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第4回 「暗黙の了解」とソーシャルスキル

Let's start ソーシャルスキル

2015年1月30日 更新

荒畑 美貴子

基本的な考え方から具体的な指導方法まで、ソーシャルスキル教育に関することを、荒畑美貴子先生(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)がご紹介します。

これまで、ソーシャルスキル教育を学校で扱う意義や、道徳の授業を通してどのように指導していくといいのかについて考えてきました。今回は、ソーシャルスキルが身につきにくい子どもたちに対して、どのように配慮していけばいいのかお答えします。

回答:荒畑 美貴子(元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事)

質問1 ソーシャルスキルにおける「暗黙の了解」とは、どのようなことでしょうか。

質問2 「暗黙の了解」が身につきにくい子どもには、どのように接するとよいでしょうか。

質問3 集団が一人の課題を支えていき、「暗黙の了解」が身についた例を教えてください。

質問4 「暗黙の了解」を身につけさせるコツを教えてください。

質問1 ソーシャルスキルにおける「暗黙の了解」とは、どのようなことでしょうか。

日常において、「暗黙の了解」とは、わざわざ説明をせずとも、多くの人が当たり前のように行っていることをいいます。例えば、学校生活の中でいうと、「先生や友達の話は、黙って聞く」とか、「授業中には手を挙げて指名されてから答える」といったことが、「暗黙の了解」として挙げることができると思います。

これらは、生活の中で見よう見まねで自然と身につくものです。しかし、クラスの中には、「暗黙の了解」が身につきにくい子どもたちがいます。そういったタイプの子どもたちに「暗黙の了解」を言葉で教えたところで、すぐに理解してもらえるとは限りません。自分自身のやり方にこだわりをもっている場合、身につきにくいこともあるのです。

質問2 「暗黙の了解」が身につきにくい子どもには、どのように接するとよいでしょうか。

道徳や他の教科の学習の中で、ソーシャルスキルを学ぶ機会を設けることは、もちろん大切です。でも、まず初めに教師が子どもたちの個性を理解し、信頼関係を作っていくことがいちばん大切ではないでしょうか。信頼できる大人の言葉は、子どもたちの心に届きやすいものです。それは、全ての子どもたちにあてはまります。

それから、ソーシャルスキルを学ばせる目的を、クラス全体のスキルアップと考えることも必要です。課題のある子どもがいると、その子どもにターゲットを絞って授業をしがちですが、そうではなく、集団が一人の課題を支えていくことができるように、他の多くの子どもたちの力量を上げるように仕向けるのです。これは、課題のある子どもを放置するということではありません。教師や周囲の子どもたちとの関係が良好になることで、課題のある子どもたちも成長していくことが期待されるのです。また、課題をすぐに克服できなかったとしても、困ったときには助けを求めてもいいのだというスキルを身につけさせることによって、生活しやすい環境が生まれてくることがあります。

質問3 集団が一人の課題を支えていき、「暗黙の了解」が身についた例を教えてください。

集団の力量を上げることで、課題が克服できた例はたくさんあります。例えば、誰に対しても、「でも」「だって」と言い返す子どもがいました。周囲の子どもたちとの関係は、あまりいいとはいえません。私は、その子どもに、「そういう言い方ではなくて、まず相手の言っていることを、受け止めるといいね」などとアドバイスをしましたが、そう簡単に状況を変化させることはできませんでした。

そこで今度は、周囲の子どもたちに「さまざまな個性があっていい」ということを理解させたうえで、課題のある子どもが言い返すことを聞き流したり、上手に話の仲間に入れたりするようにアドバイスをしました。すると、大きな変化が表れました。課題のある子どもがよく笑うようになり、クラス全体も、自然にその子どもを受け入れようとする空気が生まれてきたのです。子どもの力はすごいなと思った出来事でした。

質問4 「暗黙の了解」を身につけさせるコツを教えてください。

何かマニュアルがあって、その通りにやればうまくいくというものはありません。それは、教師にも子どもにも個性があるからです。

でも、ひとつ言えることは、どんな個性の子どもに対しても、教師が毅然として公平・公正な態度で接していくことが大切だと思っています。課題のある子どもに対して合理的な配慮をしたとしても、その配慮についてクラスの全員から理解を得られるとは限りません。クラス全員の子どもたちに納得のいく形で対応をしていかなければ、不信感につながってしまいます。

教師自身の心を開くことも大切でしょう。誰の話でもきちんと聞こうとする姿勢があれば、子どもたちは安心して話をしてきます。そうすれば、子どもたちも心を開くことができるようになるのです。

私は、教師は本当のところ、何かを教えるのがいちばんの役割ではないと思うことがあります。子どもたちの関係をコーディネートすることによって、子どもたちどうしが学び合っていくのを見るたびに、子どもの力を信頼してこその教育だと気づかされます。

荒畑's ポイント

「暗黙の了解」を身につけさせるためには、個人へのアドバイスと集団としてのスキルアップが効果的です。さまざまな個性があることを押さえたうえで、互いが生活しやすい環境をつくってみましょう。


荒畑 美貴子(あらはた・みきこ)

元 三鷹市立第二小学校教諭・NPO法人TISEC理事。東京都公立小学校教諭として勤務しながら、2008年12月よりTISEC(※)の活動を始める。2012年10月、特定非営利活動法人TISEC理事長に就任。専門は教育学。小学校教育における課題とその解決法について研究を行っている。ソーシャルスキル教育の実践も多い。

※TISEC……全ての子どもたちの幸せを願って、より理想的な学校教育の実現を目ざして設立され、主に若手教師の育成、発達障害や不登校に悩む子どもたちや保護者の支援充実のために、メディアによる情報発信と、講演会、相談活動を行っている。

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