学習指導要領の方向性

学習指導要領のポイント

東京家政大学教授 小泉 仁

I はじめに

2017年3月、幼稚園・小学校・中学校の学習指導要領が告示された。小学校では「外国語活動」を3・4年生で扱い、5・6年生の英語は「外国語(英語)科」とよばれる教科になることになった。この変更が意味するところを、平成20年版学習指導要領と比較しながら、特徴的なポイントに絞って整理してみる。

II 学習指導要領の全体像

1.「知識・技能」「生きる力」

まず、小学校外国語活動、外国語科の話に入る前に、学習指導要領の全般的な特徴を整理してみたい。学習指導要領は、変化が急速で予測困難な現代社会を念頭に置き、その中で育つ子どもたちが、身につけた知識や技能を活用しながら学びを深め、結果として、いわゆる「生きる力」を高めるに至るプロセスを教育の目的とする視点を明確に打ち出した。従来とは視点を変えたために、書きぶりも大きく変わった。外国語活動や外国語科の各項目も、相違点を単純に比較するだけでは、その意図を理解することは難しい。まず改訂の全体像を、次の三つのポイントで整理したい。

■学習指導要領の書き方の枠組みが変わった

これまでの学習指導要領は、各教科とも「教員が何を教えるか」という観点を中心として組み立てられており、教えるべき個別の内容に関する記述を中心に、知識や技能の内容に沿って整理されたものであった。そのため、指導の目的が知識・技能にとどまりがちであり、一つ一つの学びの目的や、育むべき力がどのようなものかは明確でなかった。学習指導要領では、全ての科目について、記述の枠組みを統一的に見直し、児童・生徒が学びを通してどのような力をつけるのか、そして、その力をどのように活用するのかまでを詳細に記述しようとしている。

■「三本の柱」に沿って「目標」や「内容」が詳しく書かれた

2007年改正の学校教育法には、教育によって育むべき三つの資質・能力、すなわち「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」が示された。これらは平成20年度版学習指導要領でも触れられている。学習指導要領は、この資質・能力を「教育の三本の柱」とし、全ての教科でこれらの柱に沿った「目標」や「内容」を詳細に記述している。児童・生徒が学んだ知識・技能を生かして思考し、判断し、表現することまでを学校で指導するのであり、さらには、それらの学習体験をもとに、自律的な学習者となって学びを自ら深め、他の人々や社会・世界と関わって人間性を高めることが究極の目標となる。学習指導要領では、この学びのプロセスを実現するために、可能な限り具体的なことばを用いて、期待される学びの内容を示している。

■「アクティブ・ラーニング」の視点が取り入れられた

「教員が何をどう教えるか」から、「児童・生徒が何をどう学び、学んだものをどう使えるようになるか」に視点をシフトさせると、授業の方法も変わる。そこで焦点となるのが、いわゆる「アクティブ・ラーニング」の視点である。それは、児童・生徒が学びの主体になり、さまざまな場面で自発的に考え、仲間と意見を交換し、情報を共有しながら学びを深められるようデザインされた授業である。これは目新しいことではない。「よい授業」といわれる授業には、必ずアクティブ・ラーニングの要素がある。

この考え方は、単に知識中心主義の教育への反省だけでなく、対話する力、協力し合う力を学びの中で育むことを重視しており、言語によるコミュニケーションを促進することにもつながる。教員はそのプロセスを適切にサポートする役割を担う。学習指導要領では、「アクティブ・ラーニング」ということばを用いてはいないが、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための視点は、すなわち、アクティブ・ラーニングの視点なのである。

III 外国語活動 ― 3・4年生

1.外国語活動の目標、新旧の比較

ここで外国語活動と外国語(以後、便宜上「英語」とよぶ)について考えてみたい。まず、外国語活動が平成20年度版の5・6年生から改訂版では3・4年生になることで、学習指導要領の記述はどのように変わるのか、比較してみよう。

平成20年度版学習指導要領の外国語活動は、教科ではない「領域」として、かなり抽象的な言い回しで書かれていた。平成29年告示の学習指導要領では、授業で何を行うかについて、かなり具体的に書き込まれている。まず、新・旧学習指導要領の「目標」を比較する。


■平成20年度版(5・6年)

第1 目標

外国語を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーション能力の素地を養う。

■平成29年版(3・4年)

第1 目標

外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、話すことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

  1. 外国語を通して、言語や文化について体験的に理解を深め、日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。
  2. 身近で簡単な事柄について、外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。
  3. 外国語を通して、言語やその背景にある文化に対する理解を深め、相手に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

全体的には新・旧ともに、同一の方向を目ざしていると考えてよいだろう。注意するとすれば、「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ」という、新しい文言ではないだろうか。しかも、この「見方・考え方を働かせ」という言い方は、全ての教科の「目標」を記述するのに用いられている。

2.「見方・考え方を働かせる」とは?

学習指導要領の告示に先立ち、2016年12月に発表された中教審答申では、「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせる」ことを、「外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的・場面・状況等に応じて、情報や自分の考えなどを形成、整理、再構築する」ことと整理している。

かなり乱暴な解釈になることを承知で、筆者なりにこれを噛み砕いてみよう。

外国語でのコミュニケーションとは、
i) 相手のあることばのやり取りである。
ii) やり取りの背景にはそれぞれの人の文化がある。
iii) 人や世界はそのようにしてつながっている。
iv) だから、目的や場面や状況に応じて、考え工夫して表現することに意味がある。

ということになるだろうか。

これは難しいことではなく、身近な例はいくらでもある。まず、「見方・考え方」が働いていない例を挙げてみよう。小学校の外国語活動の授業で、初めに学級担任や ALT が児童に、“How are you?” と問いかける場面である。児童から “I’m sleepy.” と返事が来る。それに対して教員が “Good!” と言って次へ進んでしまったら、それはコミュニケーションではないだろう。

よい例も挙げてみよう。別の小学校でのこと。4年生の学級担任が “Let’s play.” と “When?” と “Where?” だけを用いた言語活動を企画した。「遊ぼう」「いつ? どこで?」という対話をさせたのである。その日の放課後、教員が帰宅しようと校門を出たところで、自転車で通りかかったクラスの男子児童二人に挨拶された。「おや、珍しい二人連れだね」と声をかけると、「だって、さっき、英語の時間に約束したから」と児童は答えた。教員は授業の枠内での言語活動のつもりだったが、児童は本気でコミュニケーションをして、図らずも、「見方・考え方を働かせ」て人間関係を深めていたのだ。

3.外国語活動の「内容」は CAN-DO 記述文になる

新・旧の学習指導要領の「内容」の項を比較してみると、平成20年度版の「内容」で述べている要素は、総じてかなり抽象的であったことが改めて理解できる。平成20年度版学習指導要領が策定された当時は、「領域」としての外国語活動であることを重視し、教科のような具体的な学習項目や到達目標を記述することは、あえて避けられていた。例えば、「内容」の抽象的な記述の直後に、「指導計画の作成と内容の取扱い」の項が来ている。

それに対し、平成29年告示の学習指導要領の最も大きな特徴として、具体的で詳細な指導項目が、英語の技能別に示されている。これは、大きな方向転換である。特に注目すべきことは、いわゆる CAN-DOリスト形式による記述が採用されたことであり、しかも、CAN-DOの考え方の背景にあるヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)〈※1〉に倣った、「聞くこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」の三つの領域別に到達目標を設定していることである(もちろん「読むこと」と「書くこと」については、5・6年生から入るのであるが)。このように、到達目標を設定する書き方をすることで、「外国語活動」と「外国語」との目標と内容の違いが明確に見えるようになり、3・4年生は教科としての英語を学ぶ前に何を学んでおけばよいのかが、具体的に示されることになった。しかし、この書き方は「外国語活動」と「外国語」の違いは、到達目標のレベルの差であることを示したことにもなる。実質的に両者は「領域」と「教科」の境を超え、コンティニュアム(切れ目なく連続するもの)となろうとしている、といえるのかもしれない。

では次に、「各言語の目標及び内容等」を見てみよう。ご覧のとおり「外国語活動」の下位区分として「各言語」があるという形だが、中学校と統一した書き方である。

「英語」の目標は「外国語活動」の目標とは異なり、具体的である。「目標」だが、ここでは、「話すこと[やり取り]」の記述文を紹介する。

1 目標
英語学習の特質を踏まえ、以下に示す、聞くこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]の三つの領域別に設定する目標の実現を目指した指導を通して、第1の(1)及び(2)に示す資質・能力を一体的に育成するとともに、その過程を通して、第1の(3)に示す資質・能力を育成する。
(1) 聞くこと <省略>
(2) 読むこと <省略>
(3) 話すこと[やり取り]
ア 基本的な表現を用いて挨拶、感謝、簡単な指示をしたり、それらに応じたりするようにする。
イ 自分のことや身の回りの物について、動作を交えながら、自分の考えや気持ちなどを、簡単な語句や基本的な表現を用いて伝え合うようにする。
ウ サポートを受けて、自分や相手のこと及び身の回りの物に関する事柄について、簡単な語句や基本的な表現を用いて質問をしたり質問に答えたりするようにする。

このように、CAN-DO 形式の特徴的な書き方になっている。教員の指導のための記述になっているが、それぞれの記述文の末尾を「~ようにする」から「~ことができる」に替えると、文字通り CAN-DO になる。3・4年生はまだ「教科」ではなく「活動」であるため、評価としての指標を感じさせる「~ことができる」を使わず「~ようにする」という表現を使っているのかもしれないが、そもそも、「するようにする」という表現は日本語として理解が難しい。さらに、たとえば、「サポートを受けて」の主語は児童だと思われるが、「~するようにする」の主語は教員だ。二つの異なる主語を想定しながら、どちらも省いて書くのは無理がある。

CAN-DO 記述文は、教員にとっては指導を計画する上での指標であり、学習者が自らの学習を見渡すための指標としても利用でき、学習を教員が評価したり学習者自身が評価したりするのにも用いられる。それが本来の概念である。たとえ3・4年生であっても、児童の主体的な学びを促すことを意識して、これらの記述文を活用したいものである。

  • 1 Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment の略称。EUが開発した、あらゆる外国語の学習と教育と評価に共通に用いることができる到達目標を、具体的な指標と枠組みの形式で示したもの。

4.「各言語の目標及び内容等」は言語活動の例

次に、「内容」の項を見てみる。学習指導要領の三本の柱のうち、〔知識及び技能〕〔思考力、判断力、表現力等〕の二つに分けて整理されている。特に〔知識及び技能〕については、5・6年生の「外国語」に比べると具体的な記述はほとんどなく、平成20年度版の「内容」の記述とかなり似通っている。言語材料などの具体的な学習項目を示さないことは、領域としての外国語活動であることを示すというスタンスの表れだろう。

〔知識及び技能〕
(1) 英語の特徴等に関する事項
実際に英語を用いた言語活動を通して、次の事項を体験的に身に付けることができるよう指導する。
ア 言語を用いて主体的にコミュニケーションを図ることの楽しさや大切さを知ること。
イ 日本と外国の言語や文化について理解すること。
(ア) 英語の音声やリズムなどに慣れ親しむとともに、日本語との違いを知り、言葉の面白さや豊かさに気付くこと。
(イ) 日本と外国との生活や習慣、行事などの違いを知り、多様な考え方があることに気付くこと。
(ウ) 異なる文化をもつ人々との交流などを体験し、文化等に対する理解を深めること。

いっぽう、〔思考力、判断力、表現力等〕の枠組みの中では、次の三つの事項に分けて分類する。

  1. 情報を整理しながら考えなどを形成し、英語で表現したり、伝え合ったりすることに関する事項
  2. 言語活動に関する事項
  3. 言語の働きに関する事項

特に、言語活動については、具体的な例を提示している。「話すこと[発表]」を例にとれば、次のようである。

(ア) 身の回りの物の数や形状などについて、人前で実物やイラスト、写真などを見せながら話す活動。
(イ) 自分の好き嫌いや、欲しい物などについて、人前で実物やイラスト、写真などを見せながら話す活動。
(ウ) 時刻や曜日、場所など、日常生活に関する身近で簡単な事柄について、人前で実物やイラスト、写真などを見せながら、自分の考えや気持ちなどを話す活動。

学習指導要領が示しているこれらの活動例については、特に目新しいものや、とりわけレベルが高いものが加わったわけではない。これまで「総合的な学習の時間」での英語活動や、高学年の外国語活動での実践が積み上げられてきたものである。

5.「コミュニケーションの場面」と「コミュニケーションの働き」はどこにでも

「コミュニケーションの場面」と「コミュニケーションの働き」の各項目は、平成20年度版では「指導計画の作成と内容の取扱い」の項目の中に入っている。しかし、今回の学習指導要領では「内容」の項に「言語活動及び言語の働きに関する事項」として整理され、具体的な文言が並べられた。「言語の使用場面の例」については平成20年度版の外国語活動と同一であり、「児童の身近な暮らしに関わる場面」と「特定の表現が使われる場面」を記述しているが、それぞれに挙げられた例は変わっていない。

いっぽう、「言語の働きの例」としては、平成20年度版「コミュニケーションの働きの例」と同様の分類を五つ例示しているが、新たにそれぞれに具体的な内容を二つ程度ずつ示している。例えば、「(オ) 相手の行動を促す」には、「質問する、依頼する、命令する、など」が示された。

では、これらをどのように授業の中で実践すればよいだろうか。これらは、授業での言語活動を企画する際、または教材を作成する際に、無意識に取り入れているものがかなり多いはずだ。例えば、新任の ALT に校舎内を案内する活動を設定すれば、児童が用いる “This is ….” という表現は、「事実・情報を伝える」という働きと、「学校での活動」という場面を組み合わせていることになる。そのような例は、いくらでもあるだろう。

6.「指導計画の作成と内容の取扱い」について

「指導計画の作成と内容の取扱い」の項は、一項目を除き、新・旧の学習指導要領は、ほとんど同一の内容である。新しく示された項目は、(1) アである。要約すると次のとおり。

  • 単元などを見通し、児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図る。
  • 具体的な課題を設定し、外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせながら、目的や場面、状況などを意識して活動を行わせる。
  • 英語の音声や語彙、表現などの知識を、「聞く・やり取り・発表」の三つの領域における実際のコミュニケーションにおいて活用できるようにする。

IV 教科としての「外国語(英語)」 ― 5・6年生

1.小学校外国語は、中学校英語の前倒しではない

小学校高学年の教科としての「外国語」の「目標」は、次のように記述されている。

第1 目標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

形式は、3・4年生の外国語活動の書き方と同一である。違いは、目標に「読むこと」と「話すこと」が加えられたことと、「コミュニケーションを図る素地」から「コミュニケーションを図る基礎」へとレベルアップしていることである。この記述の違いは、平成20年度版での5・6年生の「外国語活動」と中学校「外国語科」の違いを想起させる。また「目標」の記述は、さらに次のように展開されて記述される。

  1. 外国語の音声や文字、語彙、表現、文構造、言語の働きなどについて、日本語と外国語との違いに気付き、これらの知識を理解するとともに、読むこと、書くことに慣れ親しみ、聞くこと、読むこと、話すこと、書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする。
  2. コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、身近で簡単な事柄について、聞いたり話したりするとともに、音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり、語順を意識しながら書いたりして、自分の考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力を養う。
  3. 外国語の背景にある文化に対する理解を深め、他者に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

文字、語彙、文構造などの言語材料に関わることを知識として理解すること、「読むこと」「書くこと」に慣れ親しむこと、実際のコミュニケーションのための基礎的技能を身につけることなど、平成20年度版の中学校の項目がそのまま降りてきたような印象を受ける。これは確かに教科としての記述である。

とはいえ、随所に小学校ならではの配慮が見られる。「各言語の目標及び内容等」の項から、「聞くこと」と「読むこと」〈※2〉を引用する。

(1) 聞くこと
ア ゆっくりはっきりと話されれば、自分のことや身近で簡単な事柄について、簡単な語句や基本的な表現を聞き取ることができるようにする。
イ ゆっくりはっきりと話されれば、日常生活に関する身近で簡単な事柄について、具体的な情報を聞き取ることができるようにする。
ウ ゆっくりはっきりと話されれば、日常生活に関する身近で簡単な事柄について、短い話の概要を捉えることができるようにする。
(2) 読むこと
ア 活字体で書かれた文字を識別し、その読み方を発音することができるようにする。
イ 音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする。

これらの各記述文が示すように、「聞くこと」については、音声言語の速度の適切さと明確さに触れている。また、題材を日常生活に関する身近で簡単な事柄に限定することは、従来の中学校英語にはなかった発想である。

「読むこと」については、文字を識別し発音でき、音声で慣れ親しんだ簡単な語句や表現の意味が分かればよいという、慎重な方針である。従来の日本の外国語教育では、入門期に音声と文字を同時に扱い、新しい語彙や表現については、意味も発音も綴りも、同時期に指導することにあまり疑問を抱かなかった。しかし、言語習得研究の理論から見て、音声に慣れ親しませることを先行させる方向性は、最も無理が少ない、妥当な考え方である。

  • 2 平成20年度版学習指導要領では、「聞く、話す、読む、書く」の順で扱われている。音声言語を文字言語学習に優先する考え方に基づいた順序で、昭和22年の「学習指導要領試案」から使われ続けていたが、平成29年告示の学習指導要領では、言語の受容の技能に関わる領域を先に、産出に関わる領域を後にする順序が採られている。

2.「言語材料」はかなり多い

平成20年度版では、「言語材料」という範疇は中学校の「外国語」で扱うものであり、「外国語活動」では使われていなかった。平成29年告示の学習指導要領では、「外国語」の「内容」の〔知識及び技能〕の項に、「英語の特徴やきまりに関する事項」という項目を設定し、音声、文字及び符号、語、連語及び慣用表現、文及び文構造の5点を「言語材料」として示した。「外国語」の「目標」の(1)に書かれたように、これらの知識については「理解するとともに、(中略)実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする」ことになる。

「言語材料」で示した具体的な文構造は、基本的には従来の外国語活動でも使われていたものをリストアップしていると考えてよいだろう。ただし、文部科学省作成の指導教材『Hi, friends!』では、基本的に I と you と we 以外は扱われていない。過去形も扱われていなかったが、実際には明確な場面が設定されていれば、教員や ALT の発話を理解することはできるとして、授業の中で過去形や他の代名詞が扱われることは少なくなかった(ただし、児童がこれらの活用をめあてとした言語活動を行うことは、ほとんどなかったようである)。

学習指導要領では「過去形のうち、活用頻度の高い基本的なもの」と規定しているが、当然ながら小学校の段階で過去形という文法規則の完璧なマスターを目的としているのではない。「指導計画の作成と内容の取扱い」にも、「文法の用語や用法の指導に偏ることがないよう配慮して」という注意が書かれている。過去形を用いる具体的な場面を適切に設定して、自然な言語活動の中で扱うことで、児童にも理解することができるはずであり、それで十分ではないかと思われる。

Ⅴ まとめ

現代は、携帯端末の普及や人工知能の発達に象徴される、社会的コミュニケーションの様相が急速に変化している。それに伴い、人と人の関わり合い方の変化も著しい。この状況にあって、予測不能な未来に向かっていく子どもたちに「これさえ知っていれば大丈夫」と言って与えられるものがない、という実感は、だれもがもっている。外国語学習を通して、教育の三つの柱の実現に向かって児童を育てることは、彼らが、世界の中で自己の位置づけを考えながら、他者や国境を超えた世界と関わっていくために、重要な意味をもつ。

だからこそ、外国語教育の意味も大きく変わる必要がある。明治以来、知識偏重の英語教育が多くの日本人の英語に対する苦手意識につながってきた面があることは、残念ながら否めない。学習指導要領で示された外国語によるコミュニケーションのしかたを学ぶ過程で、子どもたちがさまざまなことを体験しながら、思考力、判断力、表現力、対人関係力などを伸ばしていくことを期待したい。そこに言語によるコミュニケーションに対する積極的な態度がプラスされて、グローバル時代の未来の大人たちにとって必須の「生きる力」が育まれるといえるだろう。

主体的・対話的で深い学びは、児童だけの話ではない。教員にとっても、上からの授業改革にどう対処するかという受け身での意識ではなく、児童や、同僚、保護者、指導主事や近隣大学教員等との対話を進めながら、主体的に取り組んでいくことが望ましいのは、言うまでもない。今回の学習指導要領改訂により、組織としての学校が直面することになる大きな課題は、カリキュラム・マネジメントと、校内及び地域内研修体制の再構築だろう。英語教育の目的や方法、そして指導理念について、これほど具体的な提案がなされている状況である。今のうちから、校内、または地域の英語教員チームで改革のイメージを共有し、2020年からの授業の取り組みに向けた、意識の共有を図ることから始めるのが望ましい。もちろん、文部科学省や自治体の教育委員会が十分な研修の機会を確保してくれることを期待したい。