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第2回 学校教育におけるソーシャルスキルの意義

Let's start ソーシャルスキル

2015年1月30日 更新

荒畑 美貴子

基本的な考え方から具体的な指導方法まで、ソーシャルスキル教育に関することを、荒畑美貴子先生(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)がご紹介します。

第1回の「ソーシャルスキルとは」では、ソーシャルスキルの大切さについてお伝えしました。今回は、学校教育の中のソーシャルスキル教育に関する質問にお答えします。

回答:荒畑 美貴子(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)

質問1 学校教育の中で、ソーシャルスキルを教える必要性はあるのでしょうか。

質問2 ソーシャルスキルを教えるための授業を作ったほうがいいのでしょうか。

質問3 ソーシャルスキル教育をするのは、学年の初めだけでいいのでしょうか。

質問4 学校教育の中でソーシャルスキルを教えたときの成果を教えてください。

質問1 学校教育の中で、ソーシャルスキルを教える必要性はあるのでしょうか。

今と比べて昔は、ソーシャルスキルを学校で学ばなくても、家族や近所の大人から、人との関わり方を自然に学ぶことができていました。異年齢集団で遊ぶことも多く、その中で自分を生かしつつ集団の一員としてやっていくコツを学ぶこともできたのです。

しかし、昨今は、家族を構成する人数が少なくなり、社会が変化し、大人が子どもの前で人との関わり方を示す機会は、激減しているといえます。それに加えて、もう一つ大きく変化したのが、子どもたちの遊び方です。ゲーム機器などの普及によって、大きな集団を作って外で身体を動かすという遊びに、室内での少人数の遊びが加わりました。ゲームは、互いが関わり合う要素は少なく、個々が、ひたすら機器と向き合う遊びが中心ですから、ソーシャルスキルを磨く場を作りにくくなります。さらには、習い事や学習塾に通う子どもたちが多くなり、友達と遊ぶ時間も限られてきています。

このように、社会生活の中で学びにくくなってきたソーシャルスキルをどこかで補う必要性が出てきました。1980年代後半ごろから、学校教育の中でもソーシャルスキル教育が扱われるようになってきたのは、このような背景があったのです。

質問2 ソーシャルスキルを教えるための授業を作ったほうがいいのでしょうか。

例えば、1週間に1時間、人との関わり方のコツを学ぶ授業を行うという考え方は現実的ではありません。しかし、新しい学年に上がる、4月の新学期の初めに一定の時間を取って、ソーシャルスキルを学ぶことの大切さや土台となるコツをクラスで確認することはとても重要だと考えます。

子どもたちが、友達、あるいは親や先生など、人への対応のしかたを共通理解することは、教師にとって、その後のクラス経営にたいへん役立ちます。例えば、子どもどうしの喧嘩の仲裁に入り、なぜ喧嘩が始まったのか、関わり方としてどこがまずかったのかを考えさせるとき、ソーシャルスキルとして学んだことが土台となっていれば、子どもどうしの気づきにも共通性が生まれるのです。その結果、問題の解決が、より円滑になることが予想されます。

質問3 ソーシャルスキル教育をするのは、学年の初めだけでいいのでしょうか。

学年の初めに学んだソーシャルスキルを生かすためには、授業や学校生活全般を通して、折々に学ぶ機会を作っていくことが大切です。

授業のまとめとして、短い時間であってもソーシャルスキルを学ぶ機会を設定することは可能だと思います。少しの時間でも回数を多く設けることで、スキルアップにつながっていくのです。

授業の中で子どもどうしが関わる時間を意図的に作り、人との関わりをもつ時間を増やしていくことも大切です。

また、グループ活動もスキルを学ぶチャンスです。アクティブ・ラーニングのポイントの一つに「対話的な学び」が挙げられていますが、授業の中の話し合い活動では、「話し方のスキル」「関わり方のスキル」も必要になります。小さな集団で互いを尊重しながら学び合うためにも、ソーシャルスキルを磨いていく必要があるでしょう。

ケーススタディ1,2,3

質問4 学校教育の中でソーシャルスキルを教えたときの成果を教えてください。

大人が当たり前だと思っている「人づきあいのコツ」が、子どもたちには届いていなかったのだと気づかされたことがあります。以前行った、「頼み方」の授業でのことです。そのとき私は、「○○さん、今、手が足りなくて困っているのだけど、手伝ってもらえますか。」という、ごく当たり前の声のかけ方を教えました。そのときの子どもたちの反応に、私はびっくりしました。

「こう言えばいいということが分かってうれしかった。これから使ってみたい。」という感想がたくさん寄せられたのです。

それから何年もたち、たくさんの子どもたちと授業をしてきましたが、子どもたちは人づきあいのコツを知りたがっているのだというのを、今や確信しています。そして、子どもたちが、「ソーシャルスキルを学ぶことは楽しい」と考えていることも分かってきました。

子どもたちが、友達との関わり方に不安をもっているとするならば、学校教育の中でソーシャルスキルを扱っていくのは、とても有意義だと思います。そのスキルは、子どもたちの長い人生の大きな糧となってくれるからです。

荒畑's ポイント

ソーシャルスキルは、学年の初めに一定の時間を取ったり、授業や学校生活全般で学んだりする機会を作るとよいでしょう。少しの時間を、回数多く設けることがスキルアップの秘訣です。


荒畑 美貴子(あらはた・みきこ)

元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事。東京都公立小学校教諭として勤務しながら、2008年12月よりTISEC(※)の活動を始める。2012年10月、特定非営利活動法人TISEC理事長に就任。専門は教育学。小学校教育における課題とその解決法について研究を行っている。ソーシャルスキル教育の実践も多い。

※TISEC……全ての子どもたちの幸せを願って、より理想的な学校教育の実現を目ざして設立され、主に若手教師の育成、発達障害や不登校に悩む子どもたちや保護者の支援充実のために、メディアによる情報発信と、講演会、相談活動を行っている。

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