しい子 <2017.09.14>

【第18回】 「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子 <2017.10.19>

【第19回】 子どもの「負の部分」に目が向いてしまうときに <2017.11.14>

【第20回】 二次的障害に陥らせないための三つのポイント <2017.12.15>

【第21回】 学級目標を飾りものにしない <2018.01.22>

【第22回】 忘れ物が多い子・提出物をなかなか出せない子 <2018.02.13>

【第23回】 「してほしいこと」を伝える <2018.03.15>

【第24回】 書こうとしない子の「尊重すべき歴史」 <2018.04.17>

【第25回】 「些細なこと」かどうかは,本人が決める <2018.05.15>

【第26回】 衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」 <2018.06.15>

【第27回】 問いをもち続け,当たり前を見直す <2018.07.17>

【第28回】 力加減の調節が苦手な子 <2018.08.24>

【第29回】 子どもの心に響く褒め方(1) <2018.09.26>

【第30回】 子どもの心に響く褒め方(2) <2018.10.24>

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