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質問13 読み物教材における「自我関与」って、なに?

ここが知りたいQ&A

2017年10月30日 更新

35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた富岡 栄先生(麗澤大学大学院准教授)が、「特別の教科 道徳」に関するよくある疑問にお答えします。

回答:富岡 栄(麗澤大学大学院准教授)

「自我関与」を辞書で調べてみると、「ある事柄を自分のもの、あるいは自分に関係があるものとして考えること。」とあります。これを手がかりに、道徳科における自我関与の意味を考えてみましょう。すると、二つの意味を見いだすことができます。

一つ目は、教材中の登場人物に自分自身を投影させて考えることです。道徳科は自分の生き方、人間としての生き方を考える時間です。他人事ではなく、自分自身のこととして捉えることが大切です。他人事ではない「自分事」として捉えるためには、「(この道徳的場面で)あなたならどうするか?」という発問をすることです。これまでは、この「あなたならどうするか?」という発問はタブー視されてきた傾向がありました。それは「本音が出ないから」という理由でした。しかし、道徳科のねらいは画餅であってはなりません。生きて働く道徳性を身につけなければならないわけです。教材中の場面を現実場面と想定して、この場面だったら自分はどうするだろうと、多面的・多角的に真剣に考えることです。まさに、全自我をその道徳的な問題に関与していくことが重要になってきます。

本音が出ないという危惧についての解決策は、日頃から温かい人間関係作りに努めることです。自分の考えたこと、思ったことを安心して言い合うためには、教師と児童生徒、児童生徒相互の温かな共感的理解が存在することが大切です。日頃の学級経営が大切です。

二つ目は、ねらいとする道徳的価値を自分自身との関係で捉えていくことです。このことは、道徳的価値を自覚していくことにつながっていきます。道徳的価値の自覚は、平成20年度告示の学習指導要領解説で「道徳的価値の自覚については、発達の段階に応じて多様に考えられるが、例えば、次の三つの事柄を押さえておくことが考えられる。一つは、道徳的価値についての理解である。道徳的価値が人間らしさを表すものであるため、同時に人間理解や他者理解を深めていくようにする。二つは、自分とのかかわりで道徳的価値がとらえられることである。そのことにあわせて自己理解を深めていくようにする。三つは、道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題が培われることである。」と端的に述べられています。この三つの事柄の中で、二つ目は、まさに自我関与そのものといえます。この三つの事柄は順次養われることもあれば、同時に把握されることもあります。いずれの場合にせよ、道徳的価値の自覚とは、価値を理解し、自分との関わりで捉えて、これからの生き方に生かしていこうとすることです。よって、自分自身で捉えようとする自我関与なくしては、道徳的価値の自覚に至りません。それだけに、自我関与を促す手立てや工夫が重要になってきます。

富岡 栄(とみおか・さかえ)

麗澤大学大学院准教授。公立中学校教諭、管理職として、35年以上にわたり道徳教育の研究を続けてきた。平成27年3月、群馬県高崎市立第一中学校校長を定年退職。退職後は大学にて道徳教育に関する講座を担当。日本道徳教育学会、日本道徳教育方法学会の評議員を務める。平成27年一部改正「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」の作成協力者の一人。

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