みつむら web magazine

Story 2 フォト・ジャーナリストという仕事

長倉 洋海(フォト・ジャーナリスト)

2016年3月31日 更新

長倉 洋海 フォト・ジャーナリスト

このコーナーでは、教科書教材の作者や筆者をゲストに迎え、お話を伺います。教材にまつわるお話や日頃から感じておられることなどを、先生方や子どもたちへのメッセージとして、語っていただきます。

長倉さんが写真家になられた頃のことを教えていただけますか。

僕が写真を始めたのは大学に入ってからですから、決して早くはありません。国際的な報道カメラマンになろうと、通信社の写真部に入社したのが24歳でした。ちょうどその頃、当時のソ連軍がアフガニスタンに侵攻したのに、会社は僕を特派しようとしなかった。思うような仕事ができなくて会社を辞め、27歳のときにフリーのカメラマンになりました。それ以来、この仕事を続けています。

長倉 洋海(フォト・ジャーナリスト)

これまでに、アフガニスタンやエルサルバドルなど、同じ土地を何度も訪ねられていますね。

アフガニスタンには、戦争になって以来17年、トータルで約500日行っています。学生時代を入れると800回以上になるでしょうか。2回、3回と同じ場所を訪れると、1回目に行ったときの自分が表面しか見ていなかったことに気がつきます。同じ相手に何年かごとに会ってみて、最初は見えなかったその人間性や、心の奥の思いに気づかされたという経験がいくつもありました。

ジャーナリストの中には、1週間も滞在していないのに、「この国はこうでした」とか「今の状況はこうです。人々はこう思っています」とか、さもわかったかのように言ってしまう人がいる。その人が会った人間や行った場所では、確かにそうだったのかもしれないけれど、一つの国の中には、違う声や異なる状況もあるはずです。

長倉 洋海(フォト・ジャーナリスト)
長倉 洋海(フォト・ジャーナリスト)

僕にしても、何度も訪れたからと言って、アフガニスタンやエルサルバドルのことがすべてわかっているわけじゃない。世界を旅する、あるいは取材に行くということは、単に出会いのきっかけをもらったにすぎない。それをきっかけに、その国や、その国の人々とどう付き合っていくかということが大切だと思います。

写真を通して伝えるということに対して、どんなふうにお感じでしょう。

報道写真ですから、もちろん事実を伝えることが基本ですが、目の前のことを伝えるというだけに縛られていてはだめだと思うんです。見た人の心に届くというか、見た人が「えっ」と身を乗り出してくるような、そんな写真でなければ。本当にいい写真というのは、見る人に僕たちが価値観を押し付けるんじゃなくて、見た人が自分の中にある何かと重ね合わせて感じ取れる、そんな写真ではないでしょうか。

見る側の人の反応といえば、長倉さんは、写真展も多く開いておられますが。

写真展を開いて、僕の写真を見ている人たちを直接に見ると、心のありようって、みんな違うんだなと改めて思いますね。ある写真の前をすっと通り過ぎる人もいれば、椅子に座って考え深げにじっと見続けている人もいる。
写真展には、だいたい50枚くらいは展示しますが、「どの写真がよかったですか」と尋ねてみても、答えはばらばらのはずです。例えば、「良い」と思って大伸ばしした写真ではなく、その横の小さい写真を見て、「私はこれがいい」と言う人もいる。
見る人によって「これだ!」とか「これが好きだ」とかは違います。見た感想が一緒じゃないからこそ、写真は面白いし、奥が深い。こうしたことが次の写真を撮るヒントになるし、次の旅への大きなモチベーションになります。

長倉 洋海(フォト・ジャーナリスト)

写真だけではなく、写真と言葉の両方で伝える場合もあると思います。

ええ。例えば、最近、ペットを亡くした家族が葬儀をしている写真を見たのですが、ちゃんとお骨にして骨つぼに入れていることに、「世界には貧しい人が大勢いるのに」と社会批判の言葉を添えるか、「ここにも家族を亡くした人がいる」という言葉を添えるかで、見る人の気持ちを大きく変えてしまいます。
大事なのは、その写真を撮った人が、言葉にも責任をもつことだと思います。フリーのカメラマンの中には、撮った写真を「はい」と編集者に渡すだけの人もいますが、発表するところまで責任をもたなくてはならない。そこに行って写真を撮ったのは自分だし、その場にいた人を見たのも、声を聞いたのも、その場の雰囲気を知っているのはその人なのですから。

photo: Shunsuke Suzuki

長倉 洋海[ながくら・ひろみ]

1952年、北海道釧路市生まれ。大学時代は探検部に所属し、通信社勤務を経て、1980年にフリーの写真家になる。精力的な取材には定評があり、なかでも、アフガニスタンの抵抗指導者マスードやエルサルバドル難民キャンプの少女へスースを、幾年にもわたり撮影し続ける。写真集に『地を駆ける』(平凡社)、『お~い、雲よ』(岩崎書店)など。著書に『私のフォト・ジャーナリズム 戦争から人間へ』(平凡社新書)、『ヘスースとフランシスコ エル・サルバドル内戦を生きぬいて』(福音館書店)、『アフガニスタン ぼくと山の学校』(かもがわ出版)などがある。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集