学習指導要領の方向性

学習指導要領の方向性

山梨大学名誉教授 宮澤正明

平成29年度告示の学習指導要領では、各教科において育成を目指す資質・能力として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱を挙げています。国語科も、これにならって構成されています。

平成20年度版の小・中学校学習指導要領国語科における「書写」は、[伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項]に位置づけられていますが、今次の改訂で「書写」は、[知識及び技能]の「(3)我が国の言語文化に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。」に位置づけられました。書写が「知識・技能」に位置づけられたことで、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」といった言語活動を支える基礎的役割が、より明確になったといえます。

次に、小・中学校国語科書写の新しい内容について考えてみます。

1.小学校書写について

■低学年の変更のポイント

平成20年度版では、ア・イの2項目ですが、新学習指導要領は、(ア)~(ウ)の3項目になりました。

[第1学年及び第2学年]
(ア) 姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと。
(イ) 点画の書き方や文字の形に注意しながら、筆順に従って丁寧に書くこと。
(ウ) 点画相互の接し方や交わり方、長短や方向などに注意して、文字を正しく書くこと。

注目すべきは、(イ)に「点画の書き方」が新たに加わったことです。文字を構成する要素を「点画」といいますが、点画には始筆、送筆(折れ、反り、曲がりなど)、終筆(止め、はね、払い)があり、文字の形(概形)とともに点画を意識して確実に書くように指導するということです。点画の書き方、特に終筆の「はね、払い」への意識を高めるためには、硬筆ではなく弾力のある筆記具を用いることが効果的です。このことに関して「指導計画の作成と内容の取扱い」のカ(エ)で、「第1学年及び第2学年の(3)のウの(イ)の指導については、適切に運筆する能力の向上につながるよう、指導を工夫すること。」とあります。これは、弾力のある筆記具による効果を期待したものといえるでしょう。第3学年から始まる毛筆学習を円滑に進める上でも、今次の改訂における重要なポイントになります。

■中学年の変更のポイント

平成20年度版の「ウ 点画の種類を理解するとともに、毛筆を使用して筆圧などに注意して書くこと。」が、改訂では「(ウ) 毛筆を使用して点画の書き方への理解を深め、筆圧などに注意して書くこと。」になりました。点画の書き方、特に終筆の「はね、払い」については、毛筆によって文字が書き継がれてきたことを理解するとともに、毛筆特有の筆圧などを感得することで、より正しく整った字形を書くことが期待されます。なお、毛筆学習は硬筆による書写の能力の基礎を養うよう指導することは、継続して配慮されており、毛筆のための毛筆学習にならないよう注意する必要があります。

[第3学年及び第4学年]
(ア) 文字の組立て方を理解し、形を整えて書くこと。
(イ) 漢字や仮名の大きさ、配列に注意して書くこと。
(ウ) 毛筆を使用して点画の書き方への理解を深め、筆圧などに注意して書くこと。

■高学年の変更のポイント

高学年の内容は変更がありません。高学年では、一文字の書き方から、文・文章といった文字群における文字の大きさや配列に関する内容になります。(ア)の「書く速さを意識して書く」の文言は、場面に応じた書く速度を意識することであり、小学校の段階ではスピードを高めさせる学習ではありません。しかし、中学校で学習する速く書くための行書学習への橋渡しとして、「いわゆる許容の書き方」についての知識・理解を図る工夫は必要になるでしょう。

[第5学年及び第6学年]
(ア) 用紙全体との関係に注意して、文字の大きさや配列などを決めるとともに、書く速さを意識して書く
   こと。
(イ) 毛筆を使用して、穂先の動きと点画のつながりを意識して書くこと。
(ウ) 目的に応じて使用する筆記具を選び、その特徴を生かして書くこと。

なお、学年別漢字配当表には、従来の1006字から20字増えて1026字が示されました。増えた漢字は県名に使われている漢字で、すべて第4学年に配当されました。社会科の学習内容に合わせた対応です。これに伴って、各学年の配当漢字が変更になったので、書写の教材作成などでは注意が必要です。

2.中学校書写について

中学校の書写に関する事項は、文字の書き方に関する内容と、文字文化に関する内容で構成されています。文字文化に関しては、小学校で学んだ楷書から行書学習へと進み、目的や必要に応じた書き方や書体の選択ができるようになること、そして、身の回りの多様な表現(書き文字や印刷文字など)を通して、これらを文字文化として捉え、文字の諸相の豊かさを感じつつ文字を書くことなどを指導します。

■第1学年の変更のポイント

平成20年度版の内容と大きな変化はないのですが、現行の「イ 漢字の行書の基礎的な書き方を理解して書くこと。」が、改訂では「(イ) 漢字の行書の基礎的な書き方を理解して、身近な文字を行書で書くこと。」となりました。ややもすると行書学習の目的が理解されないまま指導されることが多いので、注意を喚起したいところです。楷書とは異なる書き方、すなわち、「点画の方向や形の変化」「点画の連続」「点画の省略」「筆順の変化」「丸み」などの特徴を理解した上で、日常的に使うことが行書学習の目的であることを意識させる指導がより求められています。

[第1学年]
(ア) 字形を整え、文字の大きさ、配列などについて理解して、楷書で書くこと。
(イ) 漢字の行書の基礎的な書き方を理解して、身近な文字を行書で書くこと。

■第2学年の変更のポイント

平成20年度版の内容と同じ内容が示されました。行書の書き方の習熟を図るとともに、行書に調和する仮名の書き方にも習熟することが求められます。行書の特徴を仮名にも転化させ、両者の調和に意識を高めさせる工夫が必要になるでしょう。

[第2学年]
(ア) 漢字の行書とそれに調和した仮名の書き方を理解して、読みやすく速く書くこと。
(イ) 目的や必要に応じて、楷書又は行書を選んで書くこと。

■第3学年の変更のポイント

平成20年度版では「ア 身の回りの多様な文字に関心をもち、効果的に文字を書くこと。」とありますが、改訂では「(ア) 身の回りの多様な表現を通して文字文化の豊かさに触れ、効果的に文字を書くこと。」と示されました。新たに加わった「身の回りの多様な表現」「文字文化」の文言は、漢字や仮名の成り立ちや歴史的背景、文字が書かれた用具・用材、社会生活における文字の役割や存在意義、活字やデザイン文字と書き文字との関係、文字が審美の対象となって芸術(書)に昇華したことなどを指していると考えられます。これらの文字文化の豊かさを理解することは、日常生活における書写活動への高い意識につながり、ひいては高等学校芸術科書道への関心にもつながると期待されます。

[第3学年]
(ア) 身の回りの多様な表現を通して文字文化の豊かさに触れ、効果的に文字を書くこと。

今次の改訂では、書写が「知識・技能」に位置づけられたことから、「思考力・判断力・表現力等」の「話すこと・聞くこと、書くこと、読むこと」と一線を画すように見えますが、両者を区別するのではなく、常に関連させた指導がなされるように配慮することが大切です。

また、高等学校国語科も大きな変更があります。現行の共通必履修科目「国語総合」が、「現代の国語」と「言語文化」に分かれて新しく設けられました。そして、両科目に小・中学校国語科書写の内容が延伸し、深められることになります。したがって、小・中学校での書写は高等学校芸術科書道だけでなく、高等学校国語科での書写も見据えながら指導することが求められます。