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通常学級での特別支援教育 第24回

通常学級での特別支援教育

2018年4月17日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第24回 書こうとしない子の「尊重すべき歴史」

今日のポイント

  • 特別支援教育のカギは、「早期対応」・「適切な支援」・「周囲の理解」の三つである。
  • 周囲の無理解や誤解が、状況のさらなる悪化を生み出すことがある。ノートを取ろうとしない子たちの背景には、書字のつまずきへの周囲の無理解があったり、手書き文字の評価のしかたについての誤解があったりする。
  • 大切なのは、一人一人の子どもに「尊重すべき歴史」があることを理解し、誠実で丁寧な関わりを続けていくことである。

子ども一人一人の歴史を踏まえる

発達につまずきのある子どもへの対応は、今、どの学校においても喫緊の課題とされています。特別支援教育のカギは、以下の三つです。

  1. 早期対応
  2. 適切な支援
  3. 周囲の理解

これらが整い、小学校低学年のうちからしっかりとした支援体制が構築できたケースでは、6年生になる頃には「すっかり落ち着いたね」と言われるほど子どもが成長している姿が多く見られます。

画像、一人一人に「尊重すべき歴史」がある

そのいっぽうで、つまずきが放置されたり、関係者間で共通理解ができていなかったりするケースもあります。なかには、もともと見られていたつまずきが思春期特有の二次的なつまずきに進んでしまう場合もあります。
二次的なつまずきとは、具体的には、次のような姿を指します。

  • 自己否定が強い
  • 支援を受け入れない
  • 暴言・汚言・反抗的な態度が過激化する
  • つまずきを隠そうとする
  • 授業中の他児妨害や飛び出しが頻出する
  • 登校をしぶる
  • 「どうせダメだから……」「何をやってもむだだし……」といった言い方が口癖になり、“学習性無力感”が強くなる など

さらに事態が深刻化した場合には、「反抗挑発症(以前は「反抗挑戦性障害」とよばれ、有益なことを言われていたとしても反発や挑発的な行動を返す症状)」や「素行症(以前は「行為障害」とよばれ、器物の破損、窃盗、動物の虐待などの行為を6か月以上続ける症状)」などの二次的障害の域に入っていると想定されるケースも現れます。

こうした場合、家族、児童相談所や警察などの関係機関との協力も必要になります。

※私たち教師には、医学的な診断を行う権限はありません。ここに示す障害名についても、推測レベルでレッテル貼りをするようなことだけは厳に慎まねばなりません。

「発達につまずきがある子」といっても、百人百様、皆、違います。それぞれが経てきた数年間の歴史(ライフ・ヒストリー)も異なります。そのため、「こうすればうまくいく」といった関わり方のマニュアルは存在しません。
大切なのは、一人一人の子どもに「尊重すべき歴史」があることを理解し、誠実で丁寧な関わりを続けていくことです。

「書けない」ことへの無理解は「書きたくない」を生み出す

小学校中学年から高学年にかけて、「ノートを取らない(取ろうとしない)」という子に出会うことがあります。
その背景には、少なからず書字(字を書くこと)のつまずきがあることが多いといえます。加えて、「うまく書けない」というつまずきに対する周囲(主に担任教師)の無理解や誤解がもとで、文字の止め・はね・払い、点画の長さ、点画の交わり方などについて、繰り返し、必要以上に厳しく指導されてきたという歴史をもつケースが少なくありません。

小学校低学年の先生方には、「きちんとしつけておかなければ、上の学年になったときに困るから」といった、ある種の使命感のようなものがあるように思います。必然的に、平仮名、片仮名、漢字の指導でも細部まで厳しくチェックすることになりがちです。
しかし、手書きの文字というものは本来、「常用漢字表」や「学習指導要領解説 国語編」などに示されているとおり、その文字の骨組み(字体)が認識できるのであれば、字形の細かな違いはまったく問題にする必要のないものです。学校現場では、この「字形の細かな違いは問題視しなくてよい」という事実を知らない教師が少なからずおり、文字の細部に必要以上の注意が向けられて正誤を決める傾向はなかなか改められていないのが実情です。

書字のつまずきに対する無理解と、手書き文字の評価のしかたへの誤解が重なった結果、「もう二度と書かない!」という気持ちに至った子どもたちがいるのです。


その子の歴史を踏まえるということは、実は、現在行われている指導が、その子の将来にどのような影響を及ぼすかについて考えるということにもつながります。
特別支援教育が広がることで、少しでも救える子どもを増やしたい。そう切に願うばかりです。

次回は、「些細な理由からトラブルを起こす」ように見える子への指導について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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