学習指導要領の方向性

学習指導要領のポイント

東京家政大学教授 小泉 仁

I はじめに

平成29年3月、幼稚園・小学校・中学校の新学習指導要領が告示された。今回は、小学校の英語教育が教科化されることに注意が向きがちだが、それが中学校英語にどのように影響するのかを中心に、新学習指導要領と平成20年度版を比較しながら、ポイントを絞って整理する。また、平成28年12月の中央教育審議会答申(以下、「中教審答申」とよぶ)の内容に沿って、学習指導要領の書きぶりが大きく変わったこともあわせて見ていきたい。

II 新学習指導要領の全体像

1.「知識・技能」「生きる力」

まず、中学校外国語の話に入る前に、平成29年度告示の学習指導要領の全般的な特徴を整理してみたい。新しい学習指導要領は、変化が急速で予測困難な現代社会を念頭に置き、その中で育つ子どもたちが、身につけた知識や技能を活用しながら学びを深め、結果として、いわゆる「生きる力」を高めるに至るプロセスを教育の目的とする視点を明確に打ち出した。従来とは視点を変えたために、書きぶりも大きく変わった。各項目も、平成20年度版と並べて相違点を単純に比較するだけでは、その意図を理解することは難しい。まず改訂の全体像を次の三つのポイントで整理したい。

■学習指導要領の書き方の枠組みが変わった

これまでの学習指導要領は、各教科とも「教員が何を教えるか」という観点を中心として組み立てられており、教えるべき個別の内容に関する記述を中心に、知識や技能の内容に沿って整理されたものであった。そのため、指導の目的が知識・技能にとどまりがちであり、一つ一つの学びの目的や、育むべき力がどのようなものかについては明確でなかった。平成29年度告示の学習指導要領では、全ての科目について、記述の枠組みを統一的に見直し、児童・生徒が学びを通してどのような力をつけるのか、そしてその力をどのように活用するのかまで、詳細に記述しようとしている。

■「三本の柱」に沿って「目標」や「内容」が詳しく書かれた

2007年改正の学校教育法には、教育によって育むべき三つの資質・能力、すなわち「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」が示された。これらは平成20年度版学習指導要領でも触れられている。平成29年度告示の学習指導要領は、この資質・能力を「教育の三本の柱」とし、全ての教科でこれらの柱に沿った「目標」や「内容」を詳細に記述している。児童・生徒が学んだ知識・技能を生かして思考し、判断し、表現することまでを学校教育の中で指導するのであり、さらには、それらの学習体験をもとに、自律的な学習者となって学びを自ら深め、他の人々や社会・世界と関わって人間性を高めることが究極の目標となる。平成29年度告示の学習指導要領では、この学びのプロセスをあらゆる教科や領域において実現するために、可能な限り具体的なことばを用いて、期待される学びの内容を示そうとしている。

■「アクティブ・ラーニング」の視点が取り入れられた

「教員が何をどう教えるか」から、「児童・生徒が何をどう学び、学んだものをどう使えるようになるか」に視点をシフトさせると、授業の方法も変わる。そこで焦点となるのが、いわゆる「アクティブ・ラーニング」の視点である。それは、児童・生徒が学びの主体になり、さまざまな場面で自発的に考え、仲間と意見を交換し、情報を共有しながら学びを深められるようデザインされた授業である。これは目新しいことではない。「よい授業」といわれる授業には、必ずアクティブ・ラーニングの要素がある。

この考え方は、単に知識中心主義の教育への反省だけでなく、対話する力、協力し合う力を学びの中で育むことを重視しており、言語によるコミュニケーションを促進することにもつながる。教員はそのプロセスを適切にサポートする役割を担う。新学習指導要領では、「アクティブ・ラーニング」ということばを用いてはいないが、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための視点は、すなわち、アクティブ・ラーニングの視点なのである。

III 中学校外国語(英語)

1.「外国語」の目標

(1) 「外国語」の目標の新旧比較

ここで中学校の「外国語(英語)」(以後、便宜上「英語」とよぶ)について考えてみたい。現在、外国語活動は、小学校3・4年生で外国語活動が行われており、5・6年生では英語が教科化されている。それに伴い中学校の学習指導要領「英語」の記述はどのように変わるのか、平成20年度版学習指導要領と新学習指導要領を比較してみよう。

平成20年度版は抽象的な言い回しで書かれていたが、平成29年度版はかなり具体的に書かれている。まず、「外国語」の「目標」を比較してみたい。


■平成20年度版学習指導要領

第1 目標 外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う。

■平成29年度版学習指導要領

第1 目標 外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

  1. 外国語の音声や語彙、表現、文法、言語の働きなどを理解するとともに、これらの知識を、聞くこと、読むこと、話すこと、書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身に付けるようにする。
  2. コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、日常的な話題や社会的な話題について、外国語で簡単な情報や考えなどを理解したり、これらを活用して表現したり伝え合ったりすることができる力を養う。
  3. 外国語の背景にある文化に対する理解を深め、聞き手、読み手、話し手、書き手に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

全体的には新・旧ともに、同一の方向を目ざしていると考えてよいが、平成29年度版では説明がとても丁寧になっている。また、「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ」という、新しい文言が気になるのではないだろうか。しかも、この「見方・考え方を働かせ」という言い方は、全教科の「目標」の記述に用いられている。

(2) 「見方・考え方を働かせる」とは?

中教審答申には「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせる」ことを、「外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的・場面・状況等に応じて、情報や自分の考えなどを形成、整理、再構築する」ことと整理している。

かなり乱暴な解釈になることを承知で、筆者なりにこれを噛み砕いてみよう。

外国語でのコミュニケーションとは、 i) 相手のあることばのやり取りである。 ii) やり取りの背景にはそれぞれの人の文化がある。 iii) 人や世界はそのようにしてつながっている。 iv) だから、目的や場面や状況に応じて、考え工夫して表現することに意味がある。

ということになるだろうか。

これは決して難しいことではない。まず、「見方・考え方」が働いていない例を挙げてみよう。教科書の中のいろいろなスポーツ選手の小さな絵を見て、“My father was a baseball player.” などと生徒に言わせる口頭ドリルを見ることがある。自分の父親が野球選手の経歴をもっていなくても、皆、声をそろえて言う。そのとき、生徒は自分の父親のこともイメージしていないし、周囲の反応も期待していない。このように、機械的に知識を教えるだけでは、my が自分のことを指す語だというメタ認知は生まれないだろう。指導する側が「英語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ」ることで、生徒もそれに応えることができるはずである。たとえ過去形 was の練習であっても、本物のコミュニケーションを行いながら meaningful なドリルを行うことは可能である。実際の場面を想起できる言語活動を豊富に取り入れることで、生徒自ら「見方・考え方」を働かせ、自然な流れで使われる言葉や表現を自分のものとして習得することができるようになるのである。

2.各言語の目標及び内容等

平成29年度版学習指導要領の「各言語の目標及び内容等」を見てみよう。「各言語」というが、英語だけについて記述するのは、これまでと同様である。

1 目標 2 内容 3 指導計画の作成と内容の取扱い

の三項目に分けて記述されている。

(1) 「目標」―英語の「目標」は CAN-DO 記述文

「英語」の目標は具体的に述べられている。注目すべき点は、いわゆる CAN-DO リスト形式の記述が採用されたことであり、しかも CAN-DO の考え方の背景にある、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)〈※〉に倣った、「聞くこと」、「読むこと」、「話すこと(やり取り)」、「話すこと(発表)」、「書くこと」の五つの領域別に到達目標が設定されていることである(領域の記述順序が変わり、受容技能の「聞くこと」「読むこと」が「話すこと」「書くこと」よりも先に出された)。この、到達目標を設定する書き方をすることで、5・6年生と中学生の指導の違いが具体的に示された。ここでは「話すこと[やり取り]」の目標を紹介する。

1 目標 英語学習の特質を踏まえ、以下に示す、聞くこと、読むこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]、書くことの五つの領域別に設定する目標の実現を目指した指導を通して、第1の(1)及び(2)に示す資質・能力を一体的に育成するとともに、その過程を通して、第1の(3)に示す資質・能力を育成する。 (1) 聞くこと <省略>
(2) 読むこと <省略>
(3) 話すこと[やり取り]
ア 関心のある事柄について、簡単な語句や文を用いて即興で話すことができるようにする。
イ 日常的な話題について、事実や自分の考え、気持ちなどを整理し、簡単な語句や文を用いて伝えたり、相手からの質問に答えたりすることができるようにする。
ウ 社会的な話題に関して聞いたり読んだりしたことについて、考えたことや感じたこと、その理由などを、簡単な語句や文を用いて述べ合うことができるようにする。

このように、CAN-DO形式の特徴的な書き方がなされている。小学校「外国語」の記述と比較すると、小学校で用いられた「ゆっくり」が落ち、「自分のことや身近で簡単な事柄」が「日常的な話題」や「社会的な話題」になり、段階的に到達目標が上昇していることがわかる。

それぞれの記述文の末尾の「~ようにする」を取れば、文字どおりCAN-DO記述文になり、学習の指標としても、評価のための指標としても利用できるようになっている。

※ Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment の略称。EUが開発した、あらゆる外国語の学習と教育と評価に共通に用いることができる到達目標を、具体的な指標と枠組みの形式で示したもの。
(2) 「内容」―〔知識及び技能〕と〔思考力、判断力、表現力等〕で整理

次に、「内容」の項を見てみよう。「内容」は今回の改訂の三本の柱のうち、〔知識及び技能〕〔思考力、判断力、表現力等〕の二つに分けて整理されている。特に〔知識及び技能〕については、言語材料の一覧表になっている。即ち、音声、符号、語、連語、及び慣用表現、そして文、文構造及び文法事項である。

i) 〔知識及び技能〕―文法項目の一部分は高校から前倒し、語数増加

〔知識及び技能〕について、全て列挙はしないが、平成20年度版との違いで目立つものを拾ってみる。

ア 音声: 平成20年度版と同じである。
イ 符号: 小学校の外国語で学んだ基本的な符号以外として、感嘆符、引用符など
ウ 語、連語及び慣用表現: 小学校で学習した 600~700語に加え、1600~1800の語。連語や慣用表現については、活用頻度の高いものとだけ記述。具体例は出さない。
エ 文、文構造及び文法事項: 小学校で示したもの以外。また、今回、高校の言語材料から降りて来たものは、

  • 感嘆文のうち基本的なもの
  • 主語+動詞+間接目的語+{that で始まる節・what などで始まる節}
  • 主語+動詞+目的語+原形不定詞
  • 主語+be動詞+形容詞+that で始まる節
  • 現在完了進行形
  • 仮定法のうち基本的なもの

小学校で学習したものに加えて1600~1800語の語を学習することが明記された。語数が増加した理由としては、小学校英語科での学習を踏まえれば、中学校では一層積極的な言語活動が可能になり、表現したい事柄の範囲も広がるので、豊かな語彙も必要になるはず、という判断があるのかもしれない。ここは、教員は指導の姿勢が問われる場面である。語数が増えたからには、新語を豊富に提供し単語テストなどやってしっかり覚えさせよう、と考えるのか、それとも言語活動を豊かに行わせる中で、活用できる語彙を増やしてやろうと考えるのか、いずれにせよ、繰り返し使うことでこそ、語句は定着するということを忘れてはならない。

さらに、語数に幅をもたせたことも注目したい。中教審答申に書かれたように、理解すればよい語と活用できる語は違うことを意識した指導も必要になるだろう。小学校で児童が慣れ親しむ語600~700語については、日常的、具体的な語がほとんどで、言語活動が活発であれば、繰り返し扱うことが可能な語なのである。

また、従来は高校での学習内容だったいくつかの文法項目が中学校に組み込まれた。「原形不定詞」「現在完了進行形」「仮定法」などは、言語活動の中でなら扱いやすいものかもしれない。また、「感嘆文」は学習指導要領の文法項目から消えて久しかったものの復活であるが、例えば、“What a great person his father was!” のような文は文語であって、中学生がコミュニケーションの場面で出会う頻度が極めて低い。平叙文から書き換えるような作業ではなく、むしろ、言語活動の中で “What a surprise!” や “How nice!” のような簡単な表現に慣れ親しむようにする必要があるだろう。

文法の扱い方については、教員は慎重な判断が必要である。文法項目の全てを網羅して体系的知識を増やしてやるのか、言語活動を盛んに実施し、思考力、判断力、表現力等を開発する中で活用できる文法を増やしていくのか、という判断である。学習指導要領にあるように「文法はコミュニケーションを支えるものであることを踏まえ」、また、言語活動で使うからこそ文法は定着するという原則を忘れずに判断してほしい。また、全ての項目を平等に「話す」「書く」のレベルまで指導することが可能かどうかも考えてほしいところである。

ii) 〔思考力、判断力、表現力等〕―言語活動の例を提示

「内容」の〔思考力、判断力、表現力等〕に関わる記述には、「言語活動に関する事項」という見出しで、五つの領域別に具体的で詳細な指導項目が記述されている。これは、平成29年度版学習指導要領における大きな方向転換である。

IV 小・中英語の連携について

1.中学校英語は難しくなるのか?

中学校英語の「内容」〔思考力、判断力、表現力等〕の(2)には、

具体的な課題等を設定し、コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、これらを論理的に表現することを通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する。

という記述がある。

そして、その下位項目(一部省略)として、

ア 日常的な話題や社会的な話題について、英語を聞いたり読んだりして必要な情報や考えなどを捉えたり、
イ 得られた情報や表現を、選択したり抽出したりして活用し、話したり書いたり、
ウ 日常的な話題や社会的な話題について、伝える内容を整理し、英語で話したり書いたりして互いに伝え合う

などの事項を挙げ、さらに(3)で、これらの事項を活用して行うべき言語活動の例も挙げている。

今後、小学校高学年に「外国語科」が導入され、さらにいくつかの文法項目が高校から降りてくるばかりか、言語活動の充実を求められても、対応し切れないと考える教員は多いかもしれない。しかし必ずしもそうではなさそうだ。特に中学校の言語活動については、(3)の「言語活動に関する事項」において、次のように述べている。

(2)に示す事項(情報を整理しながら考えなどを形成し、英語で表現したり、伝え合ったりすることに関する事項)については、(1)に示す事項(つまり文法等の項目)を活用して、例えば次のような言語活動を通して指導する。 ア 小学校学習指導要領第2章第10節外国語の第2の2の(3)に示す言語活動のうち、小学校における学習内容の定着を図るために必要なもの。(つまり、中学校の文法等を使いながら、小学校のレベルの場面や内容で言語活動をしてもよい、ということ)
イ 聞くこと (ア) 日常的な話題について、自然な口調で話される英語を聞いて、話し手の意向を正確に把握する活動。
(イ) 店や公共交通機関などで用いられる簡単なアナウンスなどから、自分が必要とする情報を聞き取る活動。
(ウ) 友達からの招待など、身近な事柄に関する簡単なメッセージを聞いて、その内容を把握し、適切に応答する活動。
(エ) 友達や家族、学校生活などの日常的な話題や社会的な話題に関する会話や説明などを聞いて、概要や要点を把握する活動。また、その内容を英語で説明する活動。 ウ 読むこと  <以下省略>

授業の目的を、文法項目を一つ一つ取り上げて徹底させることに置くのではなく、言語活動を豊かにする中に組み込むことで、上記の (ア)~(エ) は内容本位の活動になり、そこで用いられる文法項目や他の言語材料は、場面や状況を備えたものになるために、用いられる必然性が高まる。そのほうが、定着はしやすいのだ。また、どのような文法規則も一度教え込んだから定着するものではない。使わないかぎり、忘れられてしまう。しかし、上記のような平易な言語活動を繰り返し豊かに構成するならば、生徒は、重要な文法項目には何度も触れることになるはずである。

2.扱う「言語材料」は豊かになったと受け止める

「言語材料」という範疇は、従来は、中学校「外国語」で扱うものであり、「外国語活動」では使われていなかった。平成29年度版学習指導要領では、小学校の「外国語」にも、音声、文字及び符号、語、連語及び慣用表現、文及び文構造、の5点が「言語材料」として示された。また、小学校で身に付けることが期待されている語は、600~700語とされている。簡単な過去形なども「過去形のうち、活用頻度の高い基本的なもの」と規定し、導入することになっている。もちろん、小学校「外国語」の「指導計画の作成と内容の取扱い」には、「文法の用語や用法の指導に偏ることがないよう配慮して」と注意が書かれている。

小学校で、ある程度の言語材料に触れてきているとはいえ、触れたことと定着していることは別であると考えるべきである。中学校では、さまざまな言語活動の中で、小学校の学習項目を繰り返し自然な文脈で繰り返して使わせるうちに、ようやく定着すると考えたほうがよいだろう。定着までには時間がかかるものだが、その分、言語活動の幅は広がり、より多くの「コミュニケーションについての見方・考え方を働かせ」る機会が増えることになる。

Ⅴ まとめ

現代は、携帯端末の普及や人工知能の発達に象徴される、社会的コミュニケーションの様相が急速に変化している。それに伴い、人と人の関わり合い方の変化も著しい。この状況にあって、予測不能な未来に向かっていく子どもたちに「これさえ知っていれば大丈夫」と言って与えられるものがない、という実感は、だれもがもっている。こうした状況の中で、外国語学習を通して、教育の三つの柱の実現に向かって生徒を育てることは、その子どもたちが、世界の中で自己の位置づけを考えながら他者や国境を超えた世界と関わっていくために、重要な意味をもつ。

だからこそ、外国語教育の意味も大きく変わる必要がある。明治以来、英語の知識量が人の優秀さの指標であり続けてきた。一握りの英語の達人は輩出できたが、多くの学習者が英語嫌いになった。日本人は外国語ができない国民だと、自ら思い込むようになってしまったのである。この「英語コンプレックス」を克服するのは、大仕事であるが、平成29年度版の学習指導要領は、その解消に向け、従来のものよりも具体的な構成をもって、挑んできているように思われる。新しい学習指導要領で示された外国語によるコミュニケーションのしかたを学ぶ過程で、子どもたちがさまざまなことを体験しながら、思考力、判断力、表現力、対人関係力などを伸ばしていくことを期待したい。そこに言語によるコミュニケーションに対する積極的な態度がプラスされて、グローバル時代の未来の大人たちにとって必須の「生きる力」が育まれるといえるだろう。

主体的・対話的で深い学びは生徒だけの話ではない。教員にとっても、上からの授業改革の要求にどう対処するかという受け身での意識ではなく、生徒や、同僚、保護者、指導主事や近隣大学教員等との対話を進めながら、自己の英語教育に対する意識を見直し、判断し、主体的に授業改革に取り組んでいくことが望ましいのは、言うまでもない。