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通常学級での特別支援教育 第25回

通常学級での特別支援教育

2018年5月15日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第25回 「些細なこと」かどうかは、本人が決める

今日のポイント

  • 「些細なことでカッとなる」とか「些細な理由からトラブルを起こす」という表現は、きわめて主観的なものさしに基づくものであり、子どもの実態を表すときには注意が必要である。
  • 他者からは「些細なこと」に見えても、当事者からすると重大で深刻な出来事である可能性がある。その子の事情への「感度」を高める努力が求められる。
  • 指導・支援のこつは、カッとなる場面やキレる行動ばかりにとらわれないようにすることである。その背景にある「反応の程度の激しさ」と「気持ちの切り替えの難しさ」に着目すれば、指導・支援の方法が見えてくる。

「些細なこと」と片づけられてしまうエピソードは、実は多彩

学校の先生方からの相談に対応していると、対象児の実態について「些細なことでカッとなる」「些細な理由からトラブルを起こす」「些細なことにこだわる」などのような説明を耳にすることがあります。
こちらからあらためて、「『些細なこと』って、どんなことなのですか? 具体的なエピソードがあれば教えてください」と質問させていただくと、返ってくるエピソードが実に多彩です。
例えば……

  • 給食のおかわりができなかった。
  • 対象児の係の仕事を、誰かが先にやってしまった。
  • 水泳の授業があると思っていたのに、天候などの理由で中止になった。
  • 勝敗のあるゲームやじゃんけんなどに負けた。
  • 授業中に挙手しているのに指名してもらえなかった。
  • 誰かが偶然ぶつかった。

などなど。

相談される先生にとっては、些細なことと思われるかもしれません。しかし、その子にとっては決して、「些細なこと」で済ませられるようなことではないのです。

画像、「些細なこと」かどうかは本人が決める

当事者からすれば、決して「些細なこと」で済ませられない

私たち大人も、電車に乗り損ねることがあります。「もう1本、次の電車を待てばよい」。そのように考えられれば、これは些細なことに見えます。しかし、その人にもしも「一刻も早く駆けつけなければならない出来事が別のところで起きている」のだとしたら……、あるいは「人生を左右するような大きな出来事を逃してしまう」のだとしたら……と考えてみてほしいのです。状況しだいでは、電車を1本乗り損ねることは、決して「些細なこと」と片づけられるようなものではなくなるはずです。

このように、他者にとっては「些細なこと」に見えても、当事者にとっては重大で深刻な出来事であるというのは、よくあることだと思います。
些細かどうかの判断の線引きは、きわめて主観的になされます。「些細な」という表現を使うのであれば、せめて、「大人から見れば……」「教師から見れば……」「第三者から見れば……」という前置きを必ず加えてほしいものです。

「無関心・無反応」よりもずっと見込みがある

些細なことでカッとなる子どもは、実は「見込みがある子」なのではないかと感じることがあります。一つ一つの事態にしっかりと反応している分だけ、無関心・無反応な子どもよりもずっとよいと思うのです。
問題となるのは、その「反応の程度が激しいこと」と「気持ちの切り替えが難しいこと」であり、カッとなる場面やキレる行動ばかりにとらわれないようにするのが指導・支援のこつです。

「反応の程度の激しさ」に対しては、上手な行動の出し方を教える必要があります。「人や物に当たるよりも、地面を数回踏みつけるほうが見栄えがよい。それよりも、唇を強くかみしめるだけのほうがさらにカッコいい」といったように、行動の出し方を少しずつ適応的な形にしていく指導が効果的です。学年相応の適応的な行動だけを一足飛びに学ばせようとすると、うまくいかないので注意しましょう。
「気持ちの切り替えの難しさ」に対しては、「切り替え言葉」を教えることがポイントです。切り替え言葉とは、「まあ、いいか」「しかたがないよね」「しょうがない」「こんな日もあるさ」など、状況を受け止める言葉です。これらの言葉を使えるようになると、パニックや暴言・暴力的な行動が格段に減るケースを、私はたくさん見てきました。

子ども理解のうえで何より大切なのは、相手の事情への“感度”を高める努力です。指導者・支援者に求められるのは、その子の姿を「些細なことでイライラする」と見なすことではなく、その子の「プライド」や「信念」が表れている物事を読み解いていく力なのではないでしょうか。

次回は、衝動性の高い子どもへの支援について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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