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通常学級での特別支援教育 第33回

通常学級での特別支援教育

2019年1月18日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第33回 行動を制止されるとかんしゃくを起こす子

今日のポイント

  • 幼児期から小学校低学年にかけて、集団行動が著しく苦手で、やりたいことを制止されるとかんしゃくを起こす子どもがいる。短期的に問題を解決しようとして無理な指導を続けると、たいてい失敗する。思春期や青年期に大きな混乱を来すケースもある。
  • 背景にある特性を理解したうえで、無理せず、少しずつ折り合いをつけるための指導を粘り強く続けると、しだいに態度が柔軟になってくる。
  • 背景にある六つの特性を踏まえ、関わり方の四つのヒントを示した。これらをもとに長期的な視点で関わることが大切になる。

幼児期から小学校の低学年にかけて、集団行動が著しく苦手な子どもに出会うことがあります。保育士・教師の指示になかなか従えず、集団の規律に合わせて行動することが困難な様子を見せます。

画像、行動を制止されるとかんしゃくを起こす子

彼ら(圧倒的に男子のケースが多いのでここでは「彼ら」とします。しかし、女子にもこのような子はおり、なかには男子以上に強烈なインパクトを示すケースも見てきました。)は、全体集会などの集団活動にはなかなか入ることができません。また、掃除のような役割分担がある活動では、自分の持ち場を放棄して、好き勝手にふるまっているように見えます。
授業場面では、図工など興味のあるものにのみ参加し、国語や体育など苦手なことがあるものにはいっさい参加しようとしないという姿がよく見られます。

自己の興味への没頭が強い場合、著しく興味を示す対象は、数字・文字・標識やマーク・電車の種類・駅名・時刻表・自動車の種類・バスの路線図・天気予報・地図・国旗・恐竜・昆虫・歴史上の人物、ゲームのキャラクターなどであることが多く、これらは「カタログ的な知識」ともいわれます。
さらに、場面の切り替えが難しいところがあり、やりたいことを制止されると泣きわめき、かんしゃくを起こす場面もよく見られます。苦手なことを他者から強要されたときにも、同じような姿を見せます。

こうした子には、その背景にある特性を理解したうえで、無理せず少しずつ折り合いをつけるための指導を粘り強く続けていくと、しだいに態度が柔軟化していきます。そして、社会性が向上し、指示に応じることができる場面が増え、中学年から高学年になるころには授業や集団活動への参加が可能になります。

いわば長期的な視点をもって関わることが重要なのですが、そうした視点に立つことが難しい教師ほど、「この子に振り回されている」「この子に困っている」「周りの子たちの迷惑になっている」と感じてしまうようで、短期的な解決を目ざして失敗している場面をよく見かけます。
特に、背景にある特性を無視して強引な指導を行うと、思春期や青年期に二次的な大混乱(例えば、周囲を過剰に気にする、被害妄想と感じられるほどちょっとしたことで「いじめられた、ハラスメントを受けた」と大騒ぎするなど)を引き起こすケースもあります。

そこで今回は、やりたいことを制止されるとかんしゃくを起こすような強いエネルギーをもつ子どもの背景にある特性と、低学年での関わり方のこつを整理しておきたいと思います。

背景にある特性

まずは、彼らの行動の背景にある特性を整理しておきましょう。

(1) 全体状況の把握が苦手

全体よりも部分に着目してしまう傾向が強いことがよく知られています。これを「シングルフォーカス」と表現することもあります。周辺の状況に気づけていないことが多く、パニック状態に追い込まれて興奮・混乱すると、さらに狭い範囲の情報しか取り込めなくなってしまいます。

(2) 臨機応変な対人関係が苦手

「いつもと同じ」とか「普段どおり」の場面では少し安心感が出ますが、その一方でイレギュラーなイベント、大勢が集まる場所、慣れない状況などでは臨機応変さが求められるため、不安を強く感じます。

(3) 他者視点の獲得が難しい

他者が自分をどう見ているかを意識することを「他者視点」といいます。他者視点の獲得が難しいと、自分のふるまいを見つめ直すことが難しくなります。「そんなことしていたら恥ずかしい」「みんなの迷惑になる」といった説明を理解することも難しいといえます。

(4) 具体的で明確な情報への強い志向性をもつ

前述したとおり、興味・関心を著しく示す領域の大半は、様式・配置・順序などがパターン化されたものです。それらに向かうエネルギーが非常に強く、その一方で、明確でない指示や抽象的な内容の物事ほど志向性が弱くなるという特徴があります。

(5) 自分のやり方・ペースを最優先させたいという本能的志向が強い

人は誰しも「自分のやり方や自分のペースを通したい」という気持ちを少なからずもっているものです。彼らはそれが本能的に特に強く、「100%そうでなければ自分の生命維持に直結する」というほどの危機感を抱くような部分をもっています。

(5) 感覚の過敏性が強く、自己防衛的な反応が出る

自分を守ろうという反応が強く出てしまうため、逃げる・動かなくなる・叫ぶ・泣きわめく・暴れる・攻撃的になる・暴言や汚言などで予防線を張るなどの行動が出やすくなります。

低学年での関わり方のヒント

前述したような特性を踏まえた、関わり方のヒントを紹介します。

(1) 「低学年のうちはこういうものなのだ」と割り切る

低学年の担任の中には「小さいうちになんとかしておかないと将来困る」という使命感や、「周りの先生や保護者から、この子をなんとかしろと思われているのではないか」という焦りから、強引な関わりをしてしまう人がいます。その結果、より深刻な状況に追い込まれるケースが少なからず見られます。焦らずに「そういうものだ」と割り切ることが、気持ちにゆとりを与えてくれます。

(2) ときどき見せる、“周波数”が合うタイミングを楽しみに待つ

授業や集団活動に全く参加しないという子はごくわずかです。ほとんどの子には、ときどきですが、参加したり交流できたりする場面が見られます。それはまるでラジオの周波数がしっかりと合ったような、そんな瞬間です。そのタイミングを心待ちにしてみましょう。

(3) うまくいく場面の中にある「手がかり」を分析する

うまく参加・交流できた場面の中には、その子を惹きつける手がかりや、活動とその子を結び付けるカギがあります。それを分析しましょう。授業の中で使った写真かもしれませんし、特定の友達かもしれません。その条件を次の活動でもそろえて、“周波数”が合うタイミングを意図的に作ってみましょう。

(4) こだわりを、クラスの活動に生かす

彼らのこだわりを、クラスのためになる活動に位置づけることも大切です。工作にこだわる子が、クラス全員からリクエストされたものを教室内で作ることから始めて、授業に参加できるようになったというケースがあります。また、授業中に、自分の知識を生かせるような役割を与えられたことで、スムーズに教室に入れるようになったというケースもあります。


〈参考文献〉

  • 杉山登志郎(2007)『発達障害の子どもたち』講談社、pp.95-126
  • 本田秀夫(2013)『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』SBクリエイティブ、pp.27-66

次回は、「子ども理解」を深めるための視点について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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