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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わっている。主な著書に,『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第23回 「してほしいこと」を伝える

2018.03.15

今日のポイント

  • 発達につまずきのある子どもに指示を出す際は,「してはいけないこと」ではなく,「してほしいこと」を伝えたほうがわかりやすい。
  • 「してほしいこと」を告げることを習慣化すれば,指示が肯定文になり,具体的な内容になる。禁止的な意味合いよりも,行動の修正を期待している気持ちを伝えることができる。
  • 「してはいけないこと」を集めてしまう傾向は,学校文化の一つかもしれない。この課題を乗り越えるには,日々の指導の一つ一つを見つめ直す(時には疑う)勇気が必要となる。

「してほしい」ことを具体的に伝える

どの教師にも「信条」というものがあります。これは言い換えれば,理想とする子ども像や理想とする学級の姿を描いているということでもあります。

ところが,その理想像を目ざす気持ちが強くて揺らがないものであればあるほど,許容や寛容の幅が狭くなるものです。理想とかけ離れた姿を見ると,「〇〇できていないことが許せない」という気持ちが生まれやすくなります。

それが結果的に,「〇〇してはいけない」という禁止事項を増やして子どもをルールで縛ったり,まるで警察官の取り締まりのような「〇〇しないはずだったよね」といった指導で子どもの素直さを失わせてしまったり……ということにつながってしまうことがあります。

「してはいけないこと」をいくら伝えても,子どもたちが自ら行動を修正しようとする意欲にはつながりません。それどころか,かえって先生の顔色をうかがうことばかりを覚え,「先生が見ているかどうか」をよりどころにするなどの誤学習(本来指導したかったこととは違った方向性に学びを進めてしまうこと)に陥ることがあります。

行動の修正を期待するときほど,「してほしいこと」を肯定文で,具体的に,伝わるように話す。これが本当の指導です。

画像,禁止ではなく肯定文で伝える

叱られている理由が本人に伝わっているかが重要

「もっと厳しくしないと子どもは伸びない」とか「特別支援教育は甘やかしだ」という気持ちを心のどこかに抱く教師は,今も少なからずいるようです。

もちろん,厳しさの中で学ぶこともあるでしょう。また,甘えが本人の成長を妨げているのであれば,あえて一度突き放すことが必要な場面もあるかもしれません。

しかし,ただ「ダメなものはダメ」と強く言うだけの指導では,本人にその理由が伝わりません。これでは,学校はうまくいかないことを突き付けるだけの場所でしかなくなってしまいます。重要なのは厳しいかどうかではなく,本人が叱られる理由を理解できているかどうかです。

あらためて,「教育現場だからこそできる支援」とは何でしょうか。それは,子どもたちに「できた,わかった」という達成感や自信をもたせ,「仲間に囲まれることが好きだ」と実感させることだと思います。

「してはいけないこと」を集めてしまうのは学校文化か?

「してはいけないこと」ではなく「してほしいこと」を伝える。これは,特別な支援を必要とする子どもに対してだけではなく,全ての子どもたちにとって効果的なことだとされています。

ところが,私たち大人はとかく「廊下は走ってはいけない!」とか「今はしゃべらない!」といったように,「Don't ~」を真っ先に告げることが習慣づいてしまっているように思います。

こうした傾向はもしかしたら学校文化の一つなのかもしれません。その代表格ともいえるのが,避難訓練の際にしばしば用いられる標語「お・か・し・も」ではないでしょうか。

「(1)押さない・(2)駆けない・(3)しゃべらない・(4)戻らない」は,全て「してはいけないこと」に該当します。これらを「してほしいこと」に変換すれば,「(1)前の人とすき間を空ける・(2)歩く・(3)口を閉じる・(4)目的地まで行く」となり,より具体的で伝わりやすい指示になります。

また,一部の小学校では,通常学級の特別支援教育に役立つという理由から「〇〇小学校スタンダード」などの取り組みを進めていますが,その内容が,いつの間にか禁止事項のオンパレードになってしまっているケースを見かけます。

標語「お・か・し・も」や「○○小学校スタンダード」に限らず,学校には,一度決まったことをなかなか覆せない「前例(踏襲)主義」や,足並みをそろえようとする「画一主義」が広がりやすい組織風土があります。結果的に,取り組みの多くが,時間がたつにつれて何の疑問ももたれなくなり,変えにくくなっていくものです。

「してはいけないこと」ではなく,「してほしいこと」を伝える内容になっているか,今一度,当たり前とされる内容であっても根本から見つめ直す(時には疑ってみる)勇気をもつことが大切だと思います。

次回は,一人一人の子どもの「尊重すべき歴史」について考えます。

Illustration: Jin Kitamura

目次

【第1回】 子どもはルールよりも「ラポール」にしたがう <2016.05.09>

【第2回】 「お試し行動」に振り回されないために <2016.06.08>

【第3回】 子どものつまずきを読み解く“知識”と“洞察力”を <2016.07.06>

【第4回】 教師としての軸・枠・型・幅をもつ <2016.08.09>

【第5回】 話を聞けない,指示が入らない子 <2016.09.12>

【第6回】 支援の空回りを防ぐ <2016.10.11>

【第7回】 切り替えが難しい子 <2016.11.09>

【第8回】 「気になる子」を気にしすぎる子 <2016.12.07>

【第9回】 「なんでオレだけ?!」に対する指導 <2017.01.11>

【第10回】 保護者の理解を得るために <2017.02.08>

【第11回】 落ち着きがない子 <2017.03.09>

【第12回】 「専門家」の言うことは絶対ではない <2017.04.06>

【第13回】 授業の規律や学級の秩序を乱す子 <2017.05.16>

【第14回】 「作戦ゴリラ」 <2017.06.08>

【第15回】 「きょうだい児」の理解 <2017.07.05>

【第16回】 ルールを守ることにこだわりを示す子 <2017.08.23>

【第17回】 人を頼るスキルが乏しい子 <2017.09.14>

【第18回】 「ムカつく」や「ウザい」が口癖の子 <2017.10.19>

【第19回】 子どもの「負の部分」に目が向いてしまうときに <2017.11.14>

【第20回】 二次的障害に陥らせないための三つのポイント <2017.12.15>

【第21回】 学級目標を飾りものにしない <2018.01.22>

【第22回】 忘れ物が多い子・提出物をなかなか出せない子 <2018.02.13>

【第23回】 「してほしいこと」を伝える <2018.03.15>

【第24回】 書こうとしない子の「尊重すべき歴史」 <2018.04.17>

【第25回】 「些細なこと」かどうかは,本人が決める <2018.05.15>

【第26回】 衝動性の高い子どもへの「三大禁じ手」 <2018.06.15>

【第27回】 問いをもち続け,当たり前を見直す <2018.07.17>

【第28回】 力加減の調節が苦手な子 <2018.08.24>

【第29回】 子どもの心に響く褒め方(1) <2018.09.26>

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