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10 「表現」と「鑑賞」の指導の関連

はじめよう、対話による鑑賞の授業

2015年1月22日 更新

美術における鑑賞を通した言語力育成が求められています。全国各地の学校や美術館で行われる美術鑑賞の授業の形として、先生や学芸員の解説を一方的に聞くのではなく、生徒自身が主体的に発言をし、対話をしながら美術作品に対する見方や価値意識を深めていく「対話による鑑賞授業」が注目されてきています。

中学校学習指導要領の解説では、指導計画の作成にあたり、“表現と鑑賞の指導の関連を図る”ことが求められていますが、「対話による鑑賞授業」を通し、表現と鑑賞の相互関連をどのように図ればよいでしょうか

表現と鑑賞はそもそも循環的です。そのことを自覚的に授業に位置付けるのが指導計画の作成です。対話による鑑賞の場合も同様に考えればよいのです。ここでは鑑賞から表現を促し、その結果としての作品を鑑賞することを通して一連の学習を振り返る指導計画を例示します。

指導計画は次の通りです。

第1時 若林奮の〈作品No.2〉を鑑賞する。
第2時 鑑賞を通して発想したことをもとに向こう側の世界を構想し、表現する。
第3時 つくった作品を鑑賞する。

作品No.2 北九州市立美術館蔵 若林奮 (1936~2003)

作品No.2  北九州市立美術館蔵  若林奮 (1936~2003)

第1時 若林奮の〈作品No.2〉を鑑賞する

〈作品No.2〉は一見したところ、無表情な錆びた鉄の巨大な壁。人や動物等の親しみ深い形ではなく、色彩もただ錆を帯びた鉄色という、およそ見て楽しい、美しいという類の作品ではありません。しかしよく見ると、扉、穴、ボルトが付いていることに気付きます。その意味を探ることから対話による鑑賞が始まります。

扉のようで扉ではない。窓のようで窓ではない。過剰につけられたボルトが向こう側への想像をさらに増します。生徒からは鉄の壁の意味(機能や存在意義。何のためにあるのか)や向こう側の世界について、様々な意見が出てきます。ただ単に遮断されているのではなく、入れそうで入れない、見えそうで見ることができないようにしているという意見は多くの生徒から出るでしょう。

<生徒からでる意見の例>

(扉について)

  • 扉の切れ目が途中で止まっている。ここから中に入れないようにしている。
  • この扉は開かない扉だ。

(穴について)

  • 穴はみんな上の方にあって小さい。
  • 中がのぞけない。見たいと思わせるけど、見ることができない。

(ボルトについて)

  • たくさんのボルトで頑丈にとめている。

第2時 鑑賞を通して発想したことをもとに、向こう側の世界を構想し、表現する

現実の世界をこのように遮断することで、向こう側の世界を想像させられる。壁の向こうにどんな世界が想像できるだろうかと、まとめの際に簡潔に発問し、表現につなげます。
〈作品No.2〉から離れて、生徒個々の思いに沿った形や色彩を纏(まと)うことになるでしょう。

第3時 つくった作品を鑑賞する

美術作品からインスパイアされた表現という経験をした生徒たち。第3時の鑑賞では、生徒は、自分たちの作品を相互に鑑賞して自分や他者の作品について振り返ったり、新たな発見をしたりするとともに、若林奮の作品についても改めてより深く見ることができるのです。

関連書籍

対話による美術鑑賞の決定版!
『風神雷神はなぜ笑っているのか 対話による鑑賞完全講座』 (上野行一 著)

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